張りぼての大仏の思い出2
@mariko1920
大仏完成、その後のまさかの結末・・・
大仏制作のため、折り紙セットがいくつも持ち込まれた。しかし必要だったのはその中の金色のみで、貼っても貼っても足りない具合になったので、途中からペンキが導入された。車屋をしていた誰かの家から持ってきたものだった。大仏は色紙の上からぺたぺたとハケで塗られていたので、色紙が時々はがれてハケにくっついた。ところどころ、色紙がはがれた箇所は粘土の茶色がのぞき、ずさんな制作が見え隠れしていた。大仏はそれでもクラスメートの尽力のかいもあって、ついに完成した。
完成した大仏を見に来た他のクラスの子達は、「おお、すごい」と一応声をあげ、「それで、大仏なんで作ったん?」とその後必ず聞いていた。「社会の授業で奈良の大仏見たから」とか「大仏ってかっこいいじゃん」など、しどろもどろで誰も満足に答えられていなかった。
大仏はその後教室の後ろに置かれ、掃除の際のほこりを被り、掃いたほこりが足元にたまり、だんだんすすけた色合いになっていた。あれだけ提案の際には騒がれ、張り切って制作されたのに、今はただの巨大なモニュメントになっている。誰もそこで拝んだり、花を置いたりする者はいない。薄汚れて、ついには誰も気に留めなくなった。誰も後のことを考えていなかったのだ。
そして卒業間際、あの大仏の末路はなんと、裏庭で焼却されたのである。大仏の
扱いについて、HRで話し合われ、満場一致で「燃やしてしまう」に決定した。ついでに「願い事のお札」をつけて燃やそうという、歴史上前例に無いことまで提案された。その理由が「早く成仏して欲しいから」で、大仏を教室の自縛霊か何かと勘違いしているようだった。担任はその様子を見て、「いいですね、みんなの願いを込めましょう」とまたもや深くうなづいた。果たして大仏は叶えてくれるどころか、早良親王のように祟りを降らせるんじゃないかと、私は盛り上がるクラスメートを見て懐疑的になった。最初は歓迎され、最後には邪魔になって葬られるなんて・・・子供はおもちゃを欲しがるが、すぐ飽きる。かつて黄金に輝いた大仏は、たった1ヶ月激動の人生を終えるのだ。
最後の日、大仏はクラスの男子に担がれ、中庭に安置され、その時を待った。みんなが「願い事のお札」をべたべたと体中に貼り、大仏はまるで、いわくつきの置物のような出で立ちになった。お札を貼るときに、ある子は「ずっと元気でね」とポツリとつぶやいた。・・一体何の思い出があるのだろう。
やがて用務員さんがチャッカマンで火をつけた、大仏はメラメラと炎に包まれ、赤く燃え上がった。私はその様子を今でも覚えている。勢いよく上がる炎の中からは、
大仏に貼られた金色の折り紙が剥がれ、もえかすになり、黒い煙をあげていた。
ここでもし私が、消え行く日本の文化遺産の云々・・・と言いながら笑っていたら危険な思想の小学生だっただろう。燃える様子がただ不気味に感じただけだ。張りぼての大仏は、最後に図々しく願い事を押し付けられたあげく、卒業と同時に誰の話題にもあがることはなかった。
張りぼての大仏の思い出2 @mariko1920
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
精神障がい者の日記最新/羽弦トリス
★51 エッセイ・ノンフィクション 連載中 497話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます