愛の果てにある哀歌(エレジー)

ももちく

第1話

――オリエンタル帝国 闘技場 第2控室――


 帝国第1皇女チャチャ=ジュネッタは眼の前の赤褐色の肌の戦士に人払いをするようにと命じる。戦士は控室にいる自分の従者たちへ控室の外に出るようにと指示を出す。従者たちは不満げな表情を浮かべながらも、チャチャ=ジュネッタの命令に背くわけにはいかない。


 彼らが去ったあと、チャチャは椅子にも座らず、立ったままで戦士に自分の要望を告げる。


「シノジ=ザッシュ。あなた、次の決勝戦では、わざと負けるのじゃ。理由は言わずともわかるはずじゃな?」


 チャチャの一言でシノジ=ザッシュの顔は渋面へと変わる。


「それほどまでに、我輩を嫌っているのでござるか? 我輩はチャチャさまの無理難題をやり遂げてきたのでござる! それが今日、やっと報われようとしているのでござる!」


 シノジ=ザッシュが憤るのも無理はなかった。今回、オリエンタル帝国100周年を祝って催された武闘大会の優勝者には、眼の前の妖艶な女性が与えられるのだ。


 チャチャ=ジュネッタの容姿は三国一と言われており、シノジ=ザッシュは宮中に招かれた際に、この女性に一目惚れをしていた。


 しかし、チャチャは違う。筋骨隆々で顔つきまでまさに武人であるシノジが好きになれない。いや、嫌悪していたといって過言ではなかった。


 だからこそ、父親であるみかどが再三、シノジを推してくるたびに、やれ人食い獅子を退治してこいとか、やれヒトを石に変えるメドゥーサを退治してこいなど、無理難題をシノジに与え続けてきた。


 だが、チャチャの思惑とは裏腹にシノジはその困難を全て打ち払ってきたのだ。


 そして、シノジはようやくチャンスを手に入れた。政略結婚を嫌がるチャチャに代案として、武闘大会の優勝者と結婚せよとみかどが命じたのだ。


 みかどの命ともなれば、いくら第1皇女のチャチャと言えども逆らえるわけがなかった。それゆえにチャチャはシノジが居るこの第2控室にやってきたのである。


「幸いなことに、わらわが寵愛しているミサキ=シャンテリティが決勝まで勝ち残ってくれたのじゃ。いくらやさおとこと言えども、あの男ならば、わらわも結婚をしても良いと思うのじゃ。あとは言わずともわかるはずじゃな?」

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