婚活LABO

葉山 一女

第1話 婚活LABO

私は幸せだ。


ある程度、皆が知っている大学を卒業し、一部上場の会社に勤めている。

年収も同年代よりも多いし、仕事は忙しいが人間関係も良く働きやすい。休みの日は友達とショッピングやヨガなどに楽しんでいる。一人暮らしなのに2DK。もちろん都心からちょっと離れているし、会社の補助には頼っているけど。この家にいるのが1番落ち着くんだよね。海外ドラマを見ていたりしてゆっくりしている時間は最高だ。


このままこの生活が続ければいいのに。



8月15日土曜日、17時00分。


夏休みに義両親に会うため上京してくる大学の同級生のための女子会が開催された。とはいっても当時のゼミの仲間3人だけど。


「亜矢、最近何しているのよ」


この質問をしてくるのは、帰省してきた由紀。

由紀は、上場企業で転勤が多い男を捕まえているため、今は地方暮らし。

よって夏休みと正月は子供を連れて帰省してくる。時々LINEなどはくるが、基本、夫とママ友の愚痴。


「最近はね。海外ドラマにはまっているのよね。帰ってきてからお酒飲みながら見ていると寝不足になってね!究極の質問というか、世界平和をとるか、自分の身内をとるかとかそういう世界が・・・」


「そういうことを聴いているのではないの!彼氏できた?と聴いているの!」

話の途中で由紀が突っ込む。


「私の両親みたいに言わなくてもいいじゃないの。世の中結婚して幸せになるの?働いて、夫の料理も洗濯も炊事も掃除もして、子供も出来たら夫を信用して専業主婦とパートして見たいな感じ?私には耐えられないね。今の自由な空間がベスト!由紀だってそうじゃん。私に、夫が構ってくれないとか、掃除してくれないとか、靴の脱ぎ方が何回言ってもぐちゃぐちゃとか」


「そうかもしれないけど、私たちもう32歳よ!それより良いことの方が多いから話をしているの。」


「違うね。自分が不幸だから、私にもその不幸を味わえってしか、キ・コ・エ・ナ・イ。私は今で十分幸せなの!だから結婚しなくたっても良いの」


「亜矢は前の恋愛も引きずっているからしょうがない?私は結婚しなくてもいいけど、彼氏はいたほうがいいと思うな」


ここで、いつも口数が少ない陽子が珍しく自分から話してきた。


「さすが陽子!結婚しなくてもいいけど、やっぱり彼氏ぐらいいないとね。そうでないと、人間としての価値が下がるよね。亜矢の価値は下がりまくり。」


人間としての価値・・・


それだけではないと思うけど、なんとなく理解できる。私だって、得意先とかで、ある程度の年齢で結婚していないとか、恋人がいないと知ったら、自分のことは棚に上げて、この人大丈夫?と思ってしまうから。


「私は、今の彼氏、仲が良いけど何かイマイチなんだよね。だからまた新たに探していこうかと思っているんだ。今度一緒に行く?」


簡単に彼氏って出来るの?世間一般では、アラサーっていうけど、32歳ってアラサーの最後の最後だよ!アラフォーは目前じゃん。合コンだって呼ばれなくなったし。


「そうよ、陽子。今度亜矢と一緒に男探し手伝ってあげてよ」


「わかった!また連絡するね」


私は、どこに行くかがわからなかったが、陽子の社交辞令により、この話が一旦終わったので安堵した。


あとは、いつもの通り、ゼミの仲間は今どうなっているのとか、あの時の旅行など過去の話で盛り上がった。



8月16日 日曜日 12時00分


昨日飲みすぎた。まさか6本もワインを空けるとは・・・ストレス溜まっていたのかな?タクシーで帰ったしね。トータル2万円も使うとは思わなかった。今月は節約生活だな。


ピピピ。


陽子からLINEが入る。


「亜矢、昨日はお疲れ様。起きている?」

「お疲れ様。さすがに飲みすぎた。このLINEで起きた」


「早速だけど、今週時間あるかな?」


「19日の水曜日の夜なら時間取れるよ」


私の会社は毎週水曜日が、ノー残業デー。確実に早く帰れる。というか会社のパソコンの電源が強制的に落ちるというか、ビル全体の電気が強制的に遮断される。


彼氏の愚痴かな?もしかして結婚の報告?寝ぼけた頭で考える。


「婚活パーティーに行くから。それなりの格好をしてきてね。詳細は火曜日に送るよ」


「婚活パーティー?何?あの話、社交辞令ではないの?本当に?」


「由紀も私も心配しているの!もう元彼は3年前でしょ?さすがに忘れてもいいじゃん」


「もう、すっかり忘れています!」


「じゃあ、水曜日空けといてね」


いつもの陽子ではない。積極的だ。そう考えると婚活パーティーとは楽しいところなのかな?もちろん婚活だから、男性もいるんだよなあ。


二日酔いで、体がだるかったせいもあるが、海外恋愛ドラマを見ながら二度寝した。



8月18日火曜日 19時00分


陽子からLINEがくる。

「明日、新宿駅に18時30分ごろ来てね。また申し込んだから500円の参加料と身分証明書を用意していてね。よろしく」


500円で良いの?と思ったが、こういうところは女性を集めるため安いらしい。

明日、どんな服を着ていこうか悩みながら寝る。


8月19日水曜日 8時00分


普通なら暑いのでノースリーブを着ていくのだが、されど婚活。合コンと同じでさわやかな水色のワンピースにしようかと思った。しかし、その服装で出勤しようものならば、職場の男性から、

「今日デートですか!」

と笑いものになりそうだ。よって上から羽織るおしゃれなピンクを選んでバックに入れた。


8月19日水曜日 18時35分


「お疲れ様!待ったかな?」


5分遅れで陽子が来る。


「19時30分開始だから、簡単に今回の婚活パーティーの説明をするね。もちろん初めてだよね?」


無言でうなずく。


「まず、女性の参加条件は30歳から35歳。男性は30歳から40歳。20名VS20名ぐらいかな?まず、2分ぐらいですべての人と話をする。」


「えっ、2分だけ?」


「そう2分。約20人いるから、それだけで40分くらいかかっちゃうよ。それで、全員との話が終わったら、良い人を順番に5人選ぶの。そしてその選んだ人がわかるように各個人に紙で渡される。その紙を見ると自分が誰に選ばれたかわかるわけ。その後はフリータイム。しかし、女性は動いちゃダメなの。男性が気に入った女性のところに話に行くシステムだから。それが5分×3回ある。それが終わって、最終段階である印象カードにまた順番で5人を記入する。それでマッチングすれば、カップル成立ってわけ。」


「何組ぐらいカップル成立するの?」


「3~7組ぐらいじゃないのかな?」


「結構確率低いね。10%から30%ぐらいかな?5人も選んどいて」


「行けばわかるけど、あからさまにダメだっていう人がたくさんいるからね。」


まあ500円だしね。そんなもんでしょう。


8月19日水曜日 19時00分


会場が開いた途端、私たちは入る。


「本当はぎりぎりに入室したほうが恥ずかしくなくて良いけど、自己PRカードを書かないといけないからね。亜矢は初めてだから、このカードを書く時間をとったから。私は何回か書いたことがあるから大丈夫だけどね」


亜矢の心遣いに感謝する。

受付にて、身分証明書を見せて、500円払う。自己PRカードと12番と書かれたカードを渡される。


12番の席に着き、カードの記入をする。名前、年齢、出身地、仕事内容、趣味など記入する欄がある。

この趣味というところが一番難しい。今の生活で考えると、ヨガ?ショッピング?海外ドラマ?こういうところは、男性から気に入られるよう、料理とか掃除とかにしたほうがいいのだろうか?


ただ、ウソをつくわけにもと思い、この3つを書く。


あとは、話題つくりのためだろうか、好きな食べ物というのもある。

ここはスイーツとか女性らしいのを書いたほうがいいのだろうか。コンビニスイーツしか食べてないし、どちらかというと辛いもののほうが好きだし。


と考え込んでいたら、時間に。


8月19日水曜日 19時30分


「時間になりましたので、私は本日司会をさせていただく、工藤と申します。よろしくお願いします。本日男性が21名、女性が18名ご参加いただきありがとうございます。」


ほう、女性のほうが少ないのか・・・

ここで周りを見渡す。こういう時、男性を見つけにきたのに、なぜか女性を見てしまうのは私だけだろうか・・・ライバル?といっていいのだろうか。理由はわからないが、みんな私より若く見え、可愛くも見える。陽子も普段とは違い、何倍も可愛く見えた。


女性を見渡したあと、男性を見る。陽子が始めに言った言葉を理解する。

髪が少なくてこまったちゃん。秋葉原にいそうなこまったちゃん。

なるほど、結婚出来ない、彼女ができない、理解できますね。何回来ても無理でしょうね。


「では、説明は以上で終わりです。何か困ったことがありましたら周りのスタッフまでお声がけください。前の方とお話ください。スタートします!」


「こんばんは」

「こんばんは」


軽い挨拶をして、お互い自己PRカードを交換する。

思わず、相手の自己PRカードを凝視してしまう。


同じ12番の男性の名前から趣味、年収まで。

男性は年収まであるのか!なるほど、こうやって相手を見定めるんだね。

などとじっくり見ていたからだろうか。


「お話してよろしいでしょうか?」


と12番の男性が痺れを切らして怒り口調で言ってきた。


「大変申し訳ございません」


仕事でもこんなに謝ったことないのに・・・


男性のほうから、いろいろ聴かれたが、頭が追いついていかず、愛想笑いのみしていた。


「では2分経ちましたで、次の番号へ男性が移動してください!」


といった感じで、ごろごろ変わっていく。


結局どうやっていいかわからず、男性のカードを見ながらニコニコのみしていた。

2分なんて、すぐに時間たっちゃうよ。


そうして気づいたら、21名終わっていた。


「では、第1印象カードに少しでもいいなと思った5人まで順位ごとに番号でお書きください。書き終わりましたら、スタッフまでお渡しください。」


メモなんてとる時間もない、誰か誰かもわからない。

気づいたら、次の人。

こうなったら、外見で決めちゃえ!適当に格好良い人5人の番号を書く。


「みなさん、記入終わりまして今から集計作業に入ります。10分後休憩の後、フリータイムを5分間、3回行います。女性は今の番号に座ったままでお願いします。男性は自由に気に入った女性のところに行ってお話ください。」


もう疲れた。


1日に短時間で21人も話すことあるだろうか?面接でもないよ。これで本当に結婚とか、ましてや彼氏、またカップルとかも成立するのか?ロトみたいに単なる番号の運だけではないの?


ここで、陽子がやってくる。


「亜矢、どうだった?」


「無理。疲れた。たった2分でわからないよ。次から次に来るし。」


「こういうのを回転すし型婚活パーティーって言うの。まあ、初めてだからね。次第になれていくよ。私もそうだったし」


こういう状況で優しい言葉をかけてくれる陽子に、今すぐ陽子とカップルになりたい!と心底思った。


話をしているうちに司会者からある紙を渡された。


第1印象カードの結果だ。


何にも出来なかったのに緊張する。どの男性が私に投票していてくれているのだろうか。


開けてみる。


結果、私が投票した人で、男性が私を投票してくれた人はゼロ。さらに、私が投票していなくても男性が投票してくれていた人は2人。しかし上位ではない。


陽子のカードを見させてもらう。


陽子がいれた5人のうち、4人が陽子にも投票していてくれる。そのうち3人が上位。


この時点で心が折れる。


そして、フリータイムの時間がやってきた。

男性が駆け足でお目当ての女性のところまで行く。


もちろん、上位に投票している人がいない私のところには誰も来ない。

陽子を見ると、3人の男性から話をされていた。たぶん陽子に上位投票をした人なのだろう。


先ほどの2分はものすごく短かった。しかし、今回の5分は長い。

時計をみると、まだ1分しか経っていない。


周りを見渡すと私みたいに取り残されている人が8名。

やっぱり人気のある女性に男性が集中している状態だ。


次のフリータイムぐらいは、男性がくるのではないだろうか。

そう期待した。


2回目のフリータイム。誰も来なかった。

また地獄の5分がスタート。


確かに初心者だからといって、初めの2分、ほとんど話さなかった。

しかし2分で何がわかるの?何か私悪いことしたかな?

もしかして、スカート破れている?靴汚れている?口が臭い?


陽子を見ると、4人もの男性と話していた。1人ぐらいくれ!


もう帰りたい・・・


そして3回目のフリータイム。

諦めて、スマホをいじっていた私に声がかかった。


「前に座ってよろしいですか?」


「ぜひよろしくお願いします!」


いきなりだったので、大きな声を出してしまった。


「10番のOOです。よろしくお願いします」


私は動揺して、名前が聞き取れなかった。


容姿は私からみたら太ったこまったちゃんだったが、この人が神に見えた。


この5分は嬉しさのためか、あっという間に過ぎる。


そして、フリータイム終了後、最後の投票に。


「これから最後の投票を行います。先ほどの同じように上位5名に異性の番号を書いて、近くの係員までお渡しください。必ず1人以上は書いてください」


しかし、私は誰の名前も書かなかった。そしてそのまま係員に渡した。


本当に今日は疲れた。陽子と一緒にご飯でも食べて帰ろう。明日も仕事あるけど、お酒飲もうかな、と考えていた。


「集計終わりました。本日は5組のカップルが誕生です!おめでとうございます。」


5組もこの短時間でカップルになれるのか。


「では、まずは男性から御退室をお願いします。男性も女性も帰りに封筒をお配りします。その中にカップリングした番号の紙が入っている方がいます。その方は、後から退室される女性を外でお待ちいただき、連絡先など交換してください。本日はありがとうございました!」


男性が退室。


数分後、女性も退室。


陽子と一緒にエレベーターに乗る。


1階に下りると、男性がちらほら。たぶん、カップリングした男性が女性を待っているのだろう。


あの神の10番さんもいた。

やっぱり私が寂しそうにしたから声をかけてくれたのだろう。

やさしい10番さんはカップルになれるよね。



「陽子、今から何か食べて帰ろうよ」


私は、誰にも投票していないから封筒も開けてない。よってこの男性たちは絶対私のことを待っているはずがない。


「ごめん、私カップリングしちゃった。だから、その人と食べるからまた今度ね」


そう言って、おめでとうございますと書いた紙を見せてくれた。そうだよね。モテモテの陽子はカップリングするよね。


今は21時。ここから連絡先交換という名の初デートか・・・いいな。


精一杯の笑顔で、また今度食べに行こうねと言って、その場を立ち去る。



8月19日水曜日 21時10分




悔しかった。


私の容姿は良くもないが悪くもないと思う。少なくとも中学、高校生の時も告白もされたし、大学生の時は、陽子よりモテた。合コンに行っても、男性から必ず連絡先などを教えてと言ってもらった。



そんなに自分が悪いのだろうか。もう男性と3年間疎遠になっているからだろうか。職場には男性が多いし、服装や言葉使いも気を使っている。同年代からも俺が独身だったら絶対口説いていたよともよく言われる。


恥ずかしかった。


相手の男性をこまったちゃんなど馬鹿にしておきながら、そのような人にも選ばれない自分。また陽子を心の奥では見下していたこと。


情けない。この一言がしっくりくる。


私は不幸だ。


幸せの意味がわかった。

人間として幸せは誰かに必要とされるか。


戦争のない世界が幸せか?核のない世界が幸せか?貧困の無い世界が幸せか?

たぶん、どれも間違いではない。ただその根本にあるものは、他人から必要とされる機会自体がなくなるからだ。


誰からも必要とされていない人間ほど不幸な人間はいない。


さらに自分の悪い性格もでてしまった。

人を見下す。

これが最高に自己嫌悪。


人を見下していた最悪な私は、これからも1人なのだろう。


そうなると、がんばって1人で生きていかなければならなくなる。


まずはお金だ。

そのため仕事をがんばらないと。

老後どうしようかな。

マンション買ったほうがいいのかな。

そして猫でも飼おうかな。

実家に帰るかな。

お母さんに孫も見せられないな。ごめんね。

来週個人年金のセミナーでも行こうかな。


これは現実逃避だ、と思った瞬間、我に返った。


現実に戻ると悔しくて涙が出そうだった。


こんなところ来なきゃ良かった。

私は必要とされない女なのだ。

悲しみが押し寄せる。


自己嫌悪の嵐。


そして、その感情に耐え切れず急に立ち止まってしまった。


「痛い!」


後ろから来た人に体当たりをされた。


「すいません。大丈夫ですか?」

「こちらこそ、人混みの中、急に止まって申し訳ございません。あれ、10番さんですか?」


ぶつかってきた人は、最後のフリータイムに人気の無い私に来てくれた神の10番さんだった。


「確かに10番でしたね。私は川田ですよ。興味がなくて覚えてないのかもしれませんがね。星野亜矢さんでしたよね。きれいな方だから覚えていますよ。」


「本当に、いろいろごめんなさい。また名前も覚えていただき・・・すいません。あれ?川田さん、カップルになれたのに帰りですか?」


陽子はカップリングした男性とご飯食べにいったから、素直にそう思った。


「良くわかりましたね。実はカップルになったのですが、相手の女性が明日の仕事が早いので、今日は難しいと。今週の土曜日に食事に行くことになりまして。もしかして断り文句かもしれませんが。では星野さん、また何かのパーティーで会った時はよろしくお願いしますね。」


「ちょっと良いですか?川田さんは、良く婚活パーティーに参加するのですか?」


「そうですね。来ているほうですね。パートナーがほしいですからね」


「結構カップリングはしますか?」


「80%ぐらいですかね。まあカップリングするなんて運ですよ」


陽子の計算では、カップリングは10%から30%だったよね?80%とはすごい。



また私は知っている。


運という人はどちらか。


とんでもない努力をしている人、または、とんでもない馬鹿。


川田さんはもちろん前者だ。失礼だが女性に好かれる容姿ではない。しかし私が感じたように優しさがにじみ出ている。そこに女性は惹かれるのだろう。


「川田さん、申し訳ないですが、この婚活パーティーのカップリングになれるコツというか教えてもらえないでしょうか。私、今日が初めてで、何もわかっていなくて。お時間取らせて申し訳ないのですが・・・」


川田さんが優しそうということと、現実を痛感し、プラス思考の自分が表に出た瞬間だった。


「では、今からご飯でも食べながらでもお話しましょうか。私が教えられることがあればよろしいのですが。もちろん、星野さんのおごりでね」


「もちろんです!よろしくお願いします!」


川田さんが知っているという近くの個室居酒屋に移動。


お酒が入った私は、恥ずかしがらず今日の出来事をすべて話した。


「星野さん、怒らないで聴いてくださいね。本当に困っていると思いますので、私も本音で話します。」


「もちろん、どんなことでもおっしゃってください。」


「まず、初めの2分間ですが、あそこがあの婚活パーティーの勝負所です。私が星野さんと話していても、星野さんはぜんぜんしゃべってくれませんでした。お仕事どうですか?といっても、大変ですと言った感じで、会話がそこで終わってしまいます。逆の立場ならどう思います」



確かに・・・

元彼も最後はそうだった。

夕飯何にしようかといっても、別に何でも良いよと。


婚活パーティーだから、もっとシビアだ。これからのパートナーを探そうとしているのに会話が成立しないのは完全なアウトだろう。


「だから、初めの2分間が本当に大事です!ここでうまくいけばカップリングは必ず成功します。あの友達の人いましたよね。あの人は答え上手でしたよね。趣味に関しても自分の意見を言いながら、相手の意見も聞きだして、会話として盛り上がっていましたしね。」


「友達ってわかりました?」

「もちろん、一緒に話していたからね」


陽子の能力はすばらしい。

昔から努力家だったのは知っている。しかし、オシャレではなく男性に興味があまりないと思っていたのは間違いだった。

さらに、川田さんはすごい。あの女性がたくさんいる中で、私と陽子が友達だとか、きちんと調査している。その余裕がすごい。


私はまた質問する。


「では自己PRカードは必要ないのでしょうか。あれを見たら、会話よりもカード優先にしてしまいました。」


「そうですよね。結婚まで考えると、相手の年収や趣味や学歴、仕事内容などはわかっていたほうが良いに決まっています。しかしですよ、例えば、年収3000万、しかし会話が成立しない。逆に一緒にいて会話が成立して楽しい、年収300万どちらがよろしいですか?」


「私が年収あるほうなので、後者だと思います」


「そうですね。つまり星野さんは、相手の性格を見てパートナーを決める人だと思います。となると、相手の自己PRカード自体、見る意味がありませんよね?ちなみに私も相手の自己PRカードは名前と趣味の欄しか見ません。あとは会話が成立するかどうかです。」


目から鱗だった・・・


「まずは、自分の相手に対する最低条件を決めましょう。例えば年齢が何歳とか年収とか趣味とか見た目とかね。そうすると何を質問すればよいか、またいっぱい書いてある自己PRカードなどで、どこだけを見れば良いかがわかりますよ。2分あれば十分です」


確かに、あらかじめ決めていれば2分でもいけそう。


「ちなみに川田さんは、婚活パーティーで付き合った人はいらっしゃるのですか?」


「3年ぐらい活動していまして、何人かと付き合いました。最長は6ヶ月、あとは3ヶ月ちょっとですね。つまり、カップリングしても付き合うのは難しいし、付き合っても結婚まで行くのも難しいですよね。僕も含め、やっぱり猫をかぶっている部分あるじゃないですか。それがどうしても見えて、自分の最低条件を下回ると別れてしまいますよね。」


「付き合うにしても短いですよね」


「そうですね。やっぱり若いころと違って、ゴールが見えてしまっているじゃないですか。だからどうしても最終的にそこを見てしまうのですね。お互い時間もないですし、別れるならばさっさと別れて、お互い合う人探しに行ったほうがいいですしね。不謹慎ですが、キャッチ&リリースです。」


「確かにそうですね。そのほかの婚活の暗黙なルールってありますか?」


「婚活パーティーとか敷居が低そうに見えますが、基本は日本式見合いと同じ考えです。よって、次のようなことが挙げられます」


川田さんがいうことをまとめると、

1、付き合うまでは複数人の同時進行がOK

2、付き合うかどうか決めるのは、会って3回目まで。

3、付き合って結婚するのは1年以内。

4、別れると感じたら、さっさと別れる。


3、4はお互いの年齢から、なんとなくわかる。


1と2はまたもや目から鱗・・・


なんか理論的でわかりやすいな。


「川田さんの仕事って何をしてらっしゃるのですか?」


思わず質問してしまった。


「自己PRカード覚えてないですね?製薬会社の研究員をしています。」


と言って、名刺をくれた。


「え、あの有名な製薬会社のそれも所長ですか!まだ、お若いですよね?」


「私の部署は、簡単に言うと、薬を開発するのではなく、開発した薬を量産化するためのチームです。だからどちらかというと薬の知識というより工場のラインなど効率化を目指す部署になります。」


だから、婚活パーティーなどもこのように与えられえたお題に対して研究していてうまくいっているのか。


納得する私。


その後は、川田さんの今までの婚活パーティー話に花が咲いた。

女性の私が疑うほど、世の中変な女性もいるね。

明日、由紀に話そう。


「星野さん、そろそろ帰りましょうか、23時になりましたし。明日も仕事ですよね?」


楽しい時間はすぐ過ぎる。


私が、婚活で成功するにはこの人の力を借りるしかないと思った。


「あの川田さん。お願いがありますが良いですか?」


「なんでしょうか?」


「さっきまで1人で生きていこうと思っていました。しかし川田さんに会って、話してもらって、これから婚活をがんばろうと思います。その婚活を今後も教えてもらってもよろしいでしょうか?」


「僕で力になれるのだったら、いいですよ。その代わり僕も女性がわからないときがありますので、相談させてくださいね!」


「もちろんです!」


といって、LINEと電話番号などの連絡先を交換した。


「では、川田さん改め、所長よろしくお願いします!」

「所長は仕事ですから、やめてください。」


「いえいえ、これは婚活攻略研究所です。略して婚活LABO。所長!ご指導よろしくお願いします!」


「じゃあ、研究員、がんばりたまえ」


満面な笑顔だった。

私も笑顔で返した。


お店を出るとき、お会計をしようとしたら、もうお金をいただいているとのこと。


さっき、私がトイレに行っている時に川田さんが支払ってくれたようだ。


「申し訳ございません。初めに言ったとおり、私が払いますので、おいくらでしたか?」


「なぜ、部下である研究員に支払わせることができるのか?私は上司である所長だよ。」

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