異世界の二息の間

影宮

第1話 子は親に似る

「あんたは才造サイゾウに似たねぇ…。」

「そう?」

「無愛想で他人には無口。でも、優しい子。」

「僕は?」

「あんたは才造じゃないなぁ。母さん似ー。」

「「えー。」」

 声を揃えて不満を伝える。

「えー、って何よ。似ちゃったんだからしょうがないじゃない。」

 母さんも頬杖をついたまま、むぅっと不満を返す。

 でも母さんのソレは、妹よりも可愛い。

 なんでだ。

「不満か。」

 父さんが僕の頭をくしゃりと撫でた。

「僕は父さん似がよかった!」

「私は母さん似が良い!」

 父さんは溜め息をついて、母さんの隣に座った。

「見事に逆だな。」

「才造みたいに男前な女の子になんなきゃいいけど。」

「それより、お前みたいな男のままだったら困る。」

「あっはは、確かに困るねぇ。」

 父さんと母さんはそんな話をしながら、僕らを眺める。

「さて、あんたらにちょっとばかし話があるんだけど。」

「なに?」

「母さんね、里帰りしようと思ってんの。だから、お利口さんにしててね。」

「え、お留守番!?」

「そう。あ、才造もだから大丈夫!」

 父さんも驚いた顔をした。

 あれ?もしかして…

「お前、何故それを今言う。」

神呼祭しんこさいなの。コタから知らせが来たってことは、多分なんかあったんだろうし、知らせが来たのは昨日の夜だったから。」

 僕は母さんの里を知らない。

 里帰りなんて、今まで一回も言ってない。

 僕も行きたい。

 行ってみたい!

「ねぇ、僕も!僕も行きたい!」

「私も母さんと行きたい!」

「危ないからダメー。」

 両手で僕たちの頭を優しく撫でながら、母さんはそういった。

 でも、行きたい!

 夕方になると、母さんは鈴をリンリン鳴らしながら歌った。

 綺麗な服で、綺麗な躍りを踊ってる。

 すると、部屋に大きな黒い何かが出てきた。

「んー、こんなもんかな。」

「どれくらいかかる?」

「えーっと、長くても二ヶ月?」

「長いな。」

「帰ってきたらたーっぷり好きなようにさせてあげるから、才造はそれくらい我慢してよね。」

「なら、覚悟することだ。」

「あ、遠慮はしないんだね…お手柔らかに、ね?」

「どうだろうな。」

 そう喋る父さんと母さんの間を走って、妹が黒の中に飛び込んだ。

 母さんは急いで手を出したけど、妹には届かなかった。

「あぁ!やっばい!どうしよ!」

「行くしかないだろうが!」

「って、何ちゃっかり自分も行こうとしてんの!」

「ほっとけるか!っていうか、お前をほっとけるか!」

「違うでしょうが!ってこら!」

 僕も走って妹を追いかけた。

 黒の中は何にもなくて、何も見えない。

 妹はどこ?

「ほら、捕まえた!」

 抱っこされて、母さんに捕まった。

「あとは……あぁ、いたいた。」

「捕まえたぞ。」

「もぅ、ここまで来ちゃったら後戻り出来ないじゃないの。」

「さて、行くか。」

「清々しいくらいにいい顔するね。腹立つ。」

「そういうな。」

「かっこよすぎて腹立つ!」

 黒の中を父さんと母さんに抱っこされた僕と妹はそのまま一緒に歩いた。

 いきな目の前が明るくなった。

「懐かしいな。」

「ホントにね。コター!」

「来たか。」

 知らないおじさんが風と一緒にやってきた。

 誰だろう?

「我が子です。」

「連れてきたのか。」

「うーんと、勝手についてきちゃった、かな?」

「で、お前もか。」

「子供を追ったついでに。」

「で、何かあったわけ?」

「あぁ、影が必要になった。」

「あらま。そりゃまたなんで?」

 長くなりそうだから、僕は母さんから降りる。

 母さんは怒らないでおじさんとずっと話しっぱなし。

 見たこともない蝶々も沢山いる!

「じゃぁ、宿をとるしかないね。」

「あぁ、宿は用意した。」

 母さんに手を繋がれて、知らない街に行く。

 大きな家とかが、いっぱいある。

 変な人もいるし、凄い。

 歩いていくと、大きな建物についた。

 鍵を開けて入ると凄い広いお部屋だった。

「滞在中はずっと使っていい。」

「ありがとさん。そんじゃ、さっそく準備かな。」

「頼む。」

「才造、子供連れて散歩でもしてて。」

「あぁ、そうする。」

 父さんと一緒に部屋を出て、外を歩く。

 色んなお店もあって、僕は父さんと妹がお店を見ている隙に、走って違うお店に行った。

 どんどんあっちこっち行ってると、帰り道がわからなくなった。

 父さんも見えない。

 声もない。

「おい、坊主、ここはガキが来るとこじゃねぇぞ。」

 ナイフを持った男の人がきて、僕にがらがら声でいう。

「痛いのが嫌なら出ていけ。」

 ナイフを僕に向けてくる。

 僕は足元にあった棒切れ拾って強く握りしめて












 母さんが歩いてくる。

 静かに、影を踏みながら。

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