悠城想人は静かに暮らしたい

第10話 告白

この日のことを、後から何度でも思い出す。


「——急に話かけたりして、申し訳ありません」


あまりに、軽率な行動だった。


「——あなたと二人で、お話したいことがあります。お時間はよろしいでしょうか?」


他愛のない、冗談のつもりだったのだ。


「——以前から、あなたのことを知っていました」


嘘だ。彼女を選んだのも、ただの気まぐれに過ぎない。


「私と、付き合ってもらえませんか」


だから、断られると思っていた。


「……いいよ」

「——いや、もちろん、こんな不躾な話は不快に思われて当然……え?」

そのまま、謝罪の言葉を続けようとして、悠城想人は思わぬ返事に硬直した。

笑顔を張り付けたままの長身の青年の目線の下で、少女は顔を背けている

中学二年生。自分より、三つ下の少女が頬を上気させて消えるような声で答えた。

「——すみません。いま、なんと?」

「いいって言ったの!なによ、そっちから言い出したんでしょ!」

開き直ったように叫び声をあげる少女を見下ろしたまま、想人の身体がのけ反る。

「——あ、ありがとうございます」

予想外の言葉に、悠城想人の思考は混乱した。

単身、下校中の女子中学生のグループに声をかけ、その中の一人を公園に連れ出し、そして交際を申し込む。

どの段階でも、誰に何を言われても不思議ではない不埒な行動だと本人が自覚していたにも関わらず、その告白は、考えていた以上にあっさりと承諾されてしまった。

「——すみません。急にこんな話をしても受け入れてもらえると思ってなかったので……」

むっとした表情で見上げる少女を前に、しどろもどろになって言い訳をする。

鋭い目つきで見上げるショートカットの勝ち気な少女……名前は何と言ったか。

想人とは頭三つ分以上離れているが、中学生としては背の高く、健康的で鍛えられた体つき……たしか何かスポーツをやっていると言われていた気がする。

だが、そういった話はほとんど聞き流していた。

何人もいるグループの中で彼女を選んだのは、本当にただの気まぐれに過ぎなかったのだから。

「それで……あなたはどうしたいの?」

少女の挑戦的な問いかけに、想人は何とか思考をまとめようとして、結局失敗した。


どうしてこうなった?

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