葉を見ず、花を見ず

喜世

第1章 出逢い

【序】夢

 いつ頃からか忘れたが、同じ夢をよく見る。


 眼に映るのは、荒縄で両手を後ろに縛られた男の背中。

 その背中に触れようと、必死に手を伸ばす。

 しかし、周りから沢山の手が現れ、強引に地べたに押さえつけられる。


 必死に、男の名を叫ぶ。

 けれどその男は決して振り向かない。

 代わりに優しい穏やかな声が返って来る。


『……大丈夫や。心配しな。大丈夫やから』


 必ずそこで現実に引き戻される。

 まるで、その男にこっちに来るなと言われているように……

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