第11話「灰色の呪術導士」前編(改訂版)

 第十一話「灰色の呪術導士カース・メイジ」前編


 ズバッ!


 俺の右手に握った短剣ダガーは手応え無く空を斬り、目前の人をかたどった黒い霧は霧散して消えた。


 シュォォーーン


 そして少し離れた位置に再び、その霧は人型となって集結する。


 ――やはり”呪い”……思念系このての怪物には単純な物理攻撃は効果が無いか……


 俺は短剣ダガーを構え直してから視線は敵を見据えたまま、後ろにいる蒼い髪の少女に声を掛けた。


 「マリ……アラベスカさん、ここはお前の魔法攻撃で……」


 「いやよ」


 「そうだよなぁ、ああいう手合いにはやっぱり魔法が効果的……ってなんでっ!?」


 思いも寄らない”にべ”もない返事に、俺は独りノリツッコミをかましていた。


 「あんな小者相手に、誇り高き竜人族の私が出る必要はないでしょう?」


 愛用の槍を握りながらも、竜の美姫は”呪いの黒霧人”との戦闘には参加する気が無いようだった。


 「……」


 ――なんだ、その当然でしょ?ってすかした顔は……


 この事態になんて勝手なと、俺は溜息をく。


 「お前なぁ……相性とか効率ってものを少しは考えて……」


 「私はこの件の黒幕を捕らえるわ、貴方はそっちでその幽霊おもちゃと遊んでなさい」


 そう言って蒼き竜の美姫は、輝かんばかりの蒼い髪と瞳でニッコリと笑った。


 「テメェ、このあまっ!だから相性ってものを……」


 ――有り得ない!なんなんだ、この我が儘ぶりはっ!!


 「そうよ、相性最悪ね、私と貴方は!」


 ダッ!


 「おいっ!」


 そう言い捨てて、彼女はもう既に坑道遺跡の入り口に向かって走り出していた。


 ブワワッッ!!


 「っ!?」


 黒霧と俺を置き去りに、魔導士メイジ……いや呪術導士カース・メイジが潜むであろう坑道遺跡に侵入しようとした彼女を突然、その黒い霧が覆う!


 「しまった!!」


 俺の目の前には既に人型の黒い霧はいない!


 マリアベルとの会話のため、一瞬、意識が逸れた瞬間に、黒霧の怪物は霧散して彼女の方へ移動したのだ。


 「っ!!このっ!!」


 ブンブンと槍を振り回し、自身に纏わり付く黒い霧を振り払おうとする少女.


 だが、それは”やはり”意味を成さない。


 「マリアベルっ!だから魔法だって!!いや、武器に付加魔法エンチャントでもいい!」


 ブンッ!ブォン!


 しかし、彼女は俺の忠告を無視して槍を闇雲に振るい続ける……


 「な、なんで……」


 俺には理解出来ない……なんだその戦い方は……


 蜂の大群に襲われて闇雲に腕を振るう如き無意味な行為を続ける彼女に、俺は業を煮やして……


 「もういい!なら俺が……」


 魔法ならマリアベルの方が断然上手だ。

 いや、それ以外でも彼女のレベル、強さは俺の比じゃ無いはずだ。


 だから任せようとした……

 だがこれでは意味が無い!


 諦めた俺が魔法を放とうとした瞬間だった。


 「きゃっ!ああぁぁっーー!!」


 マリアベルの悲鳴が響き、群がった黒霧によって彼女の四肢は完全に捕捉されてしまっていたのだ。


 ――ギギッ……グググッ


 彼女を覆っていた黒霧が細長く姿を変え、それは少女の鎧の、衣服の上から纏わり付き……


 ――ギュルル……ギリリッ


 少女の太ももに、腰に、胸から両腕に……蛇のように幾重にも絡み付いて締め上げる!


 「うっ……は、はぁっ……くっ!」


 ギリギリと彼女の白い肌に食い込む黒い蛇は、ウネウネとうねりながらもその力を徐々に増してゆく。


 「あぅっ!」


 カラァァンッ!!


 そして、とうとう……

 彼女の左手から、魔槍が音を立てて地面に落ちた。


 「くそっ!”我が刃にいかずちの加護”をっ!」


 即座に俺は自身の短剣ダガーに雷系の魔法付加を与えて構えるが!


 ギリリリリッ……


 「あ……うぅ……」


 その時には、完全に四肢を絡め取られたマリアベルを前にどうすることも出来なくなっていた。


 「……」


 ――下手に攻撃するとマリアベルが……ちっ!どうする俺?


 ギリギリ……ギギ……


 「うっ……はぁっ……」


 そうして躊躇している間にも黒い蛇は彼女の太ももを無遠慮に擦り上げ――


 ズズ……ズズズ……


 「う……や……やだ……くぅ……」


 同時にその呪いの蛇に圧迫され、身体からだにピッタリと張り付いた布が、スカートが……

 ジワリジワリと上方へ捲れ上がってゆく。


 「…………」


 ――いやいや、見とれてる場合じゃ無いだろ!俺!?


 蒼い竜の美姫の露出した白い太ももに、思わず視線を張り付かせる俺だったが、ホントに今はそれどころじゃ無い!


 ギュムムッ……ギャリ……


 ガチャァァンッ!!


 「あぅっ!」


 巻き付いた呪いが彼女の胸当ての鎧……その留め金部分を弾き飛ばした事により、それは無惨に地面に落ちた。


 ――うぉぉっ!こ、これは!?


 か細い腰から華奢な肩まで、横に縦に斜めにと巻き付いた無数の黒い蛇が締め上げるほどに……


 彼女の軟らかそうな双房バストが……


 覆っていた堅い鎧を失って、衣服の上からもその形が十二分に堪能できるようになった隆起が……


 ――ごくりっ……


 絞り出されて見事な膨らみを形作っていた。


 「け、結構あるな……」


 この状況にも拘わらず、俺はつい、愚にも付かない感想を漏らす。


 ギリリリッ……


 「ああ、うっ……はっ!」


 ――いやいや!駄目だろ、変な劣情をもよおしている場合じゃ無いだろっ俺!?


 ブンブンと頭を振り、強引に雑念を振り払った俺は、愛用の短剣ダガーを構え直した。


 ――どう対処する?


 「……」


 何処どこに”斬りつける隙”があるか観察する。



 「フハハハハァァーー!!これが竜人族だと?なんだ口ほどにもないではないか!」


 ――っ!?


 今度はヤケにハッキリと陰気で嫌みな声が響いたかと思うと、そこには――


 「グフッ……フハハハッ」


 坑道遺跡の入り口付近に、一人のローブ姿の男が立っていた。


 「……」


 灰色ローブを頭からスッポリ被った老いた男。


 フードから覗い見える顔の頬は痩けて、常軌を逸した光りを宿す両の目だけが爛爛と輝いている。


 「フン、如何いかに我が”大呪殺カース・オブ・カオス”が偉大だとはいえ、こうもアッサリと手も足も出ないとは……何が最強種だ!片腹痛いわ!」


 そう勝ち誇りながら灰色ローブ姿の男は、ゆっくりと、囚われの蒼き竜の美姫に近づいてゆく。


 「おい!お前なにをっ!?」


 それを阻止するために動き出そうとする俺だが、灰色ローブ男はギラリと濁った眼光と節くれ立った手のジャスチャーで俺の行動を制した。


 ――少しでも動けばこの女を絞め殺すぞ……と


 「……ちっ」


 俺は短剣ダガーを構えたまま、その場に佇むしか無い。


 「ふぅむ……なるほど、なるほど」


 「くっ!……う、うぅ……」


 そしてマリアベルの直ぐ近くまで歩み寄った灰色ローブ男は、無粋にもしわくちゃの顔を寄せて動けない少女の顔を覗き込む。


 「これは……氷雪竜フリージング・ドラゴンか?……珍しい……ははは、竜人族でもとびきりの珍種ではないか」


 「っ!!」


 ”珍種”という男の言葉に侮蔑を感じたらしい美少女は、キッと蒼石青藍サファイアブルーの瞳で相手を睨み付ける。


 ギギッ!


 「うっ!はぁぁっ!!」


 だが途端に黒い蛇が彼女を一層締め上げてその態度を制圧した。


 「フハハッ!気の強いことだな虜囚め!なるほど……珍種のうえにこれは中々の……いや、とびきりの実験材料といえる」


 灰色ローブ男は、不躾にも拘束されたマリアベルの露出した白い太ももを……

 絞り出され形の浮き上がった彼女の双房バストを……


 「フフン、なるほど良い材料だ」


 イヤラシく、ネットリとした視線を這わせて堪能する。


 ――こ、このっ!エロジジィめっ!俺のベルちゃんにっ!!


 俺は先程までの自分を全く棚に上げて、眼前の呪術導士カース・メイジを睨み付けていた。


 「解せんくらいに脆い竜人だが……我が実験の材料としては又と無い。ゆるりと可愛がってやろうぞ」


 エロジジィ……呪術導士カース・メイジは、巻き付いた呪詛によって両腕を後ろに拘束され、仰け反った状態の無防備なマリアベルの太ももに指を伸ばす。


 「てめっ!コラッ!このロリコンっ!」


 見た目でよわい七十は超えるであろう年寄りに、俺は抗議の罵声を浴びせる!


 ――ツツ……


 節くれ立った枯れた指が、瑞々しい白い肌を伝う。


 呪術導士カース・メイジは俺の罵声など全く気にも留めずに動作を継続していた。


 「フォフォ、まこと絹のように滑らかな手触りよ、この品質クオリティなら良き実験台となろう」


 「……っ!」


 まとに声も出せず、全身を黒い呪いの蛇に締め上げられて無防備を晒して立つ……いや、頼りない足元ながらもその格好を強要されたマリアベル・バラーシュ=アラベスカ。


 「とりあえずはこの供物くもつ如何いかほどか、色々と調査してみるとするか」


 敵意の籠もった視線を向けるだけが精一杯の竜の美姫を嘲笑うかのような老人は、そう言って好色な目で少女を物色し、わらっていた。


 第十一話「灰色の呪術導士カース・メイジ」前編 END

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