第8話 買い物。


年末に向けて買い物をした。

母親と行くフランス旅行のためにコートと、靴。

これさえあればなんとかなると。


祖父の三回忌で久しぶりに会った母が

「まさかその汚い靴でフランスに来ないわよね。」

と心配していた。

大丈夫、ちゃんと綺麗なスニカーを買ったよ。


さて。

母とフランスになぜ行くことになったのか、

普通に考えると24歳の若者がやることじゃない。

2人で9日間、旅費は給料3ヶ月分くらい。

そこまでしてなぜ旅に出るのには一応理由があるのだ。


母は学生時代にパリに行ったことがあるという。

もともと旅行好きの母は英語も話せるし、

1人であっちこっち行っていたみたい。


フランスに行った母はその街や空気感に魅了されて、

帰国してからフランス後を学んできた。

2個上の兄と僕と生まれてからも、しばらく続けていた。


小学生の帰ってくると、

母がカセットテープの中のフランス語を喋るおじさんと

会話をしている姿を何度も見たし、

ミッシャルポルナレフ?だっけか。フランスの曲もよく聞いていた。

フランス語はかわいい。


「セボォゥウー」「メルシーボウクゥウ」


口の中で空気を躍らせる。

これは口を大きく開けて喋らなきゃ、使いこなせない。

恥ずかしがり屋の自分は大きな口を開けて喋る母をみて、

なんだか恥ずかしい気持ちになったこともあった。

ただ嫌いではなかった。


そして我が家にはフランスの国旗やらエッフェル塔のイラストが

描かれたもので溢れていた。

コップ、財布、シャーペン、筆箱、ハンケチ、買い物用のエコバックなどなど…

部屋の家具や生活雑貨は西洋風のもので埋め尽くされていた。


母は我が家をフランスにしようとしていたのか。


それもしかし、年中野球尽くしの汗臭い私と

年中海に潜り海臭い兄(スキューバダイビングのインストラクター)

そして、酒タバコ好きの親父。

のみならず、毎年夏にはとっても臭くなるミドリガメが暮らす我が家は

フランスの「フ」の文字すら想像できないほど、綺麗とは言えない家だった。


そう言えば。

母が座る椅子のすぐ横にはフランス語辞典が置かれていた。

我々と会話している中でふと出てきた単語、

それをその都度すぐに調べられるようにしていたのだ。

もちろん電子辞書は使いこなせないから紙の辞書。


そんな母の口癖は「あんたたちのせいで、外国(フランス)にいけないのよ。」

本人も半分言い訳のようにこういう発言をたまにこぼしていた。


そのお決まりの言葉は何度もいうもんだから皆に軽く流されていった。







理由の一つはこういったことが積み重なって、

諸々の自分の時間、お金とか色々タイミングがよくなった

このタイミングを逃さずに私から「フランス行こう!」と持ちかけた。


私は「あんたのおかげでフランスに行けた」と母に言わせたい。


続きも書けるのだが、

元気がないのでそれは気が向いたときに。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る