償い転生-虐殺の英雄ですが守ってもいいですか?-

星光 電雷

序章 砕けた魂を拾い集めて

第1話 此処は黄泉の国 神の域


「ここは…」


 目が覚めたら俺は白色の空間にいた。


 壁などはないのか見渡す限り白一色だ。


 状況が理解できず呆然としている俺に正面から声がかけられる。


「お目覚めですか英雄さん」


「!?」


 驚き反射的に後ろに飛びのきながら目の前に突然現れた人物を確認する。


 そこにいたのは俗にいう使だった。


 年は18才ほどで平均的な女性くらいの身長、髪は金髪のロングヘア、瞳は青く澄んでおり空のように綺麗だ。


 ここまではいい、ここまでは…。

 

 そんな彼女の背中には白く大きな6つの羽が生えていた。そう、羽である。

 

 そして相対しているとなんともいえないプレッシャーが自分を襲う。


「…あんたは?」


 目の前の天使は若干困った顔をして答える。


「えっと…そんなに警戒しないでくださいね。私はあなたに害を加えたりしませんので…」


 物凄いプレッシャーは感じるが彼女の言うとおり殺気などは感じない。


「…確かに敵意はなさそうだな」


 俺はとりあえず警戒態勢をとき姿勢を直す。


「ええと…悪かった。軍人としては咄嗟にな」


 謝られた天使は申し訳なさそうに、


「いえいえっ!こちらこそすいませんっ!突然声をかけてしまって…」


 と言ってきた。気配は物凄いが腰は物凄い低いようだ…

…なんだかこっちが悪いことをしてしまった気分になる。


「…えっとじゃあ改めて…あなたは…?」

 

そう尋ねるとあちらも調子を取り戻したように顔を上げ


「はい、私ですね。私はあなたたちでいうところの…でしょうか?」


「神様…?」


 少し疑わしい目で彼女…自称神様を見てしまう。

 自称神様は再び困った顔になり、


「…確かに威厳とか足りないと同僚たちには言われたりしますが一応ちゃんとした

神なので…その目はやめて下さいね…」

 

しまった…思わず疑ってしまった。神様は落ち込み気味である。

 …というか同僚という間柄なのか神たち…知らなくてもいい神様業界事情を知ってしまったらしい。


「悪かった…。俺は…俺は…?」

 

謝りついでに名乗ろうとした俺は困惑する。

 

…自分の名前が…思い出せない。


 自分の異変に戸惑っていると神様が落ち着いた表情で言う。


「…どうやら記憶が混乱しているようですね。ゆっくりと思い出してください。

 あなたの名前はクリムゾン。『クリムゾン・ナインスハイロウ』です」


自称神様の言葉を反芻しそれによって自分の奥に沈んでいた何かが浮かんでくる。


 …そうだ。だんだん思い出してきた。


俺の名はクリムゾン、ナインスハイロウ家の長男だ。


軍人で軍隊長を任せられ国を守るために戦っていた。

 

家族はいたが父と母は俺が幼い時に病で死んでしまった他には…他には………


「………っ!?」

 

記憶を思い出そうとしていたおれは急に目の前がに染まりだし思わず頭を押さえる。


 …なん…だ…こ…れは?


思い出そうとすると思考が紅色に染まる、染まる、染まる


…だんだん気分が悪くなり思考が回りにくくなってきたそのとき、

神様が慌てたように、


「落ち着いてくださいっ!ひとまず思い出そうとするのをやめてくださいっ!」


 と言う。

 それに従い開きかけた記憶をひとまず思考から外し頭を空にする。

すると視界が元に戻った。


「大丈夫ですか…?」


 神様が心配そうにこちらを見ている。


「…ああ…なんとか」


 俺の向かいに座っている神様は少し悲しそうな表情をしている。


はあなたの魂を不安定にしています…無理に思い出さなくてもいいんですよ?」


 確かに思い出そうとすると何かの異常が俺を蝕むのは感じる。

なら思い出そうとしなければきっとさっきみたいにはならないんだろう…でも、


「多分だが…これは忘れちゃいけない気がする。

これを忘れたらきっと…俺は後悔する。何となくだがそう思う」


 何故かわからないがそういう確信があった。

これを忘れたら自分の大切にしていた何かが無くなる気がする。

だから…俺は意を決して神様に言う。


「神様、俺の記憶を戻してもらえないか?」


 すると神様はさらに悲しそうな顔になり、


「世の中には忘れたほうがいいこともありますよ…?」


 と言う。

 

 だが俺はそれでもと言う。


「これは忘れちゃいけないことだ…多分」


「思い出せば魂が砕けてしまうかもしれませんよ…?」


「覚悟は…できている」


 そう言って俺は神様をまっすぐ見る。

 俺の覚悟の表情をみた神様は諦めた表情になり、


「……はぁ…わかりました。

ですがこのままやれば確実にあなたの魂は多大なダメージを受けるでしょう。

ですから私からあなたにあなたの魂を守る能力スキルを与えましょう」


「スキル?」


 知らない単語だ。


「その説明はあなたがここに戻ってくることができた後に」


 そういうと神様の指から何か金色の光がでて俺の体に入っていった。

何か胸の奥が暖かい感じがする。


「ありがとう」


 礼を言う俺に神様は優しい笑みを浮かべた。


「いいんですよ。これが私の役目ですから…それではいきますよ」


 言い終わった神様の胸のあたりから眩い光が出てくる。

そしてその光に飲み込まれて意識が遠のいていく。意識がなくなる直前、


「…どうかご無事で」

 

という神様の声を聞いて、俺の意識はブラックアウトした。

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