僕とニナ。

ころん

01 自室にて

 時刻は午前二時を回っている。無機質に時を刻む指針の音を聞きながら、僕は床にしゃがみこみ、手元の作業に集中していた。

 古くなり異音を発し始めた前のパソコンに変わり、新たなパソコンを組み立てることになったのだ。パソコンの自作は今まで何度も経験していたので、大きな音を出して隣の部屋の姉を起こさないように注意しながら、ほとんど迷うことなく作業を進めていく。

 周りのスペースには、様々な部品のパッケージと、大手通販サイトの梱包。

 僕は商品のパッケージというものが好きだ。スタイリッシュなデザイン、洒落たキャッチコピー 。顧客の購入意欲を高めるために作られたそれらは、商品をよく見せるための様々な工夫がなされている。見ているだけでも楽しいし、何より、僕に買わせる為に作られたのだと思うと、それがうれしかった。


 すべての作業が終わってパソコンが組み上がる。

 試しに電源を入れると、静かな部屋の中に微かなファンの風切り音が響いた。床の上に置かれたモニターにはBIOSが表示され、問題なく動作していることを示している。大切なデータやネットゲームのインストーラーなどはあらかじめ外付けのハードディスクに移していたので、後はOSをインストールして初期設定を済ませるだけで良い。

 散らかった部屋の中からOSのインストールディスクを探していると、机の上でメールの着信を知らせるアラームが鳴った。


 こんな時間に誰だろう?

 僕のメールアドレスを知っているのは家族と仕事関係の人くらいだけれど、深夜にメールを送ってくるような人はさらに限られる。スマートフォンを手に取ると、予想通りの名前がそこにあった。それは仕事の同僚からのメールで、明日仕事が終わった後、二人で飲みにいこうという内容だった。


 初期設定をすべて終えた頃には、午前三時を過ぎている。明日はいつも通りに仕事があるし、八時までには起きなければならない。僕は朝にめっぽう弱く、できることならすぐに床に就きたかったが、まだ寝るわけにはいかない。

 出来たばかりの新品のパソコンに、ネットゲームをインストールする。

 僕がやりこんでいるこのゲームは、MMORPGというジャンルのもので、自分の分身となるキャラクターが魔族と戦いながら、他プレイヤーと協力して世界平和を目指すという、野心に満ち溢れた壮大なゲームなのである。サービス開始当初はそこまで話題にならなかったが、運営チームの丁寧な対応や毎週のイベント開催などによって少しずつプレイ人口を増やし、今や同時接続数が五万人を超える巨大タイトルにまで成長していた。サービス開始当初からプレイし続けている僕は、その中で古参プレイヤーとして名を馳せており、それなりに有名なギルドに所属してもいる。

 僕は他に趣味と呼べるものを持っておらず、仕事以外の時間はほとんどをこのネットゲームに費やしていた。


 公式サイトのイベント情報を漁ったり、某巨大掲示板の晒しスレに自分の名前が載っていないかを確認したりしながら時間をつぶしていると、インストール完了のポップアップが表示された。

 見慣れたアイコンをダブルクリックしてゲームを起動し、狩場から近くの町へテレポートする。僕のキャラクターは赤いオーラで全身が包まれていて、これは装備の強化値がカンストしていることを示すエフェクトなのだ。この装備のために今まで、数十万という現実のお金をつぎ込んできた。

 メニュー画面から、ギルドホームと呼ばれるウィンドウを開く。平日の深夜だというのに、ギルドメンバーはほとんどがログインしており、新しく実装されたダンジョンの攻略方法や、レアアイテムの情報など、様々なチャットが飛び交っている。

 今日はログインができないということはあらかじめメンバー全員に伝えてあったので、挨拶をすると、皆チャットで意外そうな反応を示す。


 僕は少しばかり当たり障りのない会話をしてから、明日も予定が入ってしまったのでログインできないという旨を伝えて、パソコンを落とした。

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