その魔術師が不死な理由(わけ)
へろりん
第0話 彷徨える魂の迷宮
そこは、今まで降りてきた
地下迷宮独特の淀んだ空気は今までと変わりがない。しかし、ひとつ上の階まではランタンの灯り無しには一歩も進めない程の暗闇だったのに対し、そこは壁の上方に等間隔で設置されたかがり火が明々と辺りを照らしていた。
かがり火と言ったが実のところそれは正確ではない。その灯りは松明に火を点けたものではなく、何か得体の知れない術で灯されたものに相違なかった。
得体の知れない術、『魔術』で。
煌々と輝く魔術のかがり火の下、女騎士リーベは中央に座す不死の魔術師をまっすぐに見つめた。このアンデッドの巣『彷徨える魂の迷宮』の主。禁呪『不死の秘法』を以って不死となり、『
かがり火が揺れる。
その度に、リーベの身体を包むチェーンメイルと金色の髪が、光を反射してチカチカと瞬いた。長く伸ばせばより魅力的だろうに、リーベはその見事な金色の髪をきっちりと頬の辺りで切り揃えていた。まるで、己が女の身であることを拒否しているように。
しかし、一見凛とした美丈夫に見えるものの、長いまつ毛を携えた大きな目や、整った鼻梁、淡いピンク色をした唇は、美しい娘のそれだった。
リーベの青い瞳が屍王を見つめる。
屍王討伐の勅命を受け、討つべき相手を目の前にしても、リーベは少しの気負いも感じていなかった。それは、この最下層に来るまでに幾度もあったピンチを、命の危険を感じることなく切り抜けてきたからばかりではなかった。リーベには不死の魔術師を前にしてもなお、気負うことのない理由があった。
屍王は、骨を固めて作った玉座に座していた。
山羊の頭骨を模した兜を目深に被っているため、その表情は窺い知れない。しかし、屍王もまた自分のことを見つめているのが、リーベにはわかっていた。
兜から覗く顔の下半分は肉が削げ、ゆったりとしたベルベット地のローブの袖から見える手は痩せ細って生者のそれとは明らかに違う。
そうやって暫く見つめた後、リーベはようやく口を開いた。
「久しぶりだな、カルマ」
すると玉座の屍王もまた口を開いた。
「その名で呼ばれるのも久しぶりだよ、リーベ」
骨と皮ばかりの痩せた口元が、少しだけ笑ったように見えた。
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