第十一楽章

 キキョウが発ってから季節を三つまたいだ。半年で帰ってくるはずの彼はまだ戻らず、私は焦燥を募らせていた。そして、彼に教えられた噂の真偽を確かめていたところ、意外な事実が明らかになった。

 まず、ゲリラがアンドロイドを使っているのは真実だった。秘密裏に彼らにTypeネモを安価で売っている者がこのラボにいたのだ。そこまで分かれば、その人物の特定もすぐにできた。このことを知っているのは私だけ。だから、私は彼を利用することにした。

 それから一年後、私はラボを退職し、ある施設を立ち上げた。それはTypeネモの修理とアップデートを専門に行う施設だ。しかし、それは表向きの話。私の目的は別にあった。

「社長、また問い合わせが来てます。修理から返ってきたアンドロイドの肩に仕様にないパーツが追加されている、と」

「何度も同じことを言わせないで。それはアップデートの一環だと答えなさい」

 私は苛立ちを隠さずにジョエルに伝えた。ジョエルにはこの施設の窓口業務を担当してもらっている。そう、ゲリラにTypeネモを売りさばいていたのはジョエルだった。私はその事実の告発をちらつかせて彼を引き抜いたのだ。

「ネモツー、戦場の方はどうなってる?」

「はい、現在確認されている戦闘地域の87%でFKメロディが実行されています」

 私の隣に控えていたアンドロイドが答える。

 ジョエルが言った『仕様にないパーツ』とは、単純なスピーカーだった。私はここに運ばれてくるTypeネモを修理ではなく改修し、このパーツを付け加えて戦場に送り出していた。理由はただ一つ。何処かの戦場にいるはずのキキョウに私のピアノを届けるためだ。

 彼なら、アンドロイドが流すピアノの音色が私のものだと分かるはず。きっと分かる。このメロディを通して伝えるのだ。私が寂しがっていることを。キキョウを再び会えるのを切望していることを。

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