DASU NOTE

石田治部

第1話 訛り

「…ごめんちょっと何言ってるかわかんない」


困惑した表情を浮かべる女の子。

その艶やかで癖のない長い黒髪が風になびく。まるで人形のように一部の隙もなく整った目鼻立ちは大好きな異世界ファンタジーアニメに出てくるエルフを彷彿とさせた。

そんなうちの高校で一番…いや都内で一番と噂される美少女を俺は今ただただ困惑させている。


「○△□…!」


慌てるほど俺の訛りは酷くなる。幼い頃から転校を繰り返し各地の方言を吸収してしまった俺の言葉はもはや日本語であって日本語でなくなっていた。

「…!」

失念していたが不意にそれを思い出しポケットを漁り取り出した。スマホだ。これさえあれば標準語を伝えられる。

慌て震える手でメモパッドを開き文字を打つ。フリック入力がうまくいかない。呼吸を整えアクション映画で時限爆弾を解除する主人公のような必死さで一文字一文字昂る気持ちを抑えながら慎重に打った。

「好きです。付き合ってください」

これだけの文字を打つのにえらく神経をすり減らしたが、ようやく打ち終わったスマホを彼女の前に差し出した。

その文字を見た彼女は一瞬固まり、だが次の瞬間耐えかねたように吹き出した。


「隙があったらね」


彼女は微笑みながらその場を去った。

笑う彼女も素晴らしかった。木々が風に揺れ隠れていた日の光が差すような眩しさだった。

彼女の微笑みに自失し、暫く言葉の意味と情況を図りかねたが手にしたスマホに視線を落としそれに気付いた。


「隙です。付き合ってください」


この日ほど身に付いてしまった酷い訛りと空気を読めないスマホの変換を呪った日はない。

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DASU NOTE 石田治部 @isida_jibu

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