異世界にとっちゃ、こっちの世界が異世界だわ

ちびまるフォイ

渡り鳥のような台風のような

「あなたは神様の手違いという名の計画的犯行により

 これより異世界に転生されます。


 粗品といってはなんですが、

 さきほどスーパーで買ってきたチートの詰め合わせをあげましょう」


女神の不思議な力により世界に降り立った勇者。

しかし、その場所は異世界などではなかった。


「ここが……異世界か!!」


いや、彼にとっては異世界だった。

我々にとっての現実世界だった。


ネットが行き届き、電柱が街路樹のように生えて

空には飛行機が飛び交い、地下では電車が走る。そんな現実世界。


平和ボケしていた世界にとって、

ドラゴンと殺戮とおいろけの世界からきた勇者が蹂躙するのに3日もかからなかった。


「メーデー! メーデー!!」

「アパム、弾もってこい! アパーム!」

「救援を!! 救援をはやく! ぬわーー!!」


「ハハハハ。そんなしょっぱい爆薬で俺に勝てるわけ無いだルルォ!?」


「これが……これが魔法なのか……!?」


神は世界を7日で作り上げた。


たぶん、残りの夏休みが7日しかないことに気づいてから着手したのだろうが、

勇者は7日もあれば世界を焦土に変えてしまった。


「お前ら現実人間どもは、わずかな魔法をも使えないなんてなぁ。

 科学やらに頼りすぎて自分自身の力すらも失い、一体何のために生きているんだ?」


勇者は自分の王国を作り上げて、

そこで毎日ネットとオンゲーに費やす悠々自適な毎日。


あまりの強大な力に各国のトップは揉み手で勇者のもとへくだった。


「勇者様、お強いんですねぇ」

「うちと同盟国になってはくれませんか?」

「いえいえ、その力。ぜひぜひうちの国と協力を……」


「お前ら、虫けらが同盟とか言い出したときに、手を組むのか?」


「え」


各国首脳が一瞬にして灰にされてしまったショッキングなニュースは

俳優の不倫問題のニュースの後に報道された。


「な、なんて強大な力なんだ……」

「これが勇者なのか」

「総力をもって、やつを潰すよりこの世界を活かす方法はない」


それまで便座のフタを開けるか閉じるかで仲違いしていた世界も、

勇者という共通の敵を前にして一致団結することになった。


巨大ロボット:イェーガーを作り、核兵器の照準を勇者に向け、

地球外周を漂う人工衛星からサテライトビームの照準を勇者に合わせた。


「うてーーーー!!!」


世界の叡智が放たれた瞬間だった。

大爆発と甚大な環境破壊が起きて、勇者の城は煙すらも残さなかった。


が――。


「現代人は本当に学習能力がないな」


勇者いまだ健在。


「これが……これがチート……。我々が息を吸うように

 当たり前に口にしていたものの力なのか……!?」


「まぁ死ねよ」


勇者は作者の人生経験があまりに浅すぎることによる描写不足で、

誰からも感情移入されないようなサイコパスっぷりで敵を倒した。


「くそ! なんて力だ!」

「現代兵器では太刀打ち出来ないのか!」


「ふふふ……お悩みのようですね」


「貴様、一体誰だ!?」


「私は細菌学者です。ミサイルを作ることしかできない

 頭の硬い軍人さんにはわからないでしょうが、勇者を殺す方法がありますよ」


男は小さな試験管を取り出した。


「ここにT-ウイルスという新種の細菌兵器があります。

 これを散布すればたちまち勇者は死んでしまうでしょう」


「細菌兵器か……。それなら確かに有効そうだな」

「Tの由来はなんなんだ?」


「チn――」

「それいじょうは言わなくていい」


勇者は自分の周囲を球体状のバリアで囲んでいる。

あらゆる兵器はそのバリアを突破することなく空中で爆散する。


細菌ウイルスは勇者の高度パターンを読んで地雷式にセットされた。

勇者は警戒していない地面から噴射されたウイルスをモロに浴びた。


「ぐっ……こ、これは……!?」


勇者はたまらず崩れ落ちた。皮膚がみるみる変色していく。


「やったか!?」

「バカ! そんなセリフ言うんじゃない!!」


安心したのもつかの間。

勇者はすぐに治癒魔法で自分の病気を取り除いてしまった。


「そんな……細菌兵器すらきかないのかよ……!?」


「こざかしいマネをしてくれるな、現実人間。

 性の喜びを知った人類は許さんぞ」


勇者のサーチ魔法により住所を特定された研究者たちは、

逃げる間もなく研究所もろともアミューズメントパークにさせられて

毎日毎晩パレードをさせられてのちゆるやかな死を与えられた。


「どうすればいい……あんな血の通う兵器を倒す方法は……もう人類にはない……」


「わたしがなんとかするわぁ、ルパン」


「お前は!?」

「ふじみねこよん」


不二峰子は下着の裏に隠していたカミソリをきらりと見せた。


「聞けば、あの勇者そうとうのムッツリすけべらしいじゃない?

 それならハニートラップの耐性はないと思うの」


「な、なるほど。たしかに女性であれば警戒されずに近づける。

 バリアのせいで寝込みを襲うこともできなかったが、

 誘惑して近づけばいくらでもスキができるはずだ」


「いつの時代も、男なんて女の前じゃスキだらけになるのよ」


峰子はセクシーな下着で大人の色気を振りまきながら勇者に接近した。


「はぁ~い、勇者さま♪ あなた、とってもお強いのねぇ。

 その力。もっとそばでよく見てみたいわぁ」


「なんだおばさん」

「おばっ……!」


不二峰子は内側から膨れ上がって爆散した。

あまりのショックに内蔵が耐えられなかったらしい。


「おい全然ダメじゃないか! 好みじゃなかったのか!?」


「勇者の好みはロリっぽくて、胸が大きくて、それでいて一途で

 でも思い過去があって、勇者を無条件で褒めてくれて、

 頭なでただけで頬染めるような女の子がタイプなんです!!」


「そんな人間いるか!!!」


人類に残された手はもうなかった。

自分だけ同窓会に呼ばれていなかった事実を後日知ったときくらい絶望のどん底へと叩き落とされた。

もう這い上がる力も残っちゃいない。


「あります……1つだけ。1つだけ勇者を殺す方法が……!!」


ヤホー知恵袋でベストアンサーに選ばれた回答を実践するときがきた。





「やったぞ!! 勇者が!! 勇者が死んだ! 世界は平和になったんだ!!」


あれほど猛威を奮っていた勇者が死亡したことで、世界は平和に包まれた。

今回勇者の暗殺に成功した人にはこぞって国のトップが感謝状を渡しにやってきた。


「いやぁ、本当に助かりました。ありがとうございます」

「本当にすばらしい。あなたのおかげで世界は平和です」


「光栄です」


「それで、どんな手を使ったんですか? どうやって暗殺したんですか?」

「よければうちの国にだけ教えてもらえませんか?」

「あなたが使った方法を持ってすれば、世界の覇権も握れるでしょう!」

「教えてください。どうやってあんな完全無欠のチート野郎を倒したんですか!?」


お偉いさんは目をらんらんと輝かせて迫った。


「そんなの簡単ですよ」





「異世界のほうが美人いっぱいいると嘘ついたら、

 勝手に転生するんだと自殺しましたよ」

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