第40話 不意打ち

「レアーニャ様、整形されたそうです」

「レアーニャ?ああ、あのブスか。良い事じゃないか」

「勇者様のせいですよ!」


女性が美しくなるのは素晴らしい事だ。

何故少年が怒っているのか理解できん。

さてはこいつ、見下してたブスが自分より綺麗になったんでへそを曲げてやがるな?


「少年。嫉妬は良くないぞ?悔しいならお前も整形して美人になればいい」

「するわけないじゃないですか!寿命が縮むのに!」


縮む?寿命が?

言葉の意味が理解できず馬鹿面を引っ提げていると、アルビダが説明してくる。


「整形には強力な呪いが必要だからね」

「え?なんで?」


整形と呪いの因果関係が全く理解できん。

人生に大きな十字架を背負う的な呪いだろうか?

だとしたらオーバーな奴だ。

そんなもんは気にしなきゃ良いだけだ。


「脳内検索かけて見な?」


そうするとしよう。

てか何でアルビダが検索の事知ってんだ?

少し引っ掛かるが、まあいいや。


細かい事は気にせず脳内検索をかける。


えーと、なになに。

体等を削ったりしても自然回復で元に戻る為、強力な呪いで回復を抑える必要がある、か。

成程、どうやら相当体に無理が掛かるようだな。


「親から貰った体を弄るなんて、それも寿命を縮めてまで……」

「少年はあれか?体に障害があっても親から貰ったものだから直すな、一生背負ってけって考えなのか?」

「それとこれとは話が違います!」


レアーニャの顔を思い出す。

初めて会った時、余りの顔立ちに魔物かと疑ったほどだ。

もうあそこまで行くと障害レベルと言っていい。

それを直して何が悪いのか?


「少年はあの顔を見た事が無いからそんな事が言えるんだろう。俺は彼女の勇気と決断を素直に称賛するよ」

「で、でも!確実に寿命が縮んでしまうんですよ」


ふむ、どう言えばいいのか言葉を選ぶ。

折角整形の話題が出たのだ。

上手く少年の考えを誘導し、あわよくば少年に整形を。

付け加えるなら豊胸迄持ち込みたいところだ。


「少年は毎日訓練してるんだよな?」

「な、何です?藪から棒に」

「してないのか?」

「してますよ!毎日最低6時間は!」


まじか!こいつそんなに訓練してんのかよ!

学生時代授業の大半を寝て過ごした身としては、少年が気違いに思えて仕方ない。


「つまり毎日6時間無駄にしている訳だ。一日の4分の一。睡眠時間も考えれば3分の一か」

「無駄ではありません!私は勇者様の従者たるべく日々精進しているのです!」

「んー、あまりこういう事は言いたくないんだが。少年の努力は無駄に終わると思うぞ?」

「な!?」

「俺も一応少年の事は見ているからな。今の成長速度だと、少年が戦力になるころには、俺は確実に老衰で亡くなってるだろうな」


見ているというのは勿論嘘だ。一々少年の事等見ていよう筈がない。

夢の中で迄ガキのお守をする気は更々ないからな。

だが間違ってはいないだろう。

正直実力差が酷すぎて、少年がそこまでの力を身に着けられるとは到底思えない。


残念ながら少年には才能が無く。

はっきり言って、才能だけなら円華やさやかの方が期待できるレベルだ。


「少年のやっている事ははっきり言って無駄だ。だとしたら諦めるか?」

「諦めません!私は勇者様の為に……」

「そう思えるんなら、レ……テ?あれ?名前何だっけ?とりあえず!ブスの気持ちは理解できるだろう!」


肝心なところで名前が出てこなかったが、まあ何とか誤魔化せただろう。


「俺から見れば少年とレブスの行為に差はない。結局は人生を先払いしているか、後払いにするかの違いでしかないのだから」


結局名前が思い出せないので、頭文字――多分あってる――と特徴を組み合わせた渾名で乗り切る。


「切っ掛けはどうあれ、彼女は今自分の意思で立ち上がろうとしている。なら俺達に出来るのは黙って見守る事だけだ」


自分でも何を言っているのか、そろそろ分からなくなってきたが。

少年がしゅんとしている事から、効果があった事だけは理解できた。

もう後は押し切るのみだ。


「少年は彼女の理解者として、味方になってやるべきだ」


優しく微笑みかけながら、少年の肩に手を置く。


「はい」


何が「はい」なのかよく分からんが、もう一押しだ。


ここからが重要だ。


俺の必殺の一言は、奴の喉笛を噛み千切らんと襲い掛かる!


「だから整形しろ。な!」

「は?」


少年がぽかんとした顔で此方を見る。

やれやれ、察しの悪い奴だ。


「いやだから、少年も整形して彼女と同じ立場になる事どぇ!」


股間から下腹部に走る鈍く熱い衝撃に言葉が詰まる。

股間を押さえながら涙目で後ろを振り返ると、紅い悪魔が殺気を滾らせ此方を睨め付けていた。


キ ン テ キ ハ ヤ メ ロ


地面に蹲りながらも、最後の力で言葉を振り絞る。


「ところ……で…此処……どこ?」


川向うのお花畑で、亡くなった筈の両親が楽し気に手を振っていた。


ミッションフェイルド!

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