第九十四話 竜司、クレハと出会う。

「やあ、こんばんは。

 今日も始めていこうか」


「パパー、何でほっぺたが赤いのー?」


 どうやら僕の頬は少し赤かったらしい。

 それは今回話す内容が原因だ。


「いや……

 やっぱり自分の子供にママとの馴れ初めを話すのはね……」


「ひゅーひゅー」


「こら。

 じゃあ始めるよ」



 ###

 ###



 僕ら三人はマンションに戻ってきた。

 手早く手荷物を置き、一息つく。


「フー……

 何か疲れたね……

 ガレア」


【そうだな……

 竜司】


 さすがのガレアも疲れたらしい。

 今日は本当に色々あった。


 まず高速道路で本間を探して。

 それで本間の身柄を抑えて帰る時に陸竜大隊に襲われた。


 事故を起こした僕は大隊に保護されて、呼炎灼こえんしゃくと対面。

 赤の王と喋った。


 そして帰ってきて陸竜大隊の全容を聞いたってトコか。


【俺……

 もう寝るわ】


「わかった。

 おやすみ」


 ガレアはそう言ってリビングをのしのし歩き、ベランダの窓の前で尻尾をくるんと丸めて寝てしまった。


 僕はとりあえずさっぱりするために風呂に入り、部屋着に着替えて落ち着いた。


「今……

 何時だろ……?」


 時計は午後五時三十分。


 すると涼子さんが声をかけてくる。


「あら?

 竜司君。

 お風呂あがったの。

 私今からお買い物に行くけど何か欲しいものはある?」


「いえ……

 特に……

 あ……」


 そう言えばばかうけが無かったかな。


「ばかうけ……

 山ほどお願いします……」


「ばかうけってあのお菓子の?

 フフフ竜司君、おじいちゃんみたい」


 涼子さんが優しく笑っている。


「いえ……

 僕も好きですが、ほとんどガレアが食べます……」


「わかったわ。

 それじゃあ店にあるだけ買ってきてあげる」


 僕はこの返答を聞いたかどうかよく覚えていない。


 安心して力尽きたからだ。

 僕はそのまま寝てしまった。


 

 ###



 ガチャ


 ドアが開く音が聞こえる。


 涼子さんが帰って来たんだ。

 僕はゆっくり起き上がる。


「あら?

 竜司君、晩御飯が出来るまで寝ててもよかったのに」


 買い物袋から食材を冷蔵庫にしまいながら僕に話しかける。


「あ……

 いえ、大丈夫です……」


 僕は時計を見る。


 午後六時三十分。


 寝ていたのは一時間ぐらいか。


「そういえばもうやってるんじゃないかしら?

 クレハが出る歌番組。

 TVをつけてみたら?」


 僕は言われるままTVをつける。


 確かに歌番組がやっている。

 曲の終わりのようだ。


 お世辞にも上手くない。


(始まりの終わりでしたーっ!

 みんな応援よろしくーっ)


 このバンド名、どこかで聞いた事あるような……

 よく思い出せない。


 CMまたぎだったようだ。

 右下に目をやる。


 第二十回視聴者が決めるハッピーソング大賞


 特に何も思わず画面を見ていた。

 CMが終わり、番組再開。


(続いてのアーティストは……

 クレハさんです!)


 中央の大きなセットが左右に開き、一人の女性が階段を下りてくる。

 画面がその女性のアップになる。


 銀髪の長髪ロングヘアー。

 白い花のついたカチューシャを付けている。


 眼はぱっちりと大きく瞳の色は深い紫。

 優しそうな微笑を携えている。


 髪の毛がライトに照らされキラキラ光っていた。

 淡い紫のミニスカートを履き白いブラウスを着ている。


 その女性がステージの真ん中に立つと観客が一斉に沸く。


(クレハー!)


(キャー、クレハー!

 こっち向いてーッ!)


 ダミ声から黄色い声援まで色々な声が飛ぶ。

 じっと画面を見ていたら僕の受動技能パッシブスキル発動。


 クレハを包むモヤは淡い桜色。

 どことなくほんわかした印象だ。


 綺麗。


 僕はただ単純にそう思った。

 司会者の二人がクレハに話しかける。


(ようこそクレハさん!

 今回素晴らしいです!

 熱くなる曲で六位。

 そして泣ける曲でも三位と二位。

 同じアーティストで三曲同時にランキング入りしたのはクレハさんだけどか……)


「ありがとうございます」


 クレハは笑顔で返答する。


(ここでクレハさんに視聴者から質問と応援メッセージが届いていますのでご紹介します)


 司会者が紙を取り出し読み出す。


(えー東京都の十四歳、ドラゴン大好きさん。

 私は熱い曲にクレハさんのFull Aheadに投票します。

 この曲を聞くと物凄く勇気が湧きます。

 大好きな曲です。

 そんなクレハさんに聞きたいです。

 竜って本当ですか?

 と言う事なんですが、いかがですか?

 クレハさんお答え頂けますでしょうか?)


「はい、私は竜から人の姿になってます」


(そうなんですか。

 でも竜でありながら何故アイドルに?)


「ハイ、一年ぐらい前に街を歩いていた所をスカウトされて……

 それから活動を始めるようになったんです……

 ってこの回答であってるのかしら?」


 クレハはキョトンと少し首を傾げる。


(はい大丈夫ですよ。

 でももともとは竜なんですよね。

 でも今は可愛らしい女の子だ。

 地球にやってきてすぐにその姿に?)


 これを聞いた時、クレハの表情は変わらなかった。

 だがモヤの淡い桃色にほんの少し黒い箇所が見えた。


「……いえ、向こうで人型になってからこっちに来ました」


 ほんの少ししたらその黒い箇所は洗い流されるかのように淡い桃色の中に消えていった。


 そんなクレハの微妙な空気を察知したのか司会者が話をぶった切る。


(はいっ

 ありがとうございました。

 ではそろそろ曲のスタンバイをお願いします)


「はいっ

 わかりました」


 クレハは元気良く答え、立ち上がる。

 少し待つと画面が司会者の二人を映し出す。


(はい、それでは熱い曲第六位。

 クレハさんで「Full Ahed」ですっ!

 どうぞ!)


 画面が変わる。

 ステージの中央に立つクレハ。


「さあみんなっ!

 行くよっ!」


 ピアノソロからスタートするその曲はAパートは静かな曲調から始まる。

 クレハの声とピアノの音だけがTVから聞こえる。


 その様子はまるで静かな海面の様。


 曲はBパートに移り、音色もドラム、ギターが増えテンポも少し早く。

 曲調も静かな海面に少し波が立つようにほのかに激しくなる。


 そして曲はサビに移る。


 音色は大幅に増えコーラスやオーケストラが加わる。

 激しいストリングスの調べから圧倒的な歌唱力のクレハの声が会場全体に響いているのが解る。


 一番が終わり、間曲になった。


 と、同時に観客が一斉に沸く。

 クレハが登場した時よりもより激しく雄々しく。


 ダミ声や黄色い声がうねりとなって会場に響き渡る。


(クレハー!)


(キャー!

 クレハー!

 ステキー!)


 そんな感じで番組は終了。

 僕は歌番組なんて普段見ないがその後の曲まで見てしまった。


「どうだった?

 竜司君」


「ええ……

 いや、まぁ……」


 正直に言うよ。

 僕はこの歌番組でクレハが物凄く気に入っていたよ。


 勧めてくれた本人にそれを認めてしまうのが照れ臭かったのだ。


「フフフ、なあに照れてるの竜司君。

 カワイイわね」


「もうそんなんじゃないですよ」


 その日はそれで寝てしまった。

 もちろんクレハの曲は三曲ダウンロードしてスマホに保存したよ。



 翌日



 目覚めのいい朝だ。

 僕はすぐに着替えてリビングへ。


 リビングに入った途端むあんと甘い香りが漂ってきた。


【今日もバナナは美味しいなあ】


「お前ホントにバナナ好きな。

 それ以外の果物には興味ないのか?」


【何言ってんの豪輝。

 僕は果物が好きなんじゃないよ。

 バナナが好きなんだ。

 僕の一日の目標は一日一バナナだよ】


「何だそりゃ?」


 リビングにはコーヒーを飲む兄さん。

 既に数十本はあろうかと言うバナナの皮の山と嬉しそうにバナナを食べるボギー。


 優しく笑いながら朝食を準備する涼子さんが居た。


 この人は自分の家に帰っているのだろうか?

 こういうのって確か通い妻って言うんだっけ。


「おはよう」


「あら?

 おはよう竜司君。

 よく眠れた?」


「あ、はいおかげさまで」


 僕の分の朝食もすぐに用意してくれた。

 席に着き食べ始める。


「竜司」


「モグモグ……

 何?

 兄さん」


「今日はオフだ」


「ええっ!?」


 僕は驚いた。

 てっきり今日も警察本部に行くものだと思っていたから。


 正直に言うよ。

 今日はクレハが見れると思って内心ウキウキしてたんだ。


 兄さんは僕の驚きっぷりを見て察したようだ。


「何だ、変な声を上げて……

 ははーん、お前どうせクレハに会えるかもとか考えてたんだろ」


「そっ……!

 そんなんじゃないよっ!」


 僕が言えるのはこれが精一杯だった。


「まあ俺は昨日確保した重要参考人の取り調べがあるから本部へ行くけどな。

 竜司、お前は好きにすればいい」


「じゃ……

 じゃあついて行こうかな……」


「プッ、何だやっぱりクレハが見たいんじゃないか」


 兄さんが噴き出した。


「ちっ……

 違うよっ!

 家にいてもやる事無いしっ!

 暇だからだよっ!」


 僕は咄嗟に思い付いた言い訳を叫ぶ。

 顔に熱気が帯びているのが解る。


 ここで涼子さんのフォローが入る。


「フフフ豪輝さん。

 そのぐらいにしてあげたら?」


「まあいいさ。

 じゃあ行くなら早く朝飯食っちまって準備しろ」


「うん」


 僕はすぐさま朝食を平らげた。

 手早く準備を済ませる。


 リビングに戻ると身支度を整えた豪輝兄さんと涼子さんが居た。


「今日は涼子さんも仕事なんだね」


「ええ、じゃあ行きましょうか。

 二人とも」


 僕らは五人仲良く出勤だ。


 何か今日は外がおかしい。

 ほのかに人が多い。


 しかも同じ方向に向かっている。

 遠くに県警本部が見える。


 人の流れは県警本部に向かっている様だ。


 この段階で察しがついた。

 おそらくこの人たちは全員クレハのファンだ。


 やがて僕らは県警本部に到着する。



 静岡県警本部



 ガヤガヤ


 本部前には人々がたむろしている。

 数にしておよそ四十人から五十人と言った所だ。


【何だ何だ。

 なあなあ竜司。

 こいつらこんな所で何してんだ?】


「ガレア、これはね。

 出待ちって言うんだよ」


【出待ち?】


 ガレア久々のキョトン顔。


「出待ちって言うのはねガレア。

 自分の好きなアイドルとかを一目見ようと待っている人たちの事だよ」


【何だ?

 誰が来んのか?】


「あぁそうか、昨日ガレアは寝ちゃったんだっけ。

 今日はクレハってアイドルが来るんだよ」


【ふうん】


 ガレアはとりあえず納得したようだ。

 お次はボギー。


【わー人がいっぱいだねー】


「クレハって出たばかりのアイドルって聞いてたけど意外に出待ちが多いな」


「ちょ……

 ちょっと通して下さい……」


 人の群れをかき分ける涼子さんに先導され県警本部内に入る。

 中はと言うと外以上に慌ただしかった。


 色々な人が色々なものを持って右往左往と走り回っている。


「な……

 何か凄いね……」


「静岡県警でも一日署長を迎えるのは珍しいからなあ。

 本部からスタートするってのは初めてじゃ無いかな?

 だから戸惑っているんだろ」


「じゃあ私は自分の課へ行きますね。

 じゃあね豪輝さん、竜司君」


「いってらっしゃい」


「じゃあ俺も取り調べの準備をするかな?

 竜司、お前は好きにしな。

 ただし本部の敷地内からは出るんじゃねぇぜ」


「うんわかった」


 兄さんと涼子さん、ボギーはエレベーターに乗り込む。

 僕は一階に残った。


「さて、どうしようか?

 ねえガレア」


【お前はついて行かねぇのか?】


「え……

 いや……

 僕は一階に用があって……」


 知らないガレアであってもクレハが見たいから残ったなんて知られたくなかった。

 オタクの変な習性とでも言うのか。


 特撮の事なら堂々と言えるんだけどなあ。


 ちなみに僕の中での好きなメディアは一位・特撮 二位・アニメ 三位・漫画だ。

 この三つについては相手が誰だろうと関係ない。


 堂々と話せるし好きだと高らかに叫ぶ事も出来る。


 何となくアイドルが来るのを待っているというのが途轍もなくミーハーな気がして照れ臭かったのだ。


 僕は準備の邪魔に成らないよう隅でボーっと突っ立っていた。


 ガレアはと言うとセカセカ動く人が珍しいのか動く人を眼でというか顔で動きを追っていた。


 フーンフーンと言った感じで無言で首を動かすガレア。

 何かカワイイ。


 しばらくすると更に周りの人が慌ただしくなる。

 何人かが入口に向かって走っていく。


 もしかして来たのかな?


「ガレア行こう」


 入口に向かう僕とガレア。

 警官の人だかりに辿り着く。


 頭の群れの向こうにワゴン車の屋根が見える。


 ザワザワ


(スッゲー……

 オイ本物のクレハだぜ。

 あの中に乗っているんだな……

 ボソボソ……)


(ちょっと前の奴、邪魔よ……

 見えないじゃない……

 ボソボソ)


 警官達のザワザワが治まらない。

 その様子は膨らみ破裂寸前の風船の様。


 本当にドラゴンが来てからだろうか。

 オタクって増えたなあ。


(あっ!)


 警官の一人が素っ頓狂な声を上げる。

 と、同時に前の警官らが声を上げる。


(うわー!

 本物のクレハだー!

 すっげー!

 可愛いー!)


(キャーー!

 クレハー!

 こっち向いてー!)


 前の風船が破裂した。

 警官の騒がしさに思わず耳を塞ぐ僕とガレア。


【うっせぇなぁ。

 何だよ誰が来たんだよ】


(遠路はるばるお越しくださいましたクレハさん。

 ようこそ静岡県警へ)


「お出迎え感謝します」


(うおーっ!

 生クレハの生声だーっ!)


(キャーッ!

 生クレハよーっ!)


 ピロリンピロリンカシャッカシャッ


 微かに聞こえるクレハの声に耳を傾けるが、すぐに警官達の大きな声と写メを撮るシャッター音でかき消される。


 なるほどこれがミーハーか。


(コラッ!

 お前らっ!

 仮にも公僕の身だろっ!

 ちょっと落ち着けっ!)


 ピロリンピロリンカシャッカシャッ


 警官達の上司らしき人がたしなめる。

 が、写メを撮る音は止まない。


(ワシが止めたのに写メを撮り続けたやつ……

 減俸三か月……)


 この太く通る声が響くと凄いもので写メの音はピタッと止まる。

 確か減俸って給料減らされる事だっけ。


(ではクレハさん、中へどうぞ。

 お前らっ!

 道を開けろっ!)


(えー本部長ばっかりずるいー)


 ミーハー警官達が騒ぎ出す。


(お前らには仕事があるだろっ!

 周囲の一般人が侵入しないように警護!)


(はぁ~い)


 ぶーたれながらミーハー警官達は周囲に広がる。

 いわゆる人間の壁と言うやつだ。


 クレハがこっちに歩いてくる。

 先に中へ入らないと。


 僕とガレアは先に中に入り隅に寄る。

 じきに本部長とクレハ一行が入って来る。


 クレハが入って来た。

 芸能人らしくサングラスをかけていた。


 服装はフリルの入った白いキャミソールにアウターとして紫の薄いカーディガンを羽織っている。


 下も白いミニスカートでニーハイソックスで決めている。


 スカートとソックスの間の白い太ももが眩しい。

 身体全体から芸能人オーラを放ちながら颯爽と歩いてくる。


「あら……?

 竜が居る……」


 僕は初めての生芸能人をポーっと見ていたら受動技能パッシブスキル発動。

 モヤはトマトの様な赤。


 鼓動のように上下に胎動している。

 もしかして緊張しているのかな?


 そして視線。

 まず僕を通り過ぎてガレアに行った。


 踵を返して僕に向けられる。

 クレハがツカツカと歩いてくる。


 僕の前で止まった。


【あなたもしかして竜河岸?】


 竜語だ。

 頭に直接響く。


「あ……

 はい」


暮葉くれは、一般人もいるのですから竜語は控えなさい」


 クレハの隣に居るマネージャーらしき人がたしなめる。


「ぶー。

 いいじゃん別にー。

 ……ん?」


 クレハが何かに気づいた様で僕の顔をじろじろ見る。

 おもむろにサングラスを下げて僕の顔を凝視する。


 吸い込まれそうな深い紫の瞳に目が離せない。


「あなた……

 どこかで会った事無い?」


 クレハがそんな事言いだす。


 頭を垂れ、細い指でサングラスを持ったまままじまじと僕の顔を覗き込む。

 僕は芸能人に知り合いなんていない。


「……会った事なんて

 ……無いです……」


 顔を近づけてくるクレハに僕の顔は真っ赤になり、否定をするので精一杯だった。

 身体全体から香る甘い良い匂いが僕の鼻を包む。


「うーん……

 どこだったかしら……?」


 クレハは人差し指で頭を抑えながら考え込んでいる。

 そこへまたマネージャーらしき人から声がかかる。


暮葉くれは、いい加減になさい。

 今日あなたは仕事でここにいるのですよ」


「もーマスさんうるさいっ。

 わかりましたよーだっ」


 少し不貞腐れながらようやく顔を離すクレハ。


「じゃあね竜河岸クン」


 細い華奢な指を左右に振りながらクレハは奥へ消えていった。

 クレハについていき警官の群れも奥へ消えていった。


「ふー……」


 先程の喧騒が嘘の様に本部の入り口は静かになった。


 僕は隅の長椅子に座り一息ついた。

 少し見上げながらさっきの事を考えてみる。


「クレハ……

 良い匂いだったな……」


【おい竜司、何か気持ちわりぃ顔になってるぞ】


「ガレアうるさい」


 ガヤガヤ


 人が出てきそうだ。

 元引き籠りのせいかたくさんの人の中と言うのは何か苦手だ。


 僕は外に出て脇の木が茂っている所に腰掛けた。


 ここなら周りから見られないし目立たないし敷地内だから良いだろ。

 にしても気持ちのいい場所だ。


 天気は快晴。

 残暑の木漏れ日がサンサンと僕を照らす。


 隣を見るとガレアも気持ち良くなったのか転寝してしまっている。

 僕もつられて転寝してしまった。



 数十分後



 ブッパッパー


「うわっ?

 何だ!?」


【何だぁ?

 やかましいなあ】


 けたたましいラッパの音で目が覚める僕とガレア。

 見ると入り口の方で歓迎セレモニーが始まっていた。


(はいっ

 静岡県警音楽隊による演奏でした)


 司会者の声がマイクで響く。


「はい素晴らしい演奏をありがとうございます」


 続いてクレハの綺麗な声がマイクで響く。


(うおーっ!

 クレハー!

 可愛いーっ!)


 ファンのダミ声が飛ぶ。

 そんなこんなでセレモニーが進み終了。


 県警本部の人達は片付けに追われている。

 それを僕はポーっと見つめていた。


「……暇だな」


 オフと言うのもあって僕は完全に緩みきっていた。

 そのせいで死角から目を光らせ近づいてくる者に気が付かなかった。


 距離、約一メートル弱。


「わっ!!」


 死角から大きな声が聞こえ、背中に衝撃が走る。


「うわぁぁぁ!」


 僕は胸が前に飛び出るほど驚き、大声を上げる。

 全身が総毛立ち、情けなく手足をバタバタさせる。


 その様子を見てか後ろの方から綺麗な笑い声が聞こえる。


「あっはっはっは。

 竜河岸クン、なあにそれ?

 あっはっは」


 後ろを振り向くと爆笑しているクレハが居た。



 ###

 ###



「はい、今日はここまで」


「ねー、ママは何で大声出したの?」


「詳しい事は明日話すけど、ママは結構イタズラ好きだったんだよ」


「そうなんだアハハ」


「さっ今日はもうおやすみ……」

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