SS

花るんるん

第1話

 「また、やらせちまったな」とサトウは言った。「警官殺し」

 「そういう約束だっただろ?」とスズキは言った。「皆のためだ。お前を守ることが、何よりも優先する」

 「ああ。だから、ちゃんとした礼は言わねェぞ」

 「『ちゃんと』しなくても、言うなよ」

 スズキは、屈託なく笑った。

 「損な役回りだ」とサトウは思う。生かされるより、生かす役の方がどんなに気が楽か。

 だが、スズキの懸命な思いを考えると、口が裂けてもそんなことは言えない。ただ、あてがわれた役割を全うするだけだ。

 そうだろう? マックス。

 「ああ、そうそう」とスズキは言った。「マックスみたいにはなるなよ、絶対」

 相変わらず、勘の鋭い男だ。

 「ならねェよ」

 「お前のことだ。『いっそ、人柱になっちまった方が楽』なんて思うなよ。そんなことになっても、お前の次をお守りするだけだからな。面倒なことはさせるな」

 「分かってる」

 サトウは少しイライラした。


 その次の日だった。

 銃撃戦があったのは。

 サトウを守るために死んだメンバーの兄が逆怨みし、警察と結託し襲ってきた。

 先ずスズキが絶命した。

 「俺のせいだ」

 サトウは言った。

 「フザケ…んな」と今際の際、スズキは言った。「それ言わねェ、約束だったろ。いいんだよ、お前無事なら」

 スズキに信頼を寄せている仲間たちが、猛烈な勢いをみせ、敵は撃退した。

 とはいえ、このアジトはもう使えない。

 早急に撤収する必要がある。

 スズキの遺体を置いてでも。

 ぼやぼやしていると、またスズキに怒られる。

 サトウはそんな気がした。

 遺体を置いて逃げる時、スズキの顔が少し笑っているように見えた。


 サトウが生き延びえたおかげで、組織も延命することができた。

 「本気を出せば、世界を統べることもできるのに、その力ほとんど使わないんですね?」

 ある時、メンバーが尋ねた。

 「不満か?」

 「いえ。スズキさんは『サトウのやりたいように、やらせろ』が口癖でしたから」

 確かに、あの後、サトウのやったことと言えば、「ほんのちょっぴり力を使い、政権中枢部にパイプをつくり、襲撃事件の黒幕を消したこと」ぐらいだ。

 今は。

 今は、スズキの墓がつくれればいい。

 サトウは「『そんなんじゃ、ダメだろ』とスズキにまた怒られる」気がしながら、先ずは線香だと思った。

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SS 花るんるん @hiroP

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