ライトらいてぃんぐ
霜月久弐
第1話 プロローグ
それを見つけて最初に思ったのは「まさかいるわけない」だった。
だって、学校の中庭のベンチに座って本を読む少女なんて本当にいるわけないじゃないか。それこそ絶滅危惧種というやつだ。
放課後。部活や帰宅やアルバイトをする時間。入学したばかりでまだ慣れない校舎の中を歩いている時だった。ふと窓から中庭を見下ろすと、そこには一人の少女が座っていて、静かに本を読んでいた。周りに他の生徒はおらず、その少女は自分の時間を存分に堪能しているようだった。
迷う。もっと近くにいって見てみようか迷う。
もし近くに行って、あの娘が美少女じゃなかったらどうしよう。どう考えても美少女でないと許されないようなシチュエーションなのに、そうでなかったらガッカリ感が尋常じゃない。入学したばかりだというのに寝込んで学校を休んでしまうかもしれない。
それならいっそ、このまま遠目に見たままで終わらせて、きっとあの娘は美少女だったそうに違いないと思うことで今日という日を完結させてしまった方がいい。
どうする。世の中に美少女とそうでない女子のどちらが多いかと訊かれれば答えは明白。あの中庭の少女がそうでない可能性の方が高い。
「……ちくしょう」
思わずつぶやく。ダメだ。もう確認せずにはいられない。たとえガッカリの波に襲われようとも、僅かな可能性に賭ける。
昇降口で靴を履き替えるのももどかしく、中庭へ向かう。そしてそこには、さっき校舎の窓から見た時と同じ姿で、少女が本を読んでいた。
リボンの色で、二年生だとわかる。まだ自分の視線には気づいていないようだった。
賭けに、勝った。
周囲の音など耳に入らない様子で文庫本に没頭しているのは、紛れもなく美しい女の子だった。ここからだと横顔しか見えないのだが、正面から見たって美人であることは確定している。
完璧な文学少女。そんな人が同じ学校に通っているだなんて、それだけでテンションが上がるというものだ。
「うん」
と、小さく頷いて踵を返す。もちろん話しかけたりなんてしない。先輩で、しかも女子で美人に声をかける度胸なんてない。
いつもあそこで本を読んでいるのだろうか。また見にこよう。名前は何というのだろう。やっぱり声をかけてみようか。そんなことを考えていると後ろから肩を叩かれた。
「はい?」
まさかさっきの文学少女が。そんな淡い期待を胸に振り返ると、いたのは違う女子で、しかし文学少女に劣らないほどの整った顔立ちの持ち主だった。制服の上からでもわかる豊かな胸につい目がいってしまう。
「こんにちは。一年生だよね」
「はあ……そうですけど」
面識はない。入学してまだ一週間。先輩と接する機会などなかった。初対面のはずだ。
次の瞬間、その先輩は高らかに叫んだ。
「確保おおっ!」
突然の大声に体を強張らせたのも束の間、先輩に腕を掴まれる。すると今度はどこからか男子生徒がこちらに向かって走って来る。手に持っているのはビニール紐。
こうして、入学から少し経った月曜日の放課後。
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