第38話 大地震
「ふむ」
辺りを見渡す。
周りにはいつもの腰ぎんちゃくが二匹。
どうやら今回はいつも通りの様だ。
「いやーまいったぜ。この前は変なブスがわんわん泣いて大変だったんだよなぁ」
挨拶代わりに、ちょっとした世間話を振ってみる。
だが反応が返ってこない。
あれれー?聞こえてないのかな?
若い身空で難聴とか可哀そうな奴らだ。
しょうがないので今度はちゃんと聞こえる様に大声で叫ぶ。
「いやーまいったぜ!!この前は変なブスがわんわん泣いて!!大変だったんだよ!!!」
「大声で叫ばないでください!」
「なんだよ。聞こえてんじゃん」
どうやら偉大な俺に声をかけられて、感動の余り返事が出来なかっただけのようだ。
勇者はつらいぜ。
「で?ここどこ?」
このやり取りも随分久しぶりに感じる。
それもこれも、ここ最近夢を見る頻度が下がったためだろう。
30秒ほど待つが返事が返ってこない。
無視かよ。
どうも彼女たちの視線が刺々しい気がする。
「お前らあの日か?」
「本当に最低ですね、勇者様は」
最低なのは認めるが、俺が最低なのは今に始まった事では無いだろうに。
何故今日はこんなにも機嫌が悪いんだ?
「レアーニャ様。ずっと部屋に閉じこもってるらしいですよ!」
「誰それ?引き篭もり?」
俺の仕事は勇者であってカウンセラーではない。
引き篭もりの相談をされても困る。
だが問われたからには答えを出さねば勇者の名折れ。
「とりあえず、部屋に火でも放てば出てくんじゃね?」
我ながら完璧な回答だ。
部屋があるから籠るのだ。
引き篭もりなどサバンナのど真ん中に放り出してやればいい。
腹をすかしたライオンを見れば、自然と生きるために必死に頑張るだろう。
「さて。ベストアンサーが出た所で話は戻るが、ここは何処だ?」
「はぁ……。貴方の方には何を言っても無駄らしいですね」
「うん、無駄。人の意見に流されるような弱い人間に勇者など務まらんよ」
少年が呆れたように深い深い溜息を吐く。
いつになったらなれるのやら。
余りの適応能力の低さに呆れ、逆にこっちが溜息を付きたいところだ。
「ここは、奈落と呼ばれる大穴ですよ。正確にはその側面を無尽蔵に走る横穴の中です」
やっと観念したのか少年が説明を始める。
奈落の大穴。
かつて神の怒りが地上に一つの大穴を穿ち、人々を戒めた。
という嘘か誠かよく分からん逸話を持つ、糞デカい穴らしい。
「我々はアルバンズ家の要請で、この横穴に危険な魔物が潜んでいないか探索をしに来たんです」
その後少年は、期限は無期限と付け加える。
「無期限?そんな重要な仕事なのか?」
「馬鹿だねぇ、そんなわけないでしょ。左遷よ左遷。あんたがアルバンズ家を本格的に敵に回したからこうなったのよ」
「パワハラかよ。ていうか勇者の左遷て意味が解らん」
正直アルビダの説明は理解しがたかった。
世界平和のために戦う人間に左遷もくそも無かろうに。
「まあ要は、勇者様をどうしても必要とする仕事以外、ここの探索を死ぬまで続けろって事です」
この横穴は本当に無尽蔵と言っていい程の規模らしく。
一生は言い過ぎだとしても、それでも年単位の時間を要する事は間違いないようだ。
「よし、吹き飛ばすか」
「勇者様人の話聞いてました!?」
「聞いてたよ。だから跡形もなく吹き飛ばすんじゃねぇか」
魔物の確認ならわざわざ探索する必要などない。
要は吹き飛ばせばいいのだ。
全て吹き飛ばせば0だ。
わお!あったまいー!
「なるほど。そう悪い案でもないわね」
「アルビダ!貴方迄何を言って」
「落ち着きなよ。私達の仕事は安全の確保でしょ?だったら危険の潜む可能性がある横穴自体を潰して、安全を確保しても何も問題無いはずよ」
その通り!
「よく分かってるじゃないかアルビダ。お前には後で褒美として飴玉を3つ程くれてやるとしよう」
「いらないわよ」
「3つもあれば鼻の穴に飴玉を詰めたうえで、美味しく頂けるというのに何が不満なのかね?」
「あんたの存在そのものよ」
左様で。
アルビダの反応も普段より厳しい。
どうやら女を泣かせたことで、俺は女の敵認定されてしまったようだ。
「アルビダ、言っておくが俺は決して女の敵ではないぞ?ただブスと無い乳と子供に非常に厳しいだけだ。勘違いして貰っては困る」
「それを世間一般では女の敵って言うんですよ。勘違いどころかそのものずばりです」
ガーン!そうだったのか!!
勉強になるなぁ!
また一つおつむが成長した祝いに、俺は大地震を引き起こす魔法でほぼすべての横穴を崩落させたのであった。
近隣の街もちょっと半壊したらしいが。
それを気にするのは俺の仕事ではないので、まあどうでもいいよな?
とりあえず地震は自然発生と少年には口止めしておいた。
ミッションコンプリート!
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