秋月秋子のオカルト探求シリーズ

華也(カヤ)

第1話『未来視の占い師』前編

『未来視の占い師』【前編】



著・華也(カヤ)



眠らない街と言われている。

空間が眠らないのか、時間が眠らないのか、生き物が眠らないのか…。

どれも正解でどれも不正解なのだろう。

そんな場所に今立っている私の時間は止まってるのか、動いているのか…。

止まっているとしたら、私の未来はどうなるのだろう…。

動いてるとしたら、これからの未来はどうなるんだろう…?


───────


私の名前は秋月秋子。

名前に2つも秋を背負っている。

なんとも中途半端な季節の名を背負ったのだろう。

空気を読んで、せめて別の季節の名前にするとか考えなかったのかなうちの親は?

小学生、中学生の頃は格好の獲物だった。みんなのおもちゃ。

「秋が2つもついてる」

「秋月だけは2回秋が来るの?」

そんな今からするのどーでもいい事でも、当時子供の私にとっては、非常に傷ついた。

でも、慣れてしまえばどうってことはない。

彼らにとっては抵抗するという事に喜びを感じ、優越感を得るのだ。

それに気づいた私は、世界最強であろう行為

『無視』

を決め込む事にした。

結果はあっという間に出た。

いつもはからかってくる男子が黙り、私に平凡な日常が戻った。

私の勝ちだった。

まあ、別に勝負をしてるつもりはないんだけど、なんとなくの優越感…。

そして、平和な学園生活の真っ只中、私を夢中にさせる事があった。

それは俗に言う


『オカルト』


と言うものだ。

…鼻で笑ったでしょう?ええどうせそうですよ。こんな趣味誰にも理解されないとわかってますよ。

山口敏太郎先生しかわかってくれませんよきっと。

…いや、わからないけどさ。

とにかく、オカルトというものにハマってしまった私の輝かしい学園生活(妄想)。

オカルトであればなんでも興味をそそる。

宇宙人、未来人、異世界人、心霊、降霊術、宗教、フリーメイソン、ゾルタクスゼイアン、異世界、きさらぎ駅、UMA、UFO、未解決事件、陰謀論、神話、童話、…etc。

私を夢中にさせた。

きっかけはテレビで放送していた、嘘臭いエンタメオカルト番組。

宇宙人だったり、心霊だったり、未確認生物だったり、陰謀論だったり。

小馬鹿にされそうなネタばかりを集めましたって感じの番組にも関わらず、たまたま暇なので見てしまった。

見てしまったのが運の尽き。

こういう言い方をすると、完全に殺人犯行現場目撃。私の命危うし!って感じにも捉えられるが、趣味という趣味がない私にとっては、なんとなく生き甲斐を見つけたような気がした。

だってロマンがあるじゃないですか。

もしかしたらっていうIfを妄想するのがいいんですよ!

誰にも迷惑が掛からないし、私だけが楽しい。それだけで充分だと思った。

それから私は、図書室に入り浸り、其れらしい本を読み漁っていた。

完全に子供相手の、この本を出版した編集さんもバカにしながら出したんだろうなという内容のものから、本当に独自に研究している自称オカルト研究家さん達の愛のこもった書籍を読み漁った。

図書室ではすぐにネタに尽き、街の図書館。

そして、挙げ句の果てには、本屋に売っている胡散臭さ100%のオカルト本に手を出していた。

今まで、参考書や友達に勧められた漫画しか買わなかった私が、急に胡散臭さ100%のオカルト本を購入。

本屋の店員さんも、私の顔を覚えているのかは知らないけど、もし覚えていたとしたら、急にノータッチのしかも、胡散臭さ100%のオカルト本を買いに来たよこの子。大丈夫か?

なんて思われてたかもしれない。

でもいいんです。

私の欲求を満たしてくれるんだから。

初めてのちゃんとした趣味。

履歴書の趣味の欄には…書けないなあ(苦笑)

私だったら、絶対落とす。

私じゃなくても絶対落とす。

ヤベエやつが面接来たよって思うし、絶対思われる。

そんな初めての趣味なので、歯止めが効かない。あれやこれやに手を出し、遂にはネットのオカルトまとめサイトや、オカルト板にまで私のオカルト愛は達していた。


───────


そんなオカルトの話題が好きになった私こと秋月秋子ですが、遂には実体験、ロケをしたい欲求に駆られるようになってしまいました。

それもこれも、最近のテレビ業界の要らない規制のせいで、オカルト特番が減ったのも原因の1つです。

子供が怖がるからって、なら見せなければいい。なぜ親の権利を行使しないで、テレビに、スポンサーにクレームを付けるのか意味がわからないです。

そのせいで、夏の心霊特集も減り、番組改編期に放送していた胡散臭いオカルト系特番も姿を消した。

悲しい。私は悲しいです。

これって、草野球が趣味の人に、今日からこのグラウンドは近隣住民のクレームにより球技禁止になりましたと、週末の楽しみを奪われる人と同じです。

私の趣味は、世間によって駆逐されかけている。

ただでさえ、映像技術の発達により、フェイクムービーが増えてるのに、勘弁してくださいよ。

そんな残念なオカルト好きの私は、気づいたら、大学を卒業して、自称オカルト研究家という肩書きをTwitterの裏垢に載せて、ひっそりと活動する社会人へと成長したのでした。

本当はオカルト雑誌のムーの編集に潜り込めればよかったのですが、世の中上手くはいきません。

良くもなく悪くもない中小企業の事務員として働き始めてました。

定時ちょっと過ぎで帰れるので、文句はありません。

その分、私は趣味をエンジョイします。

そして、Twitterで密かに活動している、

"自称オカルト研究家・秋々(アキアキ)"

とは、私のことです。

オカルトに関する持論を載せたり、ロケの写真やレポートを掲載してます。

アンダーグラウンドのオカルト界では、ちょっとだけ名前が知れ渡ってるみたいで、嬉しいです。

今回は何を特集してみようかな?


───────


さてさて、今回は


"夜中に某有名繁華街の路地裏奥のさらに奥に行くと、未来が見える占い師と出会える"


"未来視の占い師"


というネットに載っていた都市伝説を検証したく、私は仕事の休みの日を利用し、ロケをしに行くことに決めた。

まとめサイトの記事には、実際に出会ったという人の体験談が綴られていた。

私が興味を持ちはじめた頃から、オカルト界では話題に上がっていたこと。

体験者は複数人。まあ、ネットが発信源だからフェイクが多いと思うけど…。

体験した人達の発言をまとめると、

・某繁華街

・夜中2時頃(終電がなくなった頃)

・繁華街の路地裏のさらに奥の奥

・1人でないと辿り着けない

・占い料は発生しない

・こちらの意向に沿って、1つだけ未来を聞ける

・ほぼ近い形で未来占いは的中する

・占い師の性別がわからない

・一度遭遇したら、二度と会えない

とまあ、この辺は統一性があるもので、体験者によっては違う意見のも勿論ある。オカルト系では誰かが右と言えば、別の人は左と言う。

そういう事が当たり前なのだ。

なんせ"自称体験者"なのだから、意見が食い違って当然。

バラバラな体験談としては、

・占い師は男性だった

・占い師は若い女性だった

・占い師は老婆だった

・占う対象者に関する事しか占えない

・未来予知を外していた

・違法ドラッグを渡された

・実はドラッグの売人

・路地裏をひたすら右に曲がると到着する

・路地裏をひたすら左に曲がると到着する

・路地裏を左右順に曲がると到着する

・普通の占いは5千円、未来占いは5万円

などなど、嘘か本当かわからない情報も上がっている。

勿論、ネットの自称体験者なんて、殆ど創作なのだろうけど、なかなか検証甲斐のあるオカルトだ。

一番意見が多いのが、

・占い師は女性

・繁華街の路地裏奥のさらに奥

・占いは1つまで

・的中する率ほぼ100%

この辺りが信憑性が高いと思える。

私のオカルト脳がそう告げてくる。

当てになるかは正直微妙な私のオカルト脳。

とりあえず、明日の土曜の夜にロケしに行こう。

リュックの中には、役に立つかわからない、懐中電灯、暴漢撃退スプレーなるもの、ビッグカメラでボーナス一括払いで買ったデジタルカメラ(赤外線付き)、通路をメモするためのボールペンとメモ帳、非常食のカロリーメイト、ミネラルウォーター…。

完全に防災リュックである事に気付きつつも、何があるかわからないこの、恐怖感と遠足感が混じったワクワクを胸に抱き、今日は就寝しようと思う。

あ、一番大事なこと忘れてた。

いつもの相棒にLINE電話をして、事情を説明。明日空いてるか、同行してくれるかをチェックし、okを貰ったので、安心して部屋の電気を消す。

寝る時に欠けている音楽は、20代の女性に似つかわしくない、YouTubeに上がっている都市伝説まとめBGMだ。

こんな残念22歳女。

どおりで彼氏ができないはずだ…。

いいもん。オカルトが恋人だし。

そんなことを考えながら瞼を閉じる。

何度も何度も聴いたことがある都市伝説を語る芸能人の声が耳に入っては、脳で処理されずに消えて行く。


───────


ロケ当日、私は気分は完全に遠足に行く小学生のそれであった。

家を出る前にリュックの中を確認する時なんてまさにそうだ。

今回は繁華街だ。服装は変に気取らなく、普通にカジュアルなパンツスタイルでいいかな。

と、動き易さ重視のパンツとヒールではなく、いざという時走れるようにスニーカーで家を出た。

まあ、見た目はこれから休日のショッピングか飲み会かな?と電車の中の乗客には思われてたに違いない。

すみません。オカルトロケです。

なんなら、スマホゲームに勤しんでいる人が多い車両の中、ガッツリオカルトまとめブログ読んでました。

すみません。中身だけなら、職質間違いなしですよね。

オカルトロケをしに行くための移動中でもオカルトブログですよ。

もう、オカルトと結婚するしかないですね。

そんなふざけた事を考えている間に目的の駅へ到着の車内アナウンスが流れた。

なんとなく中川家の礼二のモノマネを思い出しつつ、私はサイトを閉じ、スマホをパンツのポケットにしまい、駅改札出口で待ち合わせしている相方の方へと向かった。

「先に着いてるから」

とLINEがあったのは、電車の中で確認した。

改札出口に視認できた。

私とは違い、パンツスタイルを綺麗に着こなし、髪はベリーショート、細身だけど、程よく贅肉ではなく筋肉がついているスタイル抜群で、目つきはキリッとしている女の子に好かれる女の子って出で立ちの美人さんが改札を出た近くの壁に寄りかかっていた。

そんな完璧美人さんがオカルト女の親友であり、ロケに同行してくれている相方とは誰も思うまい。


───────


最初の一言目は決めている。

「お姉さん綺麗だねえ〜。おじさんとデートしない?」

ビシッ!

オデコをデコピンされました。

「アキは毎回それやるね。気に入ってるの?」

そんな訝しげに見てくる彼女の瞳は綺麗で澄んでいる。

例えるなら、南国の海の色のように。

私はどす黒く濁っているのであろうと自己嫌悪。

「気に入ってるというか、トウちゃん見るとやりたくなるよね。綺麗だから」

最後の綺麗だからって言葉に反応したのか、もう一回デコピンを用意してた手を下ろした。

トウちゃんこと上田冬子(うえだとうこ)。

ボーイッシュで、身長も168あるらしく、スタイル抜群。

私なんて153のチビですよ。

胸も程よくあり、私以外の人が見ても綺麗だと思える容姿をしている。

もうモデルさんみたいですよ。というかモデルですよ。

出会いは高校生の時に、後ろの席がトウちゃんだった。

お互いどう仲良くなったのかは覚えてない。

ただいつのまにか話すようになって仲良くなって、親友というものになっていた。

親友なんてそんなものなのかもね。

私は秋でトウちゃんは冬。

これは運命だー!と騒いでた高校の頃が懐かしい。

あとは春と夏を揃えれば、何かが起きると言ってデコピンされてた高校時代。

こうやって、社会人になっても、いまだに親友としていてくれるのは正直嬉しい。トウちゃんが居なかったら、相当悲惨な高校生活だったろうと恐怖を感じる時もしばしば。

トウちゃんはトウちゃんと呼ばれることに最初は抵抗があったが、今となっては固定化している。

最初の頃は、トウちゃんと呼ぶと、アキのお父さんみたいで嫌だって言われてたのが懐かしい。

トウちゃんは私のことをアキと呼ぶ。

呼び捨てで呼ばれることに、お互いの距離感が近い事の証のようで嬉しかったり。

それにしても遠くから姿を確認した時も改めて思ったけど、スタイルいいなあ。

学生時代空手部に所属していたトウちゃん。

実家が空手道場なので、成り行きでってらしいけど、学生の時から全く太ってない。無駄な贅肉がついていない。体脂肪どこいった?と小突きそうになるも、返り討ちにあうのが関の山なのでやめておく。

トウちゃんはスポーツジムのインストラクターをしている。

トウちゃんらしいアクティブな仕事だ。なんか爽やかだ。

大学はどこでもよかったらしく、私と同じ大学に入った。

勉強がそんなに得意でなかったトウちゃんは、私と一緒に猛勉強をして大学に無事入学。無事卒業をした。

いつか独立して自分のスポーツジムを経営したいと話してくれたトウちゃん。

眩しいっす。

私はいつか、山口敏太郎先生に弟子入りするという謎の夢を持っているが、それをバカにすることはしない優しいトウちゃん。

もう、私と結婚しようよ。

「嫌だ」

あ、声に出てた?ごめんごめん。

そんないつものおバカなやり取りの後に、

「お腹空いたから、ご飯食べながら詳細聞く。近くのファミレスでもいい?」

と返事をする前に私の手を引いて、近くのファミレスに向かう。

ファミレスのカロリー高いメニューを食べたところで、トウちゃんは太らないからいいよね。私は…ドリンクバーとサラダにしておこうと心に誓うのであった。


───────


ファミレスにて、私は予定通りサラダとドリンクバー。

トウちゃんはハンバーグセットとドリンクバー。

なんか、子供っぽいメニューのセレクトに中身は何も変わってないんだなあと安心感を得る。

「で、今日はどこに何しに行くの?」

食べ終わった後、今日の本題について聞いてきた。

昨日はいつものロケ行こ!ついて来てとしか伝えてなかったから、詳細を知らない。

私は外にロケ…いや、ちょっとプロっぽく取材と言おう。現地取材しに行く時は、必ずトウちゃんを誘う。

それは1人では寂しいってのもあるし、なによりも私の用心棒をしてほしいからである。

トウちゃんは、私がオカルトが好きなのは知ってる。特に肯定も否定もしないから、ありがたいです。

全否定されたら、流石に凹みますので…。

なので、この日にこの件についてロケ…じゃなかった、取材しに行くからって言うと、特に用事がない時はついて来てくれる。

最初恐る恐る誘ったら、なんか面白そうだから一緒に行くと言ってついて来てくれたトウちゃん。

それ以来、必ず声をかけるようにしてる。彼女も外に出歩く事自体がとても好きなので、ついてきてくれる。

予定がある時は、仕方なくソロで行くけど、殆んどはトウちゃん同行取材が多いです。

トウちゃん曰く、こんなちっこいのが危ないでしょ。用心棒だね。と言ってくれた。

親友ありがたや。

でも、前の心霊スポットロケの時のあの怖がりようは…萌えました。

トウちゃんかわええな。

まあ、その話はまた別の機会に。

さて、本題に入ります。

「今回は、深夜、繁華街の路地裏奥のさらに奥に行くと現れて、未来を占える謎の占い師を探しに行こうと思います!」

今日の目的を伝えてる時の私はこれでもかというドヤ顔で右手親指を立て、GOODポーズをとっている。

「繁華街の路地裏?なんか危なくない?しかも深夜?怖い人いそうじゃん」

少し心配そうな目をしている。

私はすかさず、

「大丈夫!変な人がいたら、トウちゃんの真空飛び膝蹴りが炸裂するから!」

バチンッ!

本日2回目のデコピンをいただきました。

「そんなに調べたいの?」

またもそんなジト目されたら…ちょっと嬉しいじゃないですか。

「取材ね!取材」

とトウちゃんの言葉に訂正を入れて続ける

「この占い師の話は結構前から噂があったんだよ。私達が高校の頃から。仮に存在していたとしても、もう死んじゃってたり、テリトリー変えちゃってるかもしれない。でも、まだ目撃情報も一応はあるからさ!」

「どこ情報?」

「まとめブログ!」

バチンッ!

…本日3回目のデコピンいただきました。さすがに痛いです…。

トウちゃんは呆れたように

「仮に出会えたとしたら、未来?だっけ?アキは何か未来について聞きたいことでもあるの?」

ドリンクバーのグラスの中の氷をストローでクルクル回しながら聞いてくる。

ちなみにトウちゃんの飲んでるドリンクはメロンソーダです。

味覚が中学生です。

未来について聞きたいことがあるか…。

そういえば、何を聞くか全然考えてませんでした。

未来視の占い師がいるかどうかが目的であり、私の未来の事を聞くっていうところまで考えてなかった。

完全に思考がオカルト脳なので、いるのかいないのか、嘘か本当か。

それが重要なわけで、それ以上の事を望んではいない事に親友に気付からされた。

ここは正直に言おう。

「聞くこと何も考えてなかった。だって、未来が見える占い師がいるかどうかだけ知りたかったんだもん!」

ハッキリ正直に言った。

その時の私の瞳の色はきっと輝いていて、オーロラを観測できた南極調査隊のようだろうと思う。

トウちゃんはため息まじりで

「アキは相変わらずだね。でも、本当に居たらのために、占って欲しい事用意しておけば?」

トウちゃんはグラスにメロンソーダが無くなって、ちょっとドリンク取ってくるねと言って席を立った。

うん。確かに占い師がいた時に、用意しておくべきかも。

うーん。

と少しだけ考えてる途中にトウちゃんがメロンソーダと私のウーロン茶もついでに持ってきてくれた。

ウーロン茶をありがとうと受け取り、何を占ってもらうか考えている私を見て

「特に無いならザックリしたのでいいんじゃない?結婚は何歳でできますか?とかさ」

「…なるほど」

と軽く相槌をして、改めて考える。特定の事が無ければこれで良いのでは?というのが浮かんだ。

「決めた!」

「なに?」

「"幸せな人生をおくれますか?"で」

「…超シンプル」

トウちゃんは、少し笑いながら突っ込んでくれた。嬉しい。

「トウちゃんはさー、もし居たらなに聞く?」

話の流れでなんとなく聞いてみたら

「うーん……。"アキとこれからも仲良くできますか"……かな」

え?なにこれ?なにこの可愛すぎる生き物。最高なんですけど。

「トウちゃんのツンデレのデレの方が出たね」

パチッ

4回目のデコピンいただきました。

でも今回のは力加減が優しい。

やっぱデレてますね。私の親友は可愛いです。

私も照れ隠しに、せっかくなんでも聞けるのにそれ?と茶化す。

でも、それを聞くのって、私の方が普通じゃん!と返して、いつもの高校からの2人の会話に自然になっていく。

取材開始時間は深夜2:00から。

ファミレスの閉店時間は1:30。

今はまだ11時。時間は有り余っている。

親友とお喋りするってだけの時間くらいいいよね。息抜き息抜き。

閉店までドリンクバーで粘るのは気が引けるけど、この後が大変なのだから、ゆっくり息抜きしよう。

とりあえず、またドリンクおかわりしよう。相変わらずメロンソーダしか飲まないトウちゃんとウーロン茶しか飲まない私。

2人の関係も行動も、高校の頃から変わってないなと少し実感したのは、別の意味で良い経験でした。


───────


さてさて、女子トークに終わりはなく、あっという間に1:30になり、店員から早く帰れこの野郎という目線をよそに、会計を済ませて外に出る。

「さて、行くんでしょ?」

「うん!」

と言っても、深夜の繁華街という情報だけで、どこの路地から入るという情報はないのだから、ランダムに入るしかない。

時間帯が時間帯だから人も少ない…ってことはなく、土曜ということもあり、結構人が多い。

これならそんなに怖くはないかも。

そんなことを考えながら、とりあえず適当に散策を始めた。

まずは、入る路地探しから。

深夜の繁華街って、いろんな人がい過ぎて、情報過多になりそう。

酔っ払って電柱に寄りかかっている人、飲み過ぎでゲロしてる人、それ人の背中をさする人、夜のお店のキャッチの人、黒塗りベンツの前にいる怖いお兄さん方、国籍が分からないけどとりあえず外国人の人達、朝方までやっている居酒屋の騒ぎ声、挙げ句の果てには、酔っ払い同士の喧嘩。

怖い怖い。

深夜の都心怖い。

早くロケ…じゃなかった。取材して、休まりたい。

実在しないオカルト心の好奇心が実在している人の恐怖で塗りつぶされそう。

そんなビビリの心境を知ってか知らずか、トウちゃんは

「あの人吐いてる」

「ねえねえ。あの人ってヤクザかな?」

「あそこのカップル、喧嘩してるよ」

などと、視界に入っている情報をわざわざ言葉にして私に言ってくる。

堂々とし過ぎでしょと思いながらも、頼もしい親友がいるから大丈夫かという心の余裕が少しでき、路地探しに勤しんだ。

15分ほど徘徊をして、いい感じの先が見えないタイプの路地を見つけた。

時間も深夜2時になろうとしていた。

「ここ…から入ってみよう…」

恐る恐る隣にいる少し眠くなってきたのか、目がトロンとしたトウちゃんの袖を引っ張る。

「う?うん。いいよ〜」

眠気のため、すっごい返事がテキトーになってるなと内心思いながらも、okを貰ったので、私は準備に取り掛かる。

準備と言っても、左手に懐中電灯、右手にスマホ。

あとは、万が一のために、暴漢撃退スプレーをパンツの左ポケットに入れ、スマホのロックを解除して、カメラを起動される。

そして、ビデオに変え、録画を始める。

いざ行くとなると、こんなにも賑やかな繁華街と言っても、奥が真っ暗なので怖いが、未来が見える占い師の存在を確かめるために、私は行くよ。

トウちゃんは準備いい?と振り向くと、スマホのライトを点灯させた。

ほとんど頼りにならないほどの灯りだけど、無いよりはマシ。

そして、真っ暗闇の路地に潜入する。

あ、その前に、ツイッターでロケしてきますって呟いておこう。


秋々@自称オカルト研究家

@occultic_akiaki

『これから、都市伝説の"未来視の占い師"の存在を確かめに行ってきます』


───────


暗闇の中、持参した懐中電灯。

アウトドアショップで買った結構明るめのお高いやつ。

目の前は照らせるけど、私自身周辺はあまり照らせない。

後ろについてきているトウちゃんに、私の周辺を照らしておいてって言おうと振り返ると

「……zzz」

…ほぼ寝てるやん!どおりで全然背後から灯りがないと思ったよ。

最初は私が袖を掴んでたのに、いつのまにか逆に掴まれてるよ。

振り払ったら、置いてっちゃうよ。

肝心なところでこの親友はお荷物になった。

私の袖をちゃんと掴んでいるがゆえに、一応は前進できているけど、もはや寝てるから。歩いてるけど寝てるから。

もういいよ。

暴漢に襲われそうになったら起こすから、ドラクエみたいにそのままついてきて。

まさかレベル1が先頭で、レベル80くらいありそうな勇者が後ろで寝てるよ。

こんなパーティーでは、魔王を倒して世界なんて救えやしないよ。

いやいや、私は魔王を倒して世界を救いに来たのではない。

都市伝説の"未来視の占い師"の真実を確かめに来たのだ。

路地は本当に入り組んでいて、真っ暗なダンジョンのようだ。

右に曲がるか、左に曲がるか、私が決めなくてはいけない。

なんとなくだけど、繁華街の雑踏が聞こえない方へと曲がり歩を進めてみる。

あんな賑やかな雑踏が懐かしいくらい、ほぼ無音。

時々、室外機?かな。稼働している音と、水の雫がどこにあるかわからない水溜りに落ちる音。

そして私達2人の足音以外何も無い。

闇に相応しい状況である。

1つ安心したのは、映画やアニメで見る、路地裏でのドラッグの売買はしていなさそうだった。

よかったあ。もしそんな人がいたら、私はドラッグを買わされてたのだろうか?

どっちがいい?ダウナー?アッパー?

心情的にはアッパーのでお願いしたい。

テンション上げたいよ今。テンション上げたい、なうだよ。

違法薬物を使用した事は当たり前に無いのですが、変にネットサーフィンして、裏サイト?ブラックサイト?ダークウェブ?アングラサイト?だっけ。

そういう記事を載せた、グレーのサイトでなんとなしの知識があるだけで、あとは映画やアニメでの中二病知識の賜物なわけでして。

使用したら、ヘンゼルとグレーテルの気分を味わえるとか、もう怖すぎです。

私は使えないというか、違法だから使わないし。

ただ、今くれるならアッパーにしてください(苦笑)

そんな事を考えながら奥へ奥へ進んで行く。

ひたすら狭い道が続くだけで、広い場所になんて出やしない。

もしかして、もう帰れないんじゃ無いかな?って不安になってしまうほど何も無い。

闇だけがレベル1の私とレベル80の半分寝ている親友を包み込む。


───────


闇は続く。

先を照らしても変わらぬ闇。

闇にも慣れてくると、路地の輪郭が見えやすくなってきた。

壁が少し凸凹している。

雨も降ってないのに水溜りがある。

そして、人がいた事をさっき知った。

青い大きい生ゴミとか入れるのに使われるスタンダードな大きく丸いゴミ箱の陰に、寝ている人。

見つけた時は、心臓が止まるかと思った。

後ろで半寝しているトウちゃんを起こそうと思ったけど、恐怖で体が硬直した。

数秒の沈黙の後、その人はただゴミ箱に寄りかかって寝ているだけだった。

それが分かると、体の硬直は解けた。

「ホームレス…なのかな」

ボロボロの衣服。髪もクシャクシャ。

多分そうなんだろう。

こんな闇の中で寝る事ないのにと思ったけど、静寂を求めるなら、確かにここはうってつけだと思った。

でも、暗いだけならまだ分かるけど、この闇の中にずっといると頭がおかしくなりそうにならないのかなとも考えてしまう。

私ならおかしくなる。

現に後ろのレベル80の勇者がいなかったら、怖くてすぐに逃げているところなのだから。

こんな闇の中に仮に占い師がいたら、そりゃあ超能力持っていてもおかしくないかも。

そう思えるほどに、この闇は生きてる人には毒だと思った。


───────


右に左に路地を曲がり歩き続けた。

…それにしてもおかしい。

いくら路地裏でも、こんなに歩いてるのだから、どこか行き止まりや別の通りの道に出てもおかしくない。

2時から30分ほど歩きに歩いて、今は2:35。

進めど進めど、同じ道のような気がする。

どこにも占い師っぽい人なんて居ないし、やっぱり都市伝説なんて、オカルト作家の創作なんだろうか…。

少し残念。

そう思ってようやく私のオカルト心も観念したようで、帰ろうと決心し、繁華街の雑踏の僅かな音を拾いその方向に踵を返す。

どこまでも同じ道のように見える、闇の道。

でも、雑踏の音が大きくなって行くにつれてこれで終わりかと残念な心持ちで歩を進めると、少しだけ広い路地に出た。

さっき適当に進んでた時にはこんな広い路地には出なかった。

月明かりが丁度さし、闇が消えてる空間。

その路地は月明かりが照らされ、奥まで見えた。

奥は行き止まりみたいで、壁が見える。

そして、さっきまで聞こえた雑踏が急に聞こえなくなった。

まるでそう。

ここは時間が止まっているような、そんな静けさの中行き止まりの壁の下の方に視線を落とす…

月明かりが照らす路地の奥に…





そう…。

それは行き止まりの路地の奥に居た。

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