雨の日の言葉

sister

本編



 私は雨が好きだ。

 雨の日に語る言葉が好きだ。


 いま私がこうして話しているような言葉が好きだ。

 これまで何千、何万の小説で使い古されてきた、己語りのような言葉が好きだ。

 そんな言葉で雨について話すのが好きだ。


 雨というのは常に新しいようで、しかし天地をぐるぐるとまわっている。

 それは言葉も同じだ。

 私が何を考えて何を話しても、その言葉はとっくの昔に使い古されている。

 でも、ここに新しく降り続ける。

 だから私は雨が好きだ。


 雨の音がガラスを叩く。

 私は雨の日の音も好きだ。

 雨が地面に落ちる音が好きだ。

 雨が窓ガラスに当たったり、干しっぱなしの洗濯物に当たる音も好きだ。

 雨が植物の葉に当たる音も、雨が空気を揺らす音も好きだ。

 雨を楽器に例える芸術家は多いが、私はそれに倣って雨という楽器を楽しむのが好きだ。


 窓の外の風景へと目を向ける。

 私は雨の日の景色も好きだ。

 ざあざあと降る雨が、まるで霧のように世界を包んでいるのを見るのが好きだ。

 弾けた雨粒でうっすらと白く覆われている路面を見るのが好きだ。

 水滴でモザイクが掛かった壁やガラスを見るのが好きだ。


「――決めた」


 少し寒いが、雨が止んだら散歩に出よう。

 長靴で水溜りをぱしゃぱしゃ鳴らし、映り込む街並みをあえて揺らそう。

 カメラを持って子供のように虹を探そう。

 おいしいと評判のたい焼きでも買って齧り付けば、思わず頬も緩むだろう。

 なにせ私は甘いものも好きなのだ。


 よし。予定も決まったところで、もうしばらく雨を眺めていよう。

 天気予報のお姉さんが言うには、あと数時間ほど。

 それまで、もう少しだけ、ここで雨を眺めていよう。

 雨の日の世界は、こんなにも私の好きなものであふれている。


 結論。

 やはり私は、雨の日が好きだ。



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