第七十四話 竜司とガレア、市街戦突入 中編~竜司視点

「やあこんばんは。

 今日も始めて行こうか」


 ###


 さあ、どうする。

 僕の戦い方は基本超ロングレンジからの射撃だ。

 真っ向からの戦いには弱い。


「一旦距離を置こう。

 蓮っ!

 行こうっ!」


「うふふ……

 鬼ごっこはもうおしまい……

 逃がさないわよ……

 あなた達っ!

 行きなさいっ!」


 操られた人々が群れを成して迫って来た。


「来たわね……

 ルンルッ!

 行くわよっ!」


【蓮、任せてっ!

 行くわようアンタ達!】


 ドドンッッ!


 ルンルの落雷が人々の中に落ちる。

 しかし人々の群れは次から次と押し寄せる。


魔力閃光アステショットッ!」


 僕も魔力閃光アステショットで応戦する。

 もちろん向かって来る人々は一般人なので多少手加減した。

 しかし人々の進行は収まらない。


「キャアッ!」


 蓮が迫って来た人に捕まれ、振り払おうとして尻もちをついた。


「蓮っ! 

 魔力閃光アステショット!」


 僕は魔力閃光アステショットで蓮の周りの人達を吹き飛ばし蓮の元へ駆けつける。


「蓮っ!

 大丈夫かっ!?」


 僕は蓮を起こす。


「何……?

 竜司、誰なのよその女……

 ねぇっ!?」


 杏奈が目を血走らせて僕を問い詰める。


「お前には関係ないだろ」


 僕は思い切り拒絶の目を杏奈に向けた。

 もう監禁された段階で杏奈を人と見るのは止めている。


「わかったわ……

 竜司が私を拒絶する理由はそのクソ竜だけじゃ無かったわ……

 そのクソ女も原因だったのね……

 あぁ……

 ムカつくわ……

 おまえ達!

 さっさと竜司とそのクソ女を引き剥がしなさいっ!」


(リュージィ……

 ヒキハガスゥゥ)


(ハナレロォォ)


 群がる人はさながらゾンビの様だ。

 操られた人々が僕と蓮を掴み、引き剥がす。


「蓮ーーっ!」


 僕は必死に手を伸ばすが届かない。

 どんどん遠くなる。


「竜司ーーっ!」


 蓮も手を伸ばすが届かない。

 しかも僕より群がる人が多い。

 あっという間に蓮とルンルは人に押し潰されてしまった。


「ウフフ……

 解放の為の条件デトネイションリリース……」


 こう呟いた瞬間、蓮を押し潰した人々が白い閃光を放ち……



 爆散した。



 ドゴォォォンッッ!


 激しい爆音とともに煙も上がる。

 僕は呆気にとられ、喋る事も忘れていた。

 ほんの少し静寂が流れる。

 僕は杏奈の方を向いた。


「こ……

 これは……」


「アッハッハッハァ!

 これが私の第三のスキル“解放の為の条件デトネイションリリース”よ!

 これであのクソ女はおしまい……

 残念だったわねぇ竜司……

 アッハッハッハ」


 黙々と煙はまだ収まらない。


「これはお前がやったのか……!?」


 おそらく杏奈の三番目のスキルと言うのは人間を爆弾と化すものだろう。

 僕の心の中から激しい憎悪と嫌悪の気持ちが沸いて来た。


「ええそうよ。

 でもあのクソ女が死んだのは貴方が悪いのよ……

 私を拒絶するから……

 ウフフ」


「お前は人の命を何だと思ってるんだぁぁぁぁ!」


 僕は激しい怒りを声に乗せて吐き出した。


【あーびっくりしたわね……

 蓮?

 大丈夫?】


 煙が晴れて蓮とルンルが出てきた。

 良かった。

 無事だ。

 おそらく爆発する瞬間ルンルが覆い被さって魔力で防いだのだろう。


「ありがとうルンル……

 大丈夫よ」


 怪我も無い様ですぐに立ち上がる連。

 これは予想外だったらしく杏奈の顔が引きつっている。


「チッ!

 なぁにっ!

 しぶといクソ女ねっ!

 まるでゴキブリ並みのしぶとさねっ!」


「竜司っ!

 このままだといずれこっちが負けてしまうっ!

 一旦別れて分散させましょう!」


「え……

 でもっ!」


 僕は蓮が心配だった。


「私を信じてっ!」


 蓮が真っ直ぐこっちを見ている。


【竜司ちゃん、心配いらないわよう。

 アタシもいるんだからぁ】


「わかった!

 落ち合う場所はケータイで連絡する!」


 僕は右に。

 蓮は左に別れる事にした。


 ###


〈竜司SIDE〉


 数十分後


「ハァッ……

 ハァッ……」


 僕は雑居ビルの間で一休みしていた。

 もうあちこち逃げ回って体力も少なくなっている。


【なあなあ竜司。

 あのワラワラ来る奴らぶっ飛ばしたら駄目なのか?】


「駄目だよ……

 あの人たちは操られているだけなんだから……」


(リュゥジィ……

 イタァァァ……)


(マダムの所へ連レテ行クゥゥゥ……)


「うわっ!?

 もう見つかったっ!

 行くぞっ!

 ガレアッ!」


 僕はまた走り出した。

 走りながら考えた。

 だが考えをまとめる暇も無く人々が押し寄せる。


 しまった。

 前後挟まれてしまった。

 前から後ろから人々の手が伸びてくる。


 しょうがない。

 僕は側の雑居ビルに入った。

 奥へ走る僕とガレア。


 追って来る人々。

 僕は本能のまま階段を駆け上がった。

 と、ここで不思議な事が起こった。


 てっきり人々は階段を登ってくると思いきや、階段の一段目で足を上げずこける。

 ゆっくり起き上がり、またこける。

 これを繰り返したのだ。


(リュゥゥジィ……)


 僕を探している様だ。

 よく解らないがこれはラッキー。

 僕はそのまま屋上で駆けあがって行った。


「ふぅ~、助かったぁ~」


 僕は地べたに座り込んだ。

 ここで考えを整理する事にしよう。

 名児耶杏奈みょうじやあんなのスキルは今の所三つ。


 第二のスキル“矮子看戯プッシュオーバー”。

 人を意のままに操る。

 おそらく対象に触れる等してシスの魔力を注入し、その魔力を動力として操っているのだろう。


 だがそれだけではこの爆発的な人数の膨れ上がりは説明できない。

 それもさらに推測交じりだが仮説を立ててみた。

 おそらく矮子看戯プッシュオーバーにかかった人に接触しても同様の効果が発生するのだろう。


 まるでゾンビに咬まれた人がゾンビになる様に。

 一人か二人矮子看戯プッシュオーバーにかけてしまえば後はネズミ算式に僕が増えるって訳だ。

 しかし階段を上がれないのはよく解らない。

 それはとりあえず置いておくことにした。


 続いて第三のスキル解放の為の条件デトネイションリリース


 思い出すのも嫌な最悪のスキルだ。

 これは人間を爆弾に変える非道のスキル。

 おそらく注入した魔力を使って爆発を起こしているのだろう。

 名前から操るために必要な魔力全てを使って爆発させる。

 そのため杏奈の呪縛から逃れられるという事か。


 よし考察終わり。

 とりあえず体力も回復した僕はここから離れる事にした。


魔力注入インジェクト


 ドクン


 心臓の高鳴りを確認。

 魔力を足に集中。

 今日はよく足に集中させてるなあ。


「よしっ!

 行くぞ!

 ガレアッ!

 ついてこいっ!」


 僕は魔力を込めた足で思い切り屋上の床を蹴り上げ高くジャンプした。

 僕の身体が高く舞い上がる。

 これは凄い景色だ。

 下を見ると遠く地上では僕をまだ探している様だ。

 と、そんな事を確認していたら道路を挟んだ向かいのビルの屋上に着地しそうだ。


 ドォォンッ!


 少しよろめいたが大丈夫。

 全然イケる。


【竜司ー、お前すっげぇなあ】


 ガレアが呑気に向かいから飛んできた。

 ガレアを驚かせたのは正直嬉しい。

 とにかく僕が居ると思わせてるビルから離れる事にした。


 次は通りを挟んでいなかったので普通に飛び移れた。

 そんなこんなで先程の雑居ビルから通りとビル群を挟んだ所まで辿り着く。

 僕とガレアは地上に出た。


 そこは人が全く居なかった。

 僕は周りを警戒しながら前進。

 と、何か前方のラーメン屋から男の人が出てきた。


 何かびくびくしている様子で辺りをキョロキョロしている。

 僕を見つけた様だ。

 驚いてまたラーメン屋に引っ込んでしまった。


 僕は追う形でラーメン屋に入る。

 中は誰も居ない。

 しんと静まり返っている。

 僕は警戒しながら周りを見る。


 小倉ブレッドクリーム。


 ほうじ茶ゼリー。


 何か変わったメニューのあるラーメン屋だなあ。


 カタッ


 音がした。

 カウンターの中だ。

 僕は恐る恐る中に入ると先程の男性と子供二人が居る。

 おそらく家族なのだろう。


 男性が守る様に子供二人を抱いて三人とも震えている。

 僕は駆け寄って手を差し伸べる。


(ひっ!)


(パパー)


 男性は怯えて、子供は泣いている。


「もう大丈夫です。

 安心して下さい」


 僕が声をかけると男性が聞いて来た。


(きっ……!?

 君は普通の人か……?)


「ええ、僕は正常です。

 何があったか教えて下さい」


(あぁ……

 僕ら家族は三人で食事をしていたんだ……

 そしたら客が一人入って来て食べていた客の肩に手を置いたんだ。

 するとその客が震え出してそれからみるみる内に我々以外全員……)


 なるほど。

 やはり接触感染か。


「よく無事でしたね」


(ああ、しかしヤバかったよ……

 手が伸びて私の肩に触れようとした瞬間ピタッと止まって上を見上げたんだ全員。

 そしてゆっくり外へ消えて行ったんだ……)


 杏奈の命令でも降りてきたのだろうか。


「わかりました。

 しばらくここで身を潜めていて下さい」


(きっ……

 君はどうするんだ!?)


「僕は外の様子を見てきます」


(だっ……

 大丈夫かっ!?

 我々と一緒にここに隠れていた方が……)


「大丈夫ですよ。

 僕は竜河岸ですから」


 そう言って外に出た僕とガレア。

 外は店に入る前とうって変わって騒々しくなっていた。

 遠い所で煙も上がりあちらこちらで車のクラクションも鳴っている。


 とにかく杏奈を止めないと。

 しかしあの杏奈ばけものと正面切って対決するのは分が悪い。

 とにかく蓮の場所を確認して合流しないと。


全方位オールレンジ


 緑のワイヤーフレーム展開。

 蓮は……

 TV塔の広場の辺りを走っている。

 良かった無事だ。


 おや?

 蓮の所まで行く動線上に知ってる竜河岸と竜が居る。

 遥とスミスだ。


 人だかりの真ん中に居るようだ。

 多分味方になってくれるだろう。

 味方は多い方が良い。


 僕とガレアは遥の元へ走った。

 すぐに到着。

 だが人だかりに埋もれて姿は見えない。


 しかもターゲットの僕が後ろに居るというのに全く襲い掛かってくる様子はない。

 すると人だかりの中から声が聞こえる。


「スミスッ!

 逢鬼が刻オーガペインッ!」


【はいっ】


 そう聞こえると人だかりの中から人が弾け飛んでくる。

 それはまるでポップコーンが出来る時の様だ。

 しかし弾け飛んだ人はのそりと起き上がりまた群れに加わっていく。


 これじゃあキリがない。

 するとまた中から声が。


「これじゃあ駄目ねっ!

 スミスッ!

 甘美な蜂スウィートビー北風が騎士を作ったウィンド・ナイツ・ソードッ!」


 人だかりの中心に大きな魔力の流れを感じる。


「行くよっ!

 武が重なる双舞踊ダブルアームドシナジーっ!」


 人だかりの中心で小さい竜巻が起きた。

 巻き込まれて飛ぶ人々。

 力無くポトポト落ちる。


 また起きるのかと思うともう起きて来なかった。

 そして人だかりもドミノ倒しのようにパタパタ倒れ、もう起きてこない。

 もしかして殺してしまったのか。


「あっ!?

 竜司お兄たんっ!」


 人の壁が消えて遥が僕に気付く。

 僕はこの様子について恐る恐る遥に聞いてみた。


「これって死んでるの……?」


「いや、眠っているだけよ」


「これも何かのスキル?」


 そう聞くと遥は自慢げに。


「そうよっ!

 これが私の第一のスキル“武が重なる双舞踊ダブルアームドシナジー”よっ!

 違う武器同士のエンチャント効果を合わせて使う事が出来るのよっ!

 エッヘン」


 なるほど、確か甘美な蜂スウィートビーの効果は極度麻酔だったっけ。


「じゃあ要するに眠らせる風を起こしたって事?」


「そーゆーことっ!

 エッヘン!

 どうっ!?

 凄いでしょっ!?」


 遥が得意げだ。

 確かに凄い。

 これなら無敵じゃないのか。


「確かに凄いね……」


「それにしてもどうなってるのコレ。

 今日オフで街にショッピングに出てみれば大騒ぎじゃない」


 僕は杏奈とのいきさつを説明した。


「また……

 アイツは……」


 遥はヤレヤレといった表情を見せた。


「またって事は前もあったの?」


「ええ、これが初めてじゃないわ。

 その時も栄の町は大騒ぎになって大変だったんだから」


「それってどうやって治まったの……?」


「警察よ。

 特殊交通警ら隊が出張ってようやく治まったわ」


「杏奈もよく平然と暮らしていられるね……

 逮捕とかされなかったの?」


「だって事件があったのは五年前でその頃は杏奈は十三歳だったもの。

 竜関連法案も可決するかしないかの段階だったし」


 十三歳で矮子看戯プッシュオーバーとか使ってたのか。

 やはり化物か。

 僕が黙っていると遥が。


「竜司お兄たんっ!

 その蓮って子の所へ行くんでしょっ!?

 私もついてくわっ!」


「えっ!?

 いいのっ!?」


「大事なひとなんでしょ?」


 そう言われると僕は赤面したよ。


「うん……」


「じゃあ助けないとねっ!

 竜司お兄たんにはお世話になってるしっ!」


「ありがとうっ!

 場所はこっちだっ!」


 僕は遥を連れて蓮の元へ急いだ。


 ###


「はい、今日はここまで」


 するとたつが難しそうな顔をしている。


「パパー、杏奈のスキルがよく解んない」


 確かに。

 特に矮子看戯プッシュオーバーは解りにくい。


「うーん、まあ人を操る能力って理解で良いよ」


「そうなの?」


「うん……

 じゃあ今日はもうおやすみ……」

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