別視点の影より

 私たち三人がまだ、楽しくやっていたころ。


 ということは松山君がまだ生きていた頃―


 私の裏で起こっていたこと、私にとっては少しばかりだが、小雪ちゃんが説明をしてくれた。今にも消えそうな弱弱しい声で......。



 また、書く。



 ―――――――――――――――――


 始まりは夏盛りの朝。


 病院を囲む緑と川とそしてすこし遠く、目を細めってじっと眺めると見える海。

 都会の色とはまた違う、無垢な青。なにを混ぜてもかき消してくれそうな強い青。


 それは私の病室からも見える。


 その奥、少し......いや、あれは遠いな。薄暗く雲か霧によって隠されている。天気が好都合な日にしかはっきり見えない。雨の日は......海すらも見えない。



 今日は快晴。街の港が船を送っていた。そしてぽつぽつと船が行き交っている。



 音は届かないが、よく船を眺めることがある。それは三人とも。



 そんな朝、松山君と小雪ちゃんは私に隠れて、ある話をした。



 二人は私がここへ入院する前からの友達だ。


 だから過去の私がそれを聞くと特に何も感じない。しかし今、彼が死んだ後に聞くと、なんとも謎めいて少し怪しい雰囲気を醸し出している。



 私を放って彼らが向かったもうひとつの休憩室。位置を確認すると、私の部屋から結構遠いところだった......。



 そして二人が話していた内容は「恋」についてだった。



 松山君は少し周りを伺うようにして



「えっとな......あの」


「なに?どうしたの??」



 小雪ちゃんはいつもの穏やかな雰囲気で聞き返した。



「俺に好きな人が出来たんだ」



「えっ?!本当に?誰??って......まさか...?!」



 ......松山君は、私のことを好きになったんだって。



「部活なんかしていないのに、嘘ついた」



「本当に?!けど良かったじゃん!好きな人が出来て!」



 小雪ちゃんは笑い喜びながら彼と話をしていたそうだ。


 一層照れる松山君は


「あいつに絶対言うなよ......。知られたくない......。」


「うふふ......わかったよ!」



 本を片手にしていた小雪ちゃんはそっとそれを置くと



「いつから好きだったの?あの子のこと」



 その話に入り込むようにして彼に問いかけた。



「出会ってから。彼女を初めて見たときにちょっと気になってた」



「そう............」




 松山君の声は叶わない恋を連想させる芯のない声。


 自分の殻に閉じこまっているような、そしてここから前兆があった気も......。と小雪ちゃんは話した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る