クリスタル・ヒール
五四三弐一
第1話
昔々のお話、コルドナの森を抜けるとザッカの村があり、そこに、鍛冶屋の一家が住んでいました。
父親のバームと母親のマルチナ、
二人の息子、メオとライル。
そして、マルチナのお腹の中には、新しい命が宿っており、一家は幸せに暮らしていました。
あの御ふれが村に来るまでは。
『今年生まれた子供を国に差し出せ』
ある日、突然、ザッカの村に御ふれが出されました。
〈国に差し出す〉それは、その子の死を意味していました。
まもなく生まれてくる赤ちゃんが国に取られ殺される。一家の苦悩の日々が続きました。
そんなある日、バームは馬車の車輪が壊れて、困っていた、旅芸人の一座と出会いました。車輪の金具を直すまでの間バームは一座を家に招き、一家と共に数日間を過ごしました。その間、一家の悩みを聞き、マルチナの相談にのってくれたのが、一座の長老、大婆様でした。
大婆様は、赤ん坊を国に取られて殺されるくらいなら、子供を欲しがっている親切な夫婦にもらわれる方が、ずっと幸せになれると、一家を説得しました。
車輪の金具が直った後も、一座はこの地に留まり、マルチナが無事に出産するまで、大婆様は、そばについていてくれました。
それから、しばらくして、マルチナは女の子の赤ちゃんを産みました。大婆様のいいつけで、名前をつけてはいけない事になっていたのですが、マルチナは、こっそり〈ティーナ〉という名前で呼んでいました。ティーナは、元気で、とても可愛い赤ちゃんでした。
しかし、その間にも国の役人が村々を巡り、ザッカの村にも近づいていました。
とうとう、旅芸人一座が、バームの家を旅立つ日が来てしまいました。
その日はティーナと一家の別れの日でもありました。別れの朝、マルチナはティーナの小さな足首に、ひもの付いたガラスの玉を結びながら、
「これは、私の家に代々伝わる幸せの御守りです。何があっても絶対に外さないでください。」とお願いをしました。
大婆様も必ず守ると約束してくれました。
そして、ティーナは、旅芸人の一座と共に旅立ち、それから15年の年月が流れました。
その日、バームは数日続いた雨の影響でコルドナの森の近くの崖が崩れ、道を塞いでしまった場所を村人達と撤去作業をしていました。
ようやく、作業も終わりに近づいた時、二度目の崖崩れが起きてしまいました。その時、崖のすぐ近くにいたのがバームでした。
家に運ばれて来たとき、バームはもうほとんど意識の無い状態でした。バームはマルチナをそばに呼ぶと、首からペンダントをはずし
「これをティーナに渡して欲しい」と
頼み、静かに息を引き取りました。
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