俺の就職先は異世界のホストクラブ

卯月みお

第1話 死の境で見た物

きらめく星のように周りを照らす子になってほしい」

 それが俺、京極きょうごく煌星こうせいの名前の由来だ。

 だが、生まれてからは「目つきが悪くて怖い」だの「京極さんとこはまともじゃないから遊んじゃだめ!」だの言われてきた。

 当然、煌めく星にも周りを照らすような人間にもなっちゃいない。照らすようなやつもいない。


 俺が15の時、親がいなくなった。

 実質、捨てられたようなものだ。

 卒業式の日、オフクロは「仕事がある」といって、仕事に行った。

 オヤジは、とうの昔に出て行った。よその女のもとに行った。

 卒業式から帰ったら「ごめんなさい」とだけ書かれた置き手紙と30万円が机に置いてあった。

 それから俺は必死に考え、バイトを探したがだめだった。そりゃそうだ。親も学歴もない中学を卒業したばかりのガキなんて雇うはずがない。

 運の悪い事に俺の家はアパートだった。そこに住むという事は、家賃を払わなければいけない。

 オフクロがいた頃から家賃を滞納していたらしく、大家に「悪いけど、出て行ってくれるかな」と言われてしまった。

 俺は自分の荷物をまとめ、自転車に乗ってとぼとぼとアパートを後にした。

 これで、親も収入も学歴も家もない、ゴロツキの出来上がりだ。

 あまりの現実の厳しさに、俺は思わず、俺の職業はゴロツキかよ、と乾いた笑いを漏らした。


 それからは、就職など出来るはずもなかったため、その30万円で食い繋いだ。

 が、切り詰めても金はなくなる。30万円という金は2年で消えた。

 今年の夏で俺は18になったが、金が無くなってからはちょうでスリや盗みをして、路地裏で生活している。

 最初の方はバレてしまっていたが、半年もしないうちにバレずに出来るようになった。


 だが、今はまた新たな問題に直面している。金が尽きてしまったうえ、もう行けるしちが無くなってしまったのだ。

 俺は盗んだ物を質に入れて金に変えてきた。高校生くらいにしか見えない汚いガキが金目の物を持って質屋に来たら、誰だって怪しむに決まっている。

 きんになる度に質屋を変え続けてきた結果、自転車で行ける範囲の質屋は全て出禁になってしまった。


 もう何日も何も食べていない。なけなしの金で買った水をちびちびと飲んでいるだけだ。

 俺はこのまま死ぬのだろうか。

 力なく路地裏の壁に横たわっていたその時、目の前の電柱が視界に入った。

 いつもなら目を逸らすが、何かが書いてある。

 なぜか俺はその「何か」がすごく気になった。

 ふらふらと立ち上がると、護符ごふのような不思議なマークだった。

 多分、俺がいない時に誰かが書いたのだろう。

「いっそ違う世界にでも行きてぇな……」

 と呟いたその時だった。

 目を開けていられない程の光に包まれた。次の瞬間、目を開いたら、色とりどりのネオンが光る夜の街。

 歌舞伎町のようなその街に、俺はいた。

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