第23話 女子高生、突然の告白
目を覚ますと、横に先輩が横たわっていた。ヒカリも床に倒れる形でいたのだから、同じ場所に降り立ったのだろう。先輩とまた再開できた。すると先輩も意識を覚醒させた。
「アラキ…………、また俺眠っていた? 」
「たぶん。わたしも今、目を覚ましました」
このような部屋を何度もみてきた。不思議な空間で、空間の歪みなどが天井に幾重にも見える。この空間はどういう構造なのであろう。ヒカリはまだ前のキャラの記憶が抜けきれず、ぼんやりとしていた。不思議な世界の話、ダイヤ編。銃をもって戦うなんて初めての経験だ。これからも、たぶんないだろう体験だろう。
「また不思議な夢をみていた」
「夢?わたしも見ていました」
「今度は、技術が進んだ世界のようだった。俺は貴族みたいな、偉い身分みたいで。銃をもっていた女の子と仲良くなった。とても強くて綺麗な女の子だった気がする」
「女の子? 」
「アラキに似ているかな?俺は、弱くて。女の子に助けてもらってばかりで。女の子がヒーローみたいに連れ出してくれる夢だよ」
「いい夢でした? 」
「どうだろう、夢見は悪くないかな。ああいう頼もしい人だったら、安心できるんだろうな、将来も」
「将来? 」
「不思議な夢で、結婚式をしていた。そうしたら二人で逃げ出してしまったから。どこか遠いところで幸せに暮らしたみたいで、よかったよ」
「幸せな最後って憧れますよね」
「いつまでも、いつまでも幸せに暮らしました、ってよくおとぎ話にはあるけれど。そんなうまくはいかないから、夢があるかもしれないかな」
「先輩って夢は叶うって、思う人なのかなと思っていました」
ヒカリは思わず言葉を口にしてしまうと、先輩は苦笑した。少し苦々しい思い出もあるのだろうか。
「いや、夢は必ず叶うって信じたいけれど。実際、いろいろな事が見えてくるだろう?努力だけじゃどうにもならないことは多い。だけれど、やっぱり夢をもってがんばることは前向きだと思う。難しいけれど、夢をもつと救われる部分もある」
「諦めたりはしないのですか? 」
「何度も諦めようと思うよ、こんなこと意味があるのかな?とか。だけど、諦めたらそれまでだって思うと、もう少し続けてみようと思う」
「辛くはないですか?わたしだったら、叶わないって思ったら辛くてやめてしまうと思います」
「何をやるかによって、かな?例えば、俺は野球を続けていて。うちの学校は強くはないし、みんな趣味の延長でやれればいいと思っているのが多い。俺も野球は楽しいけれど、将来につながる可能性は少ない。でも野球を続けている」
「それは……、夢があるから? 」
「夢があるというより、野球って楽しい。小さい頃からやっていて、唯一続けているものだから。そう、今が楽しいから続けようと思うのかもしれない」
「わたしもそうです。ゲームだって、将来なんの役にも立たないと思いますけれど、でも楽しいから続けるというか。やってないと人生がつまらないなと思うんです。別になくてもいいものなのですけれど、あったら余計楽しいし。毎日が楽しい」
「はは、じゃあアラキにとっては、ゲームが大切なものだな」
さらっと先輩はつぶやいた。ヒカリはその言葉に思わず頷いた。
「そう……、だと思います。家族が、いやお姉ちゃんたちなのですけど。みんなゲームが好きで、家族集まるとゲームの話で盛り上がります。だから小さい頃からゲームが姉妹の共通の話題で。今も、お姉ちゃんたちは仕事でとても忙しいですけれど、ゲームの話題をすると、小さいころのように戻れる気がします。だからわたしはゲームが好きなのだと思います」
「そうなのか、家族の共通の話題っていいな」
「今回のことも、とても助かっています。先輩を助けるため、手伝ってもらっていて」
「俺を? 」
「はい、先輩は信じられないかもしれないですけど。この世界はゲームの中みたいです。いままで3つのゲームの世界観がありました。あと一つクリアすれば、先輩と一緒にここから出られるみたいです。たぶんですが…………」
「そうだったのか…………、夢のような話をずっとみていた気がするのは。アラキが助けてくれたのか」
「わたしは何もやってないです。手を貸してくれる人がいて、たまたまいい方向へいって。先輩にだって力をもらっています」
「俺?何もしていないよ。この中がゲームで、アラキが助けてくれているなら。俺何もできていないと思う」
「いいえ、わたし…………先輩だからがんばれています」
「それって…………」
自分でも先輩の前にいると、大胆なことを言えてしまうのを驚いているのはヒカリ自身である。でも、まだ離ればなれになってしまうから、伝えたいことは今伝えないと。もし次のゲームの中で、クリアを失敗してしまったら、永遠に先輩に会えなくなってしまうかもしれない。だから、素直に伝えたいことを伝えようと自然と思えた。
「先輩が、好き…………なんだと思います。全然関わりないのに、いきなりでごめんなさい」
「アラキ…………」
先輩の顔が見られない。ヒカリは自分が告白する日がくるなど思わなかった。先輩を遠くで眺めて、今日もがんばっているなと思っているだけで十分だった。自分の気持ちを伝えるだけで迷惑だと思っていた。自分など、先輩に関わる存在ではないと。
「関わりないとか、いうなよ。アラキは俺のこと助けてくれている。こっちこそごめん、力になれていなくて」
「先輩…………」
「でも、アラキの気持ちは嬉しい。夢みたいだ、いややっぱり夢なのかな? 」
先輩が笑い、ヒカリがぷっと小さく吹き出した。こんな夢か幻かわからない空間での告白なんか、意味などないのかもしれない。夢から覚めたとしたら、これは夢だったと自覚しないとならないのだから。寂しいと思う。でも、気持ちを言わずにいられなかった。
「先輩と一緒にここから出て、覚えていたらもう一度告白します。わたしから」
「そうだったら嬉しい」
ヒカリは真っ直ぐ先輩を見上げた。しかし先輩は次の瞬間床に倒れ込んでいた。
先輩の背後にたつ女の気配を感じた。
魔女の気配だ。空気が湿る。冷たい空気が流れるのが感じられた。彼女は怒りを持っている。深い憎しみと怒りを気配から感じる。
「またクリアしてしまったのね。あの世界を」
「ええ、そうしないとわたしはここから出られないでしょう? 」
あまり刺激をしないように言葉を選ぶ。目の前に先輩がいるからだ。刺激して、先輩に何かされたら、ゲームクリアどころではなくなってしまう。
「ダイヤの世界で、ゲームをクリアしたら、なぜこの世界に来ることになったか教えてくれると言いましたよね? 」
「ええ、言ったような気がするわ。どうしましょう」
「教えて下さい、わたし納得できません」
「納得?わたくしも納得できていない。運命は常にわたくしの思わぬ方向へいくの。本当に憎らしい」
「もし、知る手段があるなら……答えをもっている人がいるなら、わたしは知りたいです」
「仕方ないわ、あなたは運命に愛されているのかもしれない。答えてあげる」
赤く黒くよどんだ瞳をヒカリに向ける。もう片方の瞳は金色だが、その目に光は見えない。
「わたくしは、この宇宙が出来る前。何もなかったころに、生まれたの。ただこの世界を漂っていた。そうしたら出会ってしまったの、あの人に」
「あの人?」
「ええ、暗い闇の中に光る一粒の光。彼の光にひかれて、光を大きくしていったの。彼が大きくなるころ、世界はできてきたの。新しい世界の誕生に喜んだわ。そして二人で生きていこうと決めた。だけれど、光と同時に闇も深くなっていったの」
魔女は遠い遥か昔を振り返るように、宙を眺めた。
「彼はずっと光をもったまま生きていったけれど、わたくしは闇に染まりやすい。光にも染まるけれど、闇にも染まる。その頃から、わたくしと彼はうまくいかなくなってしまった。光に引き込もうとしても、わたくしはどんどん闇におちていってしまうの。そして、突然彼はいなくなってしまった。気がつけば、わたくしは闇に墜ち意識もなくなっていってしまったの」
はらはらと涙を流す魔女。宇宙ができる前のことなど、遠い話でヒカリには分らない。おとぎの国の話にしか思えなかった。しかし彼女の悲しみは本物だと思った。
「闇に意識を乗っ取られたわたくしは、少しでも抵抗した。意識の一つを人間に託したの。そう、彼に会うために。もしかしたら、彼は人間になっているかもしれないと思った。だからいろんな世界へ行き、彼と出会ったの。そう、ヒカリが体験したようにね」
「最初は、お姫様と、王子様」
「ええ、遠い国での話。彼とはわたしは結ばれなかった。もうあの国はないし、歴史にも語られない小さな世界の小さな恋のお話。わたくしは彼を信じ切れず、逃げてしまった」
「なぜ? 」
「また裏切られる前に、裏切ってしまえばいいと。だけれど、後悔がやまずまた転生してしまった」
「次は、町娘に? 」
「そう、相手はまたロボット。恋することも叶わない。人間だって同じ時間をわずかしか生きられないのに、同じ感情を共有することさえできないロボット。一緒に生きていく道を探すことができなかった」
「ロボは、人間の気持ちを知っていました」
「ヒカリにはそう見えたのかもしれないけれど、わたくしには無理だったのよ」
「だって、そんなに好きな人だったのに? 」
「わたくしは長い年月を生きるたびに彼を好きかどうかもわからなくなってきた。だから次の世界でも、わたくしは彼を信じられなかった。もう恋愛をする気力もなかった。ただ朽ち果てることを望むことさえあった」
「目の前に好きな人がいるのに? 」
「ええ、わたくしはもう生きているか死んでいるかさえわかっていないのかもしれない。ただ執着しているの。彼を思い求めて…………」
「だったら、なぜこんなことを? 」
「試したかったの。もし、わたくしではない人が同じ人生を選んだら。彼を選べたのかを。わたくしは認められなかったのかしら、自分の選択を」
ヒカリは魔女が変化していくのが見えた。彼女は悔いている。人を憎み、呪うことが何も生み出さないことを。その影響もあってか、彼女を覆っていた黒い闇の気配が薄くなってきている。赤黒くくすんだ瞳は、黒く薄くなっていった。
「ねえ、もしわたくしがあなただったら…………、選択は違ったのかしら? 」
「どういうことですか?わたしはわたしですよ」
「わたくしが、アラキヒカリという存在だったら。運命に愛されるかもしれない。幸せになれるかもしれない」
「そんな、何を考えているのですか? 」
「そうよ、わたくしがアラキヒカリになればいいのよ」
「やめてください、わたしはわたしです! 」
「じゃあ、試してみましょうか?次の世界で……」
「どういうこと…………、先輩に何かするつもり? 」
「その逆……、かしらね? 」
ヒカリは魔女の言っている意味がわからなかった。魔女は何かを企んでいる様子だ。ヒカリは警戒をして、周囲に何か変化がないか気を配った。すると先輩が宙に浮いて、奥の部屋に消えていってしまった。そして奥の扉には、ハートの形のマークが刻まれた扉がある。先輩はもうその扉の先に消えてしまった。
魔女はすっとその扉の前にたち、ヒカリが来るのを待つように振り返る。ヒカリもなすすべもなく、扉の前に立つことになる。そして魔女が手を前にかざすと、ヒカリの意識に魔女が入り込むのがわかった。魔女は目の前からいなくなり、この空間にはヒカリ一人になった。
「ヤンヤン、いないの? 」
緊急事態だ。今までと展開が違う。ヤンヤンに呼びかけてみるが、反応もない。これは真っ直ぐに進む以外の選択肢しか残されていないようだ。ヒカリは目をつむり、大きく深呼吸をした。これからどんな試練があるのだろうか。そして、ハートのマークのついた扉を開けて飛び込んだ。
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