名前のない双子

愛されたいなぁ とあなたが言うから

こんなに愛してるのに

と思ったわたしの気持ちは

宙に溶け、水路に溶け、雨散霧消、消えていった。


愛されたいなら と謳う広告がまるで

現代の福音みたいで

美顔、美白、美髪、脱毛、

唱えたら唱えたぶんだけ幸福に近づいていく。


あなたが撒いたお布施のぶんだけ

私はなんだかほんとうに幸福に近づける気がして

現代の福音に人知れず感謝を唱える。


くるんと巻いた人工のまつげが

プロテーゼに支えられた鼻筋が

芸術的な二重の幅が

どれも、まるで

磔になったキリストを思わせるから

思わず私はあなたに跪きたくなる


愛してるのに

わたしの愛では

あなたには足りない



信心が

お布施が

社会的地位が

美貌が

なにもかも足りないから

なにも持たない私の手を

握ったあの日のあなたはたしかに美しかった、


日差しだけ浴びたあなたの、貌

私しか知らない、いまや私だけが知る、

あなたの あの無垢な、顔。



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