第七十五話 竜司とガレア、市街戦突入 中編~蓮視点

「やあ、こんばんは。

 今日はちょっと変わった形で伝えようと思う。

 気持ち悪がらず聞いて欲しい」


 ###


(蓮SIDE)


 私は竜司と別れ、走っていた。

 どうにかひとまず追っ手をまいたようだわ。


【全く何なのよあの連中。

 アタシの落雷にも全然怯まないじゃない。

 ナンパにしても度が過ぎてるわね】


「杏奈って子のスキルのせいでしょ?

 確か矮子看戯プッシュオーバーって言ってたかしら」


【へぇ、人間って恐ろしいわね。

 で、蓮。

 これからどうすんのよう】


「とにかくこのままじゃ多勢に無勢だわ。

 出来るだけ相手の戦力を削いでいきましょう」


【蓮、アンタ本気で言ってんの?

 またあの群の中へ戻ろうって言うの?】


「私だって嫌だけど……

 このままじゃ竜司が……」


【もーしょうがないわね。

 蓮、その代わりこの騒動の後竜司ちゃんと何か進展しなさいよう】


 それを聞いた私は少しほっぺたが赤くなったわ。


「そっ……!

 そんなのわかんないわよっ!

 さあっ行きましょっ!」


 私は通りからビルとビルの間に入って恐る恐る進んでみた。

 そして物陰から覗いてみたわ。


 居た。

 通りに人が溢れかえっている。

 数にして百人ぐらいかしら。

 私の新スキルで何とかなるかしら?


 ええい迷ってても仕方がないわ。

 私を意を決して通りに出た。


(オンナァァァァッッ!

 イタァァァ)


 しまった。

 後ろにも人が居たんだ。


 私はポケットから手の平に収まるメジャーの様な装置を取り出した。

 これが私の新スキルで必要なの。

 先端に重りを取り付ける私。

 射程距離は五メートルから十メートル。


(オンナァァァッッ!

 コロスゥゥゥ)


 人がにじり寄ってくる。

 射程内に入った。

 くらえ!


電通銀網エレクトロ・シルバー・ウェブ!」


 私は先端の重りを投げた。

 人と人の間を掻い潜って大きなカーブを描きながら重りは私の手元に戻ってくる。


 バリッ


 持った瞬間重りの軌跡上にに火花が飛び交い、バタバタ人が倒れて行く。

 数にして三十人て所かしら。


「もういっちょ!」


 バリッ


 次は二十人て所かしら。

 後ろの人々は全員倒したわ。


「よしっ!

 ルンル!

 道が出来た!

 一旦退くわよ!」


【OK】


 私は走ってビルとビルの間に隠れたわ。


 ■電通銀網エレクトロ・シルバー・ウェブ


 母から助言をヒントに開発した蓮の第二のスキル。

 銀製ワイヤー射出装置に重りをつけて射出。

 ワイヤーに電気を通し触れた人間に電気ショックを与える。

 重りには魔力が込められている為ある程度の操作は可能。

 多人数との戦闘に効果大。


「よし、この調子でどんどん戦力を削いでいくわよ」


 こっそり通りを確認。

 まだまだ居るわね。

 私は路地から飛び出した。


「私はこっちよっ!」


(オンナァァァ、コロスゥゥ)


 操られている人々がゆっくりこっちに向かって来る。


電通銀鎖エレクトロ・シルバー・ウェブ!」


 銀製ワイヤ―射出。


 バリッ


 よし、次は四十人って所かしら。

 倒れている人を確認していると後ろから人が押し寄せてきた。


電流機敏エレクトリッパー!」


 電流機敏エレクトリッパーで身体の速度を上げる。

 伸びる手を掻い潜り、咄嗟に離れる私。


「誰も私に追いつけないわよ。

 ルンルッ!

 行くわよっ!」


 私はまた隠れるために走った。

 と、ここで異変が起きたわ。


「ルンルッ!

 ストップ!」


【何どうしたの蓮?】


「睡魔よ……

 駄目……

 少し……

 眠るわ……」


 十分後


「ん……」


【あら?

 蓮、起きた?】


 気がつくと私はどこかのビルの屋上に居たわ。

 ゆっくり身体を起こす。


【もう大変だったんだから。

 急にその場で倒れるから。

 寝たアンタを抱えてあちらこちら走ったわよ。

 そんでようやくここで落ち着いたってわけ】


「そう……

 ごめんねルンル。

 でも何で操られている人々は追ってこないのかしら」


【さあ何でかしらね。

 わかんないわ。

 それでどうすんの?】


「もう少し戦力削ぎを続けましょう。

 竜司と合流するまで」


【大丈夫なの?

 また寝ちゃったりしない?】


「そんなのやってみないと解らないわよ」


 私は階段を駆け下り、外に出たわ。

 次はスキルの使用を控える事にした。

 ルンルにこれ以上迷惑はかけられないから。


 そんな事を考えている内に操られている人が押し寄せてくる。


「来たわね……

 ルンルッ!

 お願いっ!」


【まっかせなさぁい】


 ドドン


 人々の群れにルンルの落雷が炸裂。

 やはりルンルは凄いわね。

 私は戦力を拡散する為、走ってはルンルの落雷。

 走ってはルンルの落雷。


 これを繰り返した。

 すると、操られている人達に異変が起きたわ。

 今までと違い言動に変化が出てきたの。


(コワスゥゥゥ)


(ハカイシロォォォ)


 私の事には目もくれず辺りを破壊し始めたわ。

 どこから持ってきたのか角材を持って辺りの店舗の窓ガラスを割る。

 路駐している車を叩き出す。


(モヤスゥゥゥ!)


(モエロォォォ)


 所かまわず火をつける連中も出てきた。

 今現在、操られている人々は壊す班と燃やす班に分かれている様だわ。

 次々に店舗から火が上がる。

 と思っていたら飲食店が爆発した。

 さっきまで比較的静かだったのに辺りは騒然となってきた。


「ちょっとあんた達っ!

 止めなさいっ!」


 私の制止も聞かず破壊活動をする人々。


 ガシャーン

 パパー!

 プップー!


 所々でガラスの割れる音。

 クラクションが鳴る音が響く。

 私は段々イライラしてきた。


「やめろって言ってんのがわかんないのっ!」


 私の怒号と共にルンルの口から扇状に電撃放射。

 私とルンルの前方に居る人々は右から全員感電し、仰向けになってパタパタ倒れた。

 私の前方は静かになる。


【蓮、アンタやるじゃなぁい。

 アタシに電撃を吐き出させるなんて。

 あかざさんでも出来るようになったの十八歳の頃よん】


「え……?

 ホント……?

 ママより凄いのかな?

 私……」


 私は少し誇らしい気分になった。

 と、こうしちゃいられない。

 破壊活動を止めないと。

 私は走った。


「どきなさいっ!」


 立ち塞がる人々をルンルの電撃でなぎ倒し私は走った。

 気がついたら長細い公園に居たわ。

 遠い所に塔が見える。

 ベンチのあちらこちらに気持ち悪い銅像が飾ってある。


「何これ……?

 気持ち悪~い」


 私はその銅像に嫌悪感を感じた。


【何コレ?

 名古屋って不思議な所ねぇ。

 何のつもりでこんな銅像立てたのかしら?】


 ルンルも不思議そうに眺めていたわ。

 ……っと少し遠くに火が見えた。

 公園の木に火を放つ気だわ。

 止めないと。

 私は走った。


「アンタ達っ!

 止めなさいっ!」


 ルンルの口から三度目の電撃放射。

 ルンルの電撃を浴びた人々が仰向けに倒れて行く。

 火を放つのは食い止める事が出来たわ。


 ここで異変が起きた。

 私はその場にへたり込んでしまったの。

 物凄い疲労感が私を襲ったわ。


「これ……

 は…………?」


【あらん。

 今はまだ一度に使えるのは三発が限度みたいねぇ蓮。

 まだまだひよっこねぇ】


(コワスゥゥゥ)


 駄目っ。

 早く動かないと。

 身体が震えて動かない。


【心配しなさんな。

 多分十分ぐらいすれば動けるようになるだろうし……】


 ドドン


 ルンルの落雷が迫る人々に炸裂。

 通電した雷によって火花が散る。


【アタシがいるんだからねぇっ!】


 ルンルは人々の頭を掴んで投げたり、パンチをを繰り出し吹っ飛ばしたりしている。

 ルンルの格闘戦なんて珍しいわね。


【オラァッ!

 どんどんこいやぁっ!】


 ルンルの言葉もいつものオカマ口調が鳴りを潜め出した。

 前方でルンルが大立ち回りをしている間後ろから人々が迫ってくる。


(コワスゥゥゥ)


 ゆっくりゆっくりにじり寄ってくる。

 早くルンルをに助けを求めないと。


「か……

 あ……」


 ダメッ。

 まだ回復してないから声が出ない。

 近づく人々。

 手を伸ばし始めた。


 もう駄目。

 私は目を瞑った。

 すると声が聞こえたの。



魔力注入インジェクトッ!」



 弾丸の様に身体が飛んできたかと思うと、近づいて来た人々があっという間に薙ぎ倒された。

 動けず膝まついていた私は見たの。

 護る様に立つ逆光に晒された竜司の勇姿を。


 顔だけ振り向いて竜司が私に話しかけて来たわ。


「蓮っ!?

 無事かっ……!?

 って大丈夫?」


 私は頬に水が流れるのを感じた。

 私は泣いていたのだ。

 危機を救ってもらった安心感か、竜司に遭えた嬉しさからか。

 それはわからない。

 ただ私は魔力過多によって動けず前を見つめて泣いていた。


(ハカイスルゥウゥ)


 操られた人が近づいて来た。

 すると近づいてくる人々の方に振り向いた竜司が叫んだの。


魔力注入インジェクト!」


 そう叫んだ竜司は弾け飛び、人々の群れに飛び込んだわ。

 人々は踵を返し竜司の飛び込んだ場所に群がったわ。


 そしたら真横に一人吹き飛んできた。

 それを皮切りに群がった人々が次々と飛んできた。

 竜司の姿はまだ見えない。


「ガレアーッ!

 魔力閃光アステショットッ!」


 竜司の声が聞こえると眩しい白色光が中心から見えたわ。

 巻き込まれた人が次々と薙ぎ倒されていったわ。


「大丈夫?

 立てる?」


 後ろから声が聞こえた。

 振り向くと小さな女の子が立っていた。

 フリフリの服とフリルスカートを履いている。

 凄い格好ね。


 両手に武器を持っているわ。

 もしかしてこの子が夢野遥ゆめのはるかさんかしら?


「あなたが蓮ちゃんね。

 竜司お兄たんの大事なひとっていう」


 私はそれを聞いて赤面したわ。


「べっ……

 別に私と竜司はそういう関係じゃ無くて……

 ……っでも助けに来てくれた時はカッコイイとか思っちゃったけど……

 ゴニョゴニョ……」


「え?

 何?

 聞こえないわよっ!」


 そのフリフリの女の子は元気に聞いてくる。

 私は手と顔を左右に激しく降ったわ。


「べべっ……!

 別に何でもないわよっ!」


「まあ、いいわ。

 ホラ立てる?

 そんな所で座ってるとまた襲われるわよ」


 そのフリフリの子の手を取り、私は立ち上がった。

 よし立ち上がれる。

 もう少しで回復するわ。


「私は夢野遥ゆめのはるかッ!

 よろしくね蓮ちゃん」


「ええ、私は新崎蓮しんざきれん

 よろしく」


 自己紹介を終えた辺りで左右から人々が迫って来たわ。


(コワスゥゥゥ……)


(モヤスゥゥゥ……)


「来た来た。

 蓮ちゃんっ!

 イケる!?」


 私は手をギュッと握りしめ回復を確認した。


「あともう少し……

 もう少しで戦える様になるっ……」


「わかったわ。

 スミスッ!

 五大大牙ファイブタスクス全部出してっ!」


 すると後ろからドスドス身体の大きい薄赤色の竜が近づいて来たわ。


五大大牙ファイブタスクス全部っ!?

 と言う事はやるのですな?

 はるはる……

 仰せのままにぃ!】


 地面に五つの武器が投げ放たれた。

 すると遥が何かを呟きだしたわ。


涅槃ねはん揺蕩たゆたう魂よ……

 沙羅双樹に帰りし如来の遺志により……

 我、刃にて一切を断つ……!」


 遥を中心に薄赤色の大きな渦が現れた。


「こ……

 これは……?」


【これは絢爛武踏祭アームドフェスティバルを使用する前に必ず行う儀式セレモニー

 人間で言う所の定常動作ルーティン

 言ってる事には特に意味は無いでござる】


 聞いた事がある。

 一流のスポーツ選手は毎回決まった動作を行う事によって最高の精神状態で試合に臨むという。

 どんどん薄赤色の渦が大きくなる。

 魔力が集まっている様だ。

 遥が眼をカッと見開いた。


「解脱せよっ!

 絢爛武踏祭アームドフェスティバルッ!」


 遥がそう叫ぶと周りにあった五つの武器がふわりと浮いて周りを回り出したわ。


「よぉ~し、蹴散らすわよぉ」


 ブオッ


 風だ。

 そう思ったらもう遥は居なかった。

 音も無く一瞬で群れの中に入ったんだわ。


(ガァァァッ!)


 ドカーンッッ!


 人が簡単に飛んでいる。

 こんなに人って軽かったっけ?

 しかも不思議な事に倒れた人々は起きてこない。


 今までは倒れても倒れても起きてきたのに。

 隣の大きい竜は自慢げに言う。


【ふっふっふ。

 今はるはるの身体は北風が騎士を作ったウィンド・ナイツ・ソードの効果によって動きは倍加。

 スピードは豹に匹敵しますぞ。

 そして起きてこないのは甘美な蜂スウィートビーの極度麻酔の効果っ!

 今のはるはるに適うものなどはおりますまいて】


 私はただただ呆気に取られて人々が蹴散らされる様子を見ていた。

 いけないボーッとしてる場合じゃない。

 私も竜司を助けないと。

 もう一度私は手を握ってみた。


 よし、行ける。

 私はすぐに立ち上がり竜司の方へ走って行った。


「竜司っ!」


「蓮っ!」


 戦っている竜司がこちらを振り向く。


「竜司!

 しゃがんでぇ!

 電通銀鎖エレクトロ・シルバー・ウェブッ!」


 私の声に竜司がしゃがむ。

 手の射出機からワイヤー射出。

 迫る人々の間を潜り抜け私の手元に戻ってくる。


 バリッ


 私達の周りの人々はほぼ全員倒れたわ。


「蓮……

 それは……?」


「私の第二のスキル“電通銀鎖エレクトロ・シルバー・ウェブ”よ。

 原理は簡単。

 この射出機からワイヤーを飛ばして電気を流しているだけ」


「凄いね……

 そんな射出機って売ってるの?」


 竜司は少し引いているのか複雑な表情を見せた。


「ママにもらったの」


「へぇ、蓮ちゃん。

 なかなかやるじゃない」


 五つの武器をプカプカ浮かせている遥さんが寄ってきた。


「遥さんこそ。

 絢爛武踏祭アームドフェスティバルって最強じゃないですか」


 私は正直に見たままを伝えた。


「そうでしょっ!

 エッヘンッ!

 でも弱点……」


 ガキィン!


 そう言いかけた遥さんの右頭上で大きな金属音がした。

 上を見ると名児耶杏奈が蹴りを入れている。

 しかし遥には届かず五つの武器が遥をキッチリ防御していた。

 名児耶杏奈はそこからひらりと飛び私たちの正面に着地。


 いよいよ親玉登場ね。


 ###


「さあ、今日はここまで。

 今日の話は後から蓮に聞いた内容だったんけどね」


 たつは難しそうな顔をしている。


「パパー、オカマみたい。

 気持ち悪い」


「ごごっ……

 ごめんっ!

 この話も長くなってるし、パパもたつを飽きさせないように色々考えたんだよ」


「パパ気持ち悪い……」


「ごめんね、次からはいつもの感じに戻るから……

 さあ、今日はもうおやすみ……」

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