第十一話 ガレアの宴会芸

「やあ、こんばんは。

 今日も話を始めようか。

 昨日は宴会がスタートした所からだったね」



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 昨日の最後に言ったよね。


 ガレアがビール持ってるって。


 止めれば良かったんだけど乾杯のコールに押されてそのまま。

 面目ないね。


 そして宴会がスタート。


「ボンズ、どこから来たんや!?」


「あ、加古川からです……」


「そうかそうか、よしっ呑めっ!」


 ワタナベさんが並々についだビールのコップを僕に差し出す。


「いえ、僕は未成年ですので……」


「何やおもんないやっちゃなー、ワシなんか十二歳から飲んでたで!」


 僕は早くに酒を飲むようになるとこうなるんだなって思ったよ。


「ボンズ、夏休みの宿題はやったんか!?」


「あ、いえ……」


「わかるわー、ワシもな!

 ボンズぐらいの頃、宿題でヒーヒー言ってたんや。

 特に絵日記が大嫌いでなあ。

 最後の方とかペガサスを見たとか宇宙人に会ったとか書いてたんや!

 傑作やろ!?」


「ペガサスですか……?」


 僕の反応を見たワタナベさんが急にシュタッと起立してこんな事を言い出したんだ。


「一年二組ワタナベゴロウ!

 今日僕はペガサスを見ました!

 綺麗だったです!

 おわりっ!」


 言い終わると周りから拍手が巻き起こった。


「出たー!

 ワタナベさんお得意の“ワタナベペガサス”!」


「これホンマやで!?」


 呆気にとられている僕を見て賢治さんが話しかけてくれた。


「びっくりしただろ?

 これワタナベさんが酔うと必ずやるんだよ。

 でもよりにもよってペガサスってねえ……」


 この賢治さんのソフトツッコミで我慢の限界がきて笑ったんだ。

 もう大爆笑。


 涙をふく目でワタナベさんを見るとニカッと笑う。


「一年二組ワタナベゴロウ!

 今日僕は宇宙人に会いました!

 僕も宇宙に行きたいです!

 おわりっ!」


 更に周りから拍手が起きる。


「出たー!

 “ペガサス”からのコンボ技“スペースワタナベ”!」


「だから何度も言うけどホンマやねんで!?」


 笑いながら皆にこう弁明するワタナベさんを見て、出会った時こそ怖かったけど、根は優しい人なんだなって思った。


 宴会って出るのは初めてだったけどこんなに楽しいものだなんて知らなかったよ。


 え?

 ガレアはどうなったかって?


 お察しの通り酔っていたよ。


「ガレアー?」


【そこにいりゅのは竜司君じゃないきゃ!】


「お前……

 酔ってるだろ?」


【バキャな事を言ってんにゃよ!

 俺様が酔ってるって!

 酔ってるって!!

 フー……

 ねー竜司、酔ってるってなあに?】


 出たガレアのキョトン顔。


「酔うってのは……

 どう説明しよう……」


【ねーねー竜司ーおせーておせーて!】


 ガレアが僕に覆い被さって来た。

 ええいうっとおしい。


 僕は正直そう思ったね。

 すると賢治さんが話しかけて来たんだ。


「どうしたの?

 竜司君」


「あ、いえ……

 ガレアに“酔う”ってどう説明したら良いかわからなくて……」


「そうか、どう言ったらわかるかな……?」


 そこで意外な人が助け船を出した。


「ボンズ、どうしたんや?」


 僕は事のあらましを説明した。


「何や、そんな事かいな!

 よっしボンズ、任しとけ!

 こう言ったらええねん!

 “気持ち良くなる事”ってな」


「はあ……」


 半信半疑だったよ。

 祖父は酒を飲まないし、酔ってる人ってのは物語の中だけって思ってたから。


 僕はそのままガレアに伝えてみた。


 これで変な事になっても僕が悪いんじゃない。

 ワタナベさんが悪いんだ。


 そしたら……


【気持ちよく?

 キモチ……

 ヨク……!

 竜司!

 俺!

 もっと気持ち良くなるっ!】


 するとガレアが中瓶五本を一気にラッパ飲みし始めた。

 その時は焦ったね。


 ガレアどうなんの?

 って純粋に思ったよ。


【プハー気持ち良いー!

 なあなあ竜司!

 これが酔うって事なんだな!】


「おっ!

 そこの竜!

 なかなかやるやんけ!」


 ワタナベさんとガレアが飲み比べし始めたんだ。


「ワシなんてこうやもんね」


 中瓶一本ラッパ飲み。

 飲み干すのがガレアより早い。


【にゃにおー!

 とう!】


 負けじとガレアも一本ラッパ飲み。


「はいはい、引き分け引き分け」


 見かねた賢治さんが止めに入った。

 でも二人は離れずお互い呑んでいた。


「なあ、竜って何で来たんやろ?」


【アステバン見てー】


「そうか、そらお前らにもわからんわな……」


 ワタナベさんの顔が男前になっている。


【岡本君凄かったなあ】


「何!?

 本当は人間ともっと仲良くしたいやって?

 泣かせる事言うやないか!」


 ワタナベさんとガレアの会話。

 全く噛み合ってないのに、何かコミュニケーション取れてる風だったのが印象的だったよ。


「ねーねー竜司兄ちゃん。

 ワタナベさんなんで泣いてるのー?」


 カンナちゃんは竜河岸たつがしだ。

 だから二人の噛み合ってなさも理解できる。


「僕にもわからん」


「ボンズ、この竜何て言うんや?」


「あ、ガレアです」


「よっしゃ、ガレア!

 お前これ出来るか?」


 ワタナベさんが空の中瓶を数本拾い、ジャグリングし始めた。

 するとまた拍手が起きる。


「出た!

 ワタナベさんのシメ芸“ワタナベジャグリング”!」


 ここまでは普通のジャグリングだったけど、ここからが凄くなるんだ。

 周りから……


「ワタナベさん行きますよー」


「こいやあ!」


 何を?

 って僕が思ってるうちに中瓶がワタナベさんの方に投げ込まれた。


 上手くキャッチしてジャグリングを続けるワタナベさん。

 最初三本だったのが最終的に六本まで増えたからね。


 これで食ってけるんじゃないって思ったよ。


「どや?

 ガレア、ワシ凄いやろ?」


 ガレアは無言で空瓶を拾い始めた。

 その数合計十本。


 ひょいひょい


 器用にジャグリングを始めたよ。

 肩や尻尾や角なんかをに使ってね。


 見事に十本の瓶が宙を舞っていたよ。

 ここからがガレアの芸の凄い所だ。


 全ての瓶を長い爪を使って、お手玉のように弾き始めたんだ。


 そして最後全ての瓶を宙に浮かべ大きな口で一気にガブリ。

 呑みこんだんだ。


 僕は最初びっくりした。

 お腹壊すんじゃないかとね。


 と、そこへ意外な人が話しかけて来たんだ。 


【心配いりません竜司様。

 竜の胃はマグマも呑めるほどに強靭です】


「そうなんですか?」


 そんな話をグースをしていたら凛子さんが話しかけて来た。


「ちょっとお話ししない?

 竜司君。

 グースと三人で」


「あ、いいですよ」


 そして僕らはテラスに出た。



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「さあ、今日はここまで」


 するとたつが枕とぬいぐるみを上に投げた。

 キャッチできず。


「難しーな」


たつ、そうゆうのはすぐにできるものじゃ無くて練習して出来るようになるんだよ。

 ワタナベさんだって、ガレアだって……

 ガレア?

 ガレアはどうなんだろ?」


 そういえば僕はガレアと別れるまで宴会芸の謎を聞かないまま別れたなあ。


「まあ、いっか。

 じゃあたつ、布団に入って。

 ……おやすみ……

 また明日……」


 バタン

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