第15話 お姫様抱っこ

「見事なまでの溶岩地帯だな」


開けた場所に出たと思ったら、見事な溶岩地帯に遭遇する。

辺り一面火の海。熱気もすさまじく、ちりちりと肌が焼ける程だ。

本来なら暑さに嫌気がさす所だが、今回に限っては小躍りしたくなる程幸せな気分だ。

俺はこの時を待っていた!!

わくわくが止まらないとはまさにこの事。



「何でそんなに嬉しそうなんですか?」

「何を言っている?俺はいつでも御機嫌だぞ」


少年が怪訝そうに此方を見て来るが、どうやら俺がご機嫌な理由にはまだ気づいていない様だ。

ふ、所詮ガキだな。


「さて、流石にここを歩いて渡るわけには行かないから、飛んで行くしかないな」


これから起こる一大イベントの為に、入念に指をわしゃわしゃと動かし、ストレッチする。

どうやら少年もやっと気づいたらしく、冷たい目線を投げかけてくるが、これから起こる幸せの前にはその程度の蔑みなどどこ吹く風よ。


「成程そういう事ですか」

「そういう事なのだよ、少年。まあ、これだけ溶岩だらけだと仕方のない事だ」


うんうんと首を縦に振り、紳士らしくそっとアルビダに手を差し出す。

そしてアルビダは、そんな俺の手を………何故か取らずに少年に近づく。

なんぞ?てれてんのけ?


「私は飛行魔法使えないから、ポエリ、悪いけどしがみ付かせてもらうよ」

「え!?」

「まあしょうがないですね」


いやいやいや、何言ってんだこいつら!?

この場合俺がお姫様抱っこだろ!!

二人の顔を見ると、意地悪そうにニヤニヤしてやがる。

くそ!俺は決して悪には屈っせん!!

何とか巻き返さねば!


「少年は飛行魔法が苦手だろう?二人して溶岩に落ちたら、少年の御両親に顔向けできん。だからここは俺が…」

「心配ありません。両親は覚悟の上で私を送り出してくれています。あと私、飛行魔法は死ぬほど得意ですから」


くっ、今回の少年はやけに手強い。

何とか言い包めようと思案するが、答えが出る前にアルビダに止めを刺されてしまう。


「諦めなよ。私は別にあんたに嫌がらせしたくてポエリに頼んだ分けじゃないよ。マグマにモンスターが潜んでた場合、あんたの両手が塞がってたらまずいでしょ」


正論過ぎてぐぅの音も出ない。

結局アルビダはポエリに抱えられる事に。

俺はこの屈辱を、生涯決して忘れないだろう。

決してな!!



「勇者様!あそこに魔物が!」


少年が魔物を見つけ、声を上げる。

見ると、巨大なカエルの様な真っ赤な魔物達が、溶岩の中から顔を出して此方を睨んでいた。

ラヴァトードと呼ばれる溶岩帯に住む魔物で、溶岩に近づいてきた獲物を、中から一飲みしてくる魔物だ。

とは言え、奴らには遠距離攻撃など備わっていない。

上空を飛行している分には、無視しても問題無いだろう。


「あれはラヴァトードね。まあ、無視しても大丈夫でしょう」

「い、言われなくっても分かってる!」


くっそー、二人でいちゃつきおってからに。


それにしても少年め、俺より先に魔物を見つけるとかやるじゃないか。

というかさっきの一件以来やる気が全く出ず、完全にぼーっとしていた。

やはりモチベーションは大事だと痛感させられる。


しかしさっきの事を思い出すと、だんだん腹が立ってくる。

そして眼下には、八つ当たりするのにもってこいの相手。

これはやるしかないな。


限界突破オーバーリミット魔法マジック!クラッシュボム!!」

「ちょ!勇者様何を!!」


少年が叫んでいるが無視!


これはお尻の分!


限界突破オーバーリミット魔法マジック!クラッシュボム!」


これは太ももの分!!


限界突破オーバーリミット魔法マジック!クラッシュボム!!」


そしてこれが!!

お乳のぶんじゃーい!!!!


限界突破オーバーリミット魔法マジックフレア!!!」


俺のありったけの怒りと、リビドーを籠めた魔法は、カエルたちを見事に一掃する


「ふ、悪は滅びた」

「今の魔物たちを倒す必要は無かったんでは?」

「おいおい、魔物を見逃す勇者なんて、それはもう勇者でも何でもないだろう?」

「いつもどうでも良い雑魚は、ほったらかしにしてる気がするんですが」

「気のせいだ!!」


はーすっきりした。

やっぱ夢の中はこうでなくっちゃな!

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