不思議研究会

潰れたスイッチ

妖怪




放課後、校舎の隅の生徒や職員からあまり使われず、ある人物が職員から勝ち取り、会の溜まり場として使えるようになったここ、不思議研究会の部室。

会なのに部室とはこれいかに、と副会長が突っ込んだが、じゃあ会室とは何か、ということになり未だに部室と呼ばれているこの部屋で、二人の少年が読書をしていたり、宿題をしていたりと、各々かなんとなくやっている中、ふと読書をしていた少年が口を開いた。


「妖怪。日本で伝承される民間信仰において、人間の理解を超える奇怪で異常な現象や、あるいはそれらを起こす、不可思議な力を持つ非日常的・非科学的な存在のこと」

「いきなりどうしたし」


もう一人の少年が呟くと、少年はやれやれと言ったような仕草をして、


「んや、つい昨日そういう系のヤツ見たから」

「妖怪○ォッチ?」

「残念夏目友○悵」

「ふうん、で?」

「居んじゃね?」

「おいマジか」


少年は何かを決意した目をしていた。


「行くぞ昇二」

「え、普通にイヤだけど?」

「会長命令だ、副会長よ行くぞ」

「だが断る」

「ヨーグル三つ奢るから」

「何をしてるさっさと行くぞ」

「そんな現金な君を俺は心から尊敬するよ」


即座にもう一人の少年、副会長、狭間昇二はざましょうじは、持っていたシャーペンを投げ捨て、部室を出た。後から会長、万圭太よろずけいたも追いかけるように出ていった。







「ーーーでまあそんな隠れミッ○ー感覚で見つかる訳もなく」

「まだだ、まだ終わらんよ………!」

「諦めろよ」

 

冷静に考えてみれば、そんな簡単に見つかる訳がないと気付いた昇二は、何やら再び立ち上がろうとしている圭太を尻目にスマホを確認する。

夏真っ盛りなため辺りが暗くなるのが遅く、気付けば七時を超えていた。


「もう七時じゃん、帰ろうぜ」

「むむむ、致し方無し」

「どんなキャラだ」


そうは言ったものの圭太はまだ諦めていないようだ。一体何が彼をそこまで駆り立てるのだろうか。


「というか何で守護神《ガーディアン

》も呼ばなかったし」

「日課だよ」

「………ああ」


なるほどつまり来ないということだな、と思いつつスマホを弄っていると、掲示板に載ってある、ある情報を発見する。ちなみに圭太は、あんのロリコンめがぁ……!と下唇を噛んでいる。


「……おい」

「ん?」

「これ」

「どれ?」


昇二は見つけた掲示板を圭太に見せる。そこにはいくつもの妖怪や都市伝説の目撃情報があった。


「わーおご都合主義」

「ご都合主義っていうかこれ結構前から載ってるぞ」

「つまり?」

「このネット社会な世の中現代文明に一切頼らなかったバカ二人」

「おうふ……」


崩れ落ちる圭太。しかし反論を思い付き何とか持ち直す。


「い、いやでもそういうもんって大体嘘じゃん」

「まそうだけど、これ妙に多いんだよね。しかも消え方も全部同じ」

「消え方?」

「全部突然消えるんだって。共通点そこ」

「……最初のデマに他全員が乗った線は?」

「なくないけど、三百何人全員がか?」

「え、そんなに目撃情報あったの?」

「あるんだなこれが」


まじか、と呟きながら自分もスマホを取り出し、同じ掲示板をひらく。 


「…あれ?これ全部時間帯バラバラじゃん」

「そうだな」


よく見てみると、登校途中だったり会社帰りだったりする。


「完璧に同じシチュエーションっていうのはないな」

「待て、一個ぐらいは、一個ぐらいは………!」

「どこに躍起になってんだ」


しかしこうなるただの暇人集団の他にもうひとつ可能性が見えてくる。


「………能力スキルか?」

「……まじかー、あいつらに生き残りがいたの?」

「いや、一人残らす潰したからそれはないと思うけど……」

「じゃあ新しい奴?」

「たぶん」

「……妖怪を呼び出すスキルとか?」

「どっちかっていうと、幻覚を見せるスキルとか?消え方的に」

「んー分っかんねーなー」


圭太が頭をポリポリ掻きながら掲示板を見返し、肩を落とす。


「取り敢えずまた明日だな、こんだけ数居んだから学校の中に妖怪見た奴一人位はいるだろ」

「ハァ、また明日か」

「時間が時間だし帰るか」

「そうだな」


そうして、昇二が帰ろうとした時


「…ん?」

「どした?」

「いや、視線を感じた」

「え、何怖い」


辺りを見回すと、少し離れた路地裏から、少女が此方を見ていた。


「……おいあそこ」

「どこ?」

「だからあそこの路地……うら?」


昇二がもう一度見たときには、もう既に少女の姿はなかった。


「おいどした?」

「いや、何でもないって言おうと思ったけどこう言う場合大体伏線だから何でもなくないわ。女の子がいた。」

「オッケ女の子ね。どんな?」

「いや、そこまでは見てないけど」

「よく見とけや」

「いや見ず知らずの女子をじろじろ観察しろっていうのは無理がある」

「何て奴だ」


気になることはあったが、これ以上ここに居る理由がないため、引き上げることにした。

明日はまず情報収集をしようなんて思いながら。






この時の二人はまだ、あんなことになるとは思いもしなかった。





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