Vie(ヴィ)
琥珀 燦(こはく あき)
第1話
[『Vie(ヴィ)』p.1]
深く水に埋もれた街の或る部屋で私は育てられた。
12年間。
密閉された部屋。完全防水が施された分厚く青い窓ガラスの外は水。一見そうとは見えないが、物凄い水圧がかかっているらしい。
絡みつく藻の合間で深い深い碧いろに浸された、れんが造りの建物と階段でぐるぐると構成された水底都市が揺れている。かつては陽の光にさらされていたはずの街が水中で廃墟になっている。レモン、コバルト、エメラルド、シルバー、…様々な鮮やかな色のサカナたちの群れ。
私は、扉さえないこの部屋で、ただ一つの大きな窓の碧いろに溶ける眺めと、壁の淡いグレー、部屋の隅に置かれた一輪差しのユリの花の深紅だけを見て育った。
ただ一人、朝と夜、決まった時間の食事と、教育だけを与えられ、育てられた。
私は水底都市少女。ここが私の世界の総てです。
‡
眠る。眠る。
音楽を聴きながら眠る、午睡(シエステ)。
干潮で水位が低くなった頃のこの幸福なひととき。陽光が水を通して、部屋に不思議な波模様を揺らす。
サカナってこういう感じなのカナ?
この部屋には、いつも音楽が流れている。
ざざぁん、ざざぁん…どぅうん。
延々と、低く小さく。いつもいつも途切れることなく。恐らく私が生まれた…この部屋に私が来たその時よりずっと前から、部屋にはその微かな音楽に満たされている。
心臓の鼓動の音に似た音楽。誰もいない部屋で、真っ白な綿のざくっとしたシーツに頬をおしつけて、息を殺してると、耳元に打ち寄せて来る、音楽。どぅうん、どぅん。
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