第三十九話 竜司、天涯と決着

「やあ、こんばんわ。

 今日も始めていこうか」


「うんっ」


 ###


 僕はまず相手の出方を伺う事にした。


「ケイダ!」


 ケイダの口から小さな光弾が広範囲に何発も射出された。


「うわっ」


 僕は転がりながら何とかそれを躱した。

 なるほどあの竜は散弾タイプか。


「どうしたァッ!?

 そんなものかガキィ!

 まだまだ行くぞォッ!」


 次々にケイダの口から散弾が射出される。


 一,二発被弾。

 だがそんなに痛くない。


魔力閃光アステショット!」


 僕は隙を見つけ、一発閃光を放った。

 六角形の壁が天涯の前に現れ弾く。


「そのような光線など”光盾イージス”には通用しませんよ……

 フヒッ」


「やってみなきゃわからないだろ!

 魔力閃光アステショット!」


 僕は回り込んで後ろから閃光を放つ。

 が、やはり光盾イージスで反射してしまう。


「無駄だと言っとるのがわからんのかぁっ!」


 ケイダの散弾がばら撒かれる。

 僕も避けるのが精いっぱいだ。

 あの光盾イージスをどうにかしないと。


 どうする?


「ガレアっ!

 こっちへこいっ!」


【おうよ!】


 僕は考えた。

 あの光の盾は反射に限界があるんじゃないかと。

 許容量を超えた閃光を浴びせれば割れるんじゃないかと。


「相談は終わりましたかぁ……?」


「ああ、お前に勝つ方法を思いついたぞ」


「くっ!

 また”お前”などとっ……!

 目上の人間を敬えェッ!」


 天涯が怒りの目をこっちに向ける。


「フーッ……」


 僕はイメージをした。

 MAXで放ってしまうと、もし天涯に被弾した場合殺してしまうかもしれない。


 人殺しは嫌だ。

 そこまで大きくない中ぐらいの太さで持続時間を長く。

 照射時間を長く。

 そんなイメージをした。


魔力アステ……

 閃光ショット!」


 MAX時よりも太くない。

 思い描いた閃光が放たれた。


「無駄だぁ!」


 天涯の前に現れる六角の光の盾。

 光の盾に閃光が当たると天涯の後ろに細かい閃光となって四散した。


 反射がさっきの時と違う。

 僕の読みは正しかった。

 そう思ったよ。


「ガレアァァァッッー!!

 もっとだぁっっっ!

 もっと出し続けろぉぉぉっ!」


「ぬ……

 これは強力……

 まずいかもしれん……」


 天涯がこう言ったのを聞き逃さなかった。


「ガレアァァァァッッ!

 頑張れぇぇぇっ!」


 じきに閃光が止む。

 辺りはガレアの閃光による土煙で視界が悪い。

 僕は次の行動に打って出ていた。


「ようやく止みましたか……

 にしても凄い煙だ……」


「でやぁっ!」


 僕は天涯の右脇から拳を握り、殴りかかっていた。


 完全な不意打ち。

 僕がこんなに間合いを詰めてきているとは思ってもいまい。

 煙の中から飛び出た僕は天涯の顔を見た。

 すると



 笑っていたんだ。



光槍フォトン


 天涯の左手から放たれた光線が僕の腹を襲った。


「グホォォォッッ!!」


 体はくの字に曲り、僕は吹き飛んだ。


 なんだ?

 何が起きた?

 なぜ僕は空を見ている。


「!!」


 僕の腹を激痛が襲った。

 痛い!

 痛い!

 痛い!


「な……

 なにが…………?」


「ハァッハッハッ!

 愚かなり皇竜司すめらぎりゅうじ

 アナタが間合いを詰めてくる事ぐらいお見通しですよ!」


 仰向けに寝ている僕の側まで天涯が来る。

 そして僕の顔を踏みつけて


「このガキィッ!

 謝れ謝れ謝れ謝れぇぇぇっ!

 この私に許しを乞えぇぇぇぇ!!」


 足で踏みつけられたまま僕は言葉を捻り出した。


「……誰が……

 謝るもんか……

 お前は……

 ただのクズだっ!」


「このぉ!

 まだ減らず口をっ!」


「何度でも……

 言ってやる!

 ……ハァッ……

 お前は……

 ハァッハァッ……

 唯の吉田ヨシオだ!!」


「その名前で私を呼ぶなぁぁぁぁっっっ!

 光槍フォトン

 光槍フォトン

 光槍フォトン!」


「!!

 !!

 !!」


 天涯が左手を下に向け立て続けに閃光を放つ。

 僕はもう痛みを感じる事も出来ず、意識が朦朧としてきた。



 その時



【待ちなっ】


 誰かが天涯の手を掴んだ。


「お……

 お前は……」


 ヒビキだ。

 ヒビキが来てくれた。


「ヒビキ……

 何……

 仕事……」


 何で?

 仕事はどうしたの?

 って聞きたかったけど声にならなかった。


【いや、仕事は抜け出してきた。

 やっぱ氷織ひおりの事が心配になってさ。

 何せアタシは氷織ひおりの親代わりでもあるしねっ】


「……そう……」


 僕はヒビキに担ぎ上げられ、脇に寄せられた。


氷織ひおり

 竜司は頼んだよ】


「わかった」


 氷織ひおりが僕の側まで来る。

 ヒビキが頭を掻きながら


【まあ、何だ…………

 天涯さん…………

 アンタやってくれたねぇ……

 敵討ちとかはガラじゃないが……

 アンタ覚悟は出来てんのかい?】


「何おうっ!?

 貴様も我が僕にしてくれる!」


 天涯が左手をかざす。

 光の明滅がヒビキを襲う。


「私に従いなさい……

 私に従いなさい……」


 すると頭を掻くヒビキ。


【……それ催眠だろ?

 竜の構造と人間の構造が一緒なわけないだろ。

 アンタ竜に催眠をかけたことないね?】


「なにぃ!!?」


 天涯が焦っている。


「ならこれはどうだぁっ!?

 光槍フォトン!」


 天涯の左手から閃光が放たれる。

 が、ヒビキに当たるとパキパキに凍って下に落ちて割れた。


「なんと!?」


 ヒビキが歩み寄る。

 足を踏みしめるとそこから地面が凍っていくのがわかる。


「しかしィィッ!

 私には光盾イージスがある。

 これさえあればどんな攻撃も反射……」


 ヒビキが手をかざす。

 巨大な氷塊が前に出現。


【ほい】


 手を前に倒すと氷塊が天涯目がけて猛スピードで突進する。


「ぶほうっ!」


 光盾イージスもパリパリに割れ、氷塊は天涯の顔面に激突。

 吹っ飛ぶ天涯。


【アンタの光盾イージス……

 だっけか?

 反射するのは閃光系だけだろ?

 そんなもん物理的な攻撃しかけりゃ何てことないさ】


「こんな事が……

 こんな事が……」


 やはりヒビキは強い。

 天涯も戦意喪失かと思った。

 その時


「こうなったら!」


 天涯が僕と氷織ひおりの方に走ってきた。


 氷織ひおりの首に左手を当て


「近づくなぁっ!

 近づけばこいつを捻り殺ーす!」


 悪党が決まって取る手段だ。

 でもヒビキは動じない。

 頭を掻きながら


【アンタそれが誰だかわかってんのかい?

 天才竜河岸だよ?】


 すると氷織ひおりは首にある天涯の手を掴み……


氷消瓦解オーバークーリング……」


 スキル発動。


「へ…………?

 ひぎゃぁぁぁ!

 私の手がぁぁっ!

 私の手がぁぁぁぁっ!」


 天涯の左手は真紫色になり、皮膚がひび割れている。

 指一本も動かせないようだ。


 氷織ひおりは腹の誇りをパンパン払いながら


「ヒビキ違います。

 私は天才美少女竜河岸です」


【さあっ

 年貢の納め時ってやつかね?

 天涯さん】


 ヒビキが詰め寄る。

 天涯はもはや戦う術を持たない。


「ヒエッ!

 どっ……

 どうすれば……

 どうすれば……

 はっ!?

 ケイダァッ!」


 ケイダが天涯の側まで歩み寄る。


「私はこんな所では終われん!

 終われんのだぁっ!」


 するとケイダと天涯が眩しく光り始めた。


【うわっ

 眩しっ】


 じきに止むとそこには天涯とケイダは居なかった。


【逃げたか……】


【竜司っ!?

 大丈夫かいっ!?

 おいっ!

 竜司っ!】


 僕は既に気を失っていた。


 ###


 目が覚めた。

 そこは知っている天井。

 ヒビキの家だ。

 時間は午後七時。


【おっ!?

 目が覚めたかい!】


「ここは……

 つうっ!!」


 腹に激痛が走る。

 中から何か刺さる。

 そんな痛みだ。


【アンタ三日寝てたんだよ。

 とりあえずこの三日間少しずつガレアの魔力を注入して様子を見ていたが目が覚めて良かったよ】


「魔力を……?」


【アタシ他人の魔力を使うなんてあんましやったことないし

 マザーの衆じゃないから癒しの力なんて持ってないし

 あくまで応急処置としてね】


「ガレアは……?」


【いるよ。

 おーいガレア!

 竜司が目を覚ましたよ!】


 ガレアがのそっとリビングから登場。


【おっ?

 竜司、気が付いたか!

 良かったなあ!】


「ごめん、ガレア負けちゃった……」


【いいんじゃね?

 こっからパワーアップして!

 シャイニングアステバンみたいになるんだろ!?

 ムフー】


 この返答を聞き、僕は思った。

 僕の竜がガレアで良かったと。


「ヒビキ、すいません。

 僕の携帯をとってもらえます?」


【待ってな】


 ヒビキがスマホを持ってきた。


「僕がこんな状態なので電話をかけてほしいんですよ。

 かける人は”蘭堂凛子”で」


【よしきた!

 蘭堂凛子ね……

 あった】


 僕はヒビキに電話をかけてもらい耳に当ててもらう。


「もしもし」


「もしもし竜司君?

 どうしたの?」


「すいません……

 ちょっと戦闘で負傷してしまって……

 グースの力を借りたいと思いまして……」


「わかったわ。

 で、今竜司君はどこなの?」


「奈良県の天涯市です……」


「奈良!?

 ちょっと遠いわね……」


「そこはガレアの亜空間を使います」


「なるほどわかったわ。

 じゃあ準備してるから」


 電話終了。

 次はガレアだ。


「ガレア……」


【何だ?】


「お前、亜空間で凛子さんの所まで行って凛子さんらを連れて来て欲しいんだ」


【てことはカンナもか?】


「そこはお前に任せるよ」


【べべっっ……!

 別にっ!?

 カンナに!?

 会いたいとかじゃねえからな!!】


「頼むから早くしてくれ……」


【へいよう】


 ガレアの左に通り抜けられるぐらいの穴が出来た。

 そこに入るガレア。


 十分後


「……レア、久しぶりねえ」


「ガレアちゃーん久しぶりー」


【カンナ様、あまり騒がれると亜空間に取り残されますよ】


 最初に凛子さん、続いてガレアとその下顎にくっついたカンナ。

 そしてグースと次々出てきた。

 僕は知り合いの顔を見て安心したよ。


「あー!

 竜司にーちゃん!

 どうしたの!?」


「グース準備を。

 急いでっ」


 凛子さんが僕の側に来て布団をはがす。

 眼が赤い。

 多分流透過サーチを使ってるんだろう。

 僕の体を手をかざし診察しているのだろう。


「うん……

 脾臓、肝臓、大腸の上……

 上行結腸もかなり傷んでいるわ……

 肋骨も相当本数折れてる……

 ただ肋骨はもうくっつき始めているわ……

 グースお願い」


【はい、マスター


 グースの手から優しい緑色の光が放たれる。

 次第に僕の体を包む。


 五分後


 ###


「今日はここまで」


「パパー、何か中途半端だー」


「パパも色々考えてるんだよ。

 じゃあ今日はもうおやすみ……」


         バタン

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