図書館のお話/凍結前夜

 あるところに女王様がいました。

 女王様は若く、美しく、才能に溢れ、全ての国民から慕われ、敬われていました。それは、女王様は国を取り仕切るだけでなく、国民達の前で歌い、踊り、皆を楽しませていたからでもあります。

 けれど女王様はひとつだけ心配がありました。

「私が死んでしまったら、国民達はとても困るだろう」

 何せ国民達は、女王様のことを信頼しきっています。全ての物事は女王様の決めた法律に従って生きています。そして、この国ではそれが当たり前になってしまいました。だから、女王様は国の人々の行く末を不安に思ったのです。


 そんなある日の事。執務に勤しむ女王様に一羽の鳥が話しかけて来ました。

「ねぇ、女王様」

「どうしたのだ」

「この国は貴女がいないと生きていけないわ」

 女王様は不安を突きつけられました。

「私などいなくても、皆は懸命に生きてきた」

 女王様は前の王様から王権を受け取って、それほど年月が経っている訳ではありません。自分がいなくとも、国民達は生きていける。そう思っていたいのです。

「それじゃあひとつ遊びましょう、女王様。賭けるのはこの国」

「話にならん」女王様は切って捨てます。しかし、

「勿論、私も相応の物をベッドします。それは永遠よ、女王様」

「永遠?」

「貴女が永遠になればこの国はずっと続いていけるでしょう?」

 小鳥は笑いました。

「貴様、魔女か」

 小鳥は嗤いました。

「小鳥が喋るわけないでしょう?」


 賭けの方法は簡単でした。一週間、女王様の指示無しに国を見守る。それだけです。何事も異常無く国が営まれれば女王様の勝ち。そうでなければ魔女の勝ち。

 女王様は自分が当然勝つと信じています。何故なら、先王の時代には国民達は皆、自分で考え、行動していたからです。久し振りに、一週間だけその時代に戻るだけ。

 魔女は、結果を知っていました。


 翌朝、女王様は御触れを出しました。

 曰く、女王は一週間の休暇に入る。

 曰く、その間の執政も決定も前王の如く、国民議会と民自身に任せる。

 曰く、一週間後に元通りに女王が全ての決定を行うか、前王のように国民議会を尊重するかを決める選挙を行う。


「これで良かろう」

 女王様は御触書を眺める国民達をバルコニーから眺めています。

「えぇ、良いわ。とても好い」

 魔女は女王様の部屋の中で、羽を休めています。


 国民と議会は混乱しました。

 全てを決定していた女王様が突如、統治を投げ出したのです。

 一日目はおどおどと惑いました。

 二日目には人々は何を食べていいのか判らなくなりました。

 三日目には国中の天秤が狂い、商いができなくなりました。

 四日目には木々が季節を間違い常春の国は冬になりました。

 五日目には獣達が餓死し、人間達すらお腹を空かせる有様。

 六日目には山と空が我を忘れ、火炎の嵐が国を覆いました。

 七日目には、国はとても静かになりました。とてもとても。


 魔女は、女王様に言います。

「さぁ、投票をしましょう、女王様」

 女王様は私を見て言います。

「残った国民はそなた一人。決めよ」

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