ただの正夢体質の俺が異世界の神様だと⁉【パイロット版】
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第1話、これぞ異世界ファンタジーと量子論SFとのハイブリッド⁉
「──もう、アルったら、また『ショウセツ』ばかり書いて」
母親の形見の魔導書を開き、
「……ミーア」
振り返るまでもなく、ほとんど触れるように肩越しから僕の手元を覗き込んできたのは、いかにも日だまりの猫そのままの可愛らしさと快活さが同居した、同い年の幼なじみの苦笑気味の笑顔であった。
一見すると、あの
「私たちももうすぐ十六になるから、他のみんなは畑作業や狩人なんかの親の仕事を継ぐ者以外は、鍛冶屋や家具工房に弟子入りしたり、冒険者になるために修行したり、役人や商人になるために都会に勉強しに行く準備をしたりと、めいめいちゃんと自分の夢や目的に向かって頑張っているというのに、アルってばいつまでたっても、そんな何の得にもならないことばかりしていて、恥ずかしくないわけ?」
「僕はいいんだよ! 元々この村の人間じゃなく、呪い師の母さんと一緒に流れ着いたよそ者でしかなく、農作業や狩りよりも書き物や調べ物のほうが得意だし。それにこの『ウェブショウセツ』だって、今やこの辺一番の都市どころか、王都でも大人気なんだからな!」
「ええー? そんなまさかあ! ──と、ちょっと前までなら、疑ってるところなんだけど……」
そこでいったん大きくため息をつく、幼なじみの少女。
「何でこんな田舎の村で育ったアルの書いた、『王宮ロマンス物語』なんかが、国中の女の子の間でもてはやされているのかねえ」
それは、心底不可解極まる表情での台詞であったが、確かに無理からぬ話であった。
何せこちとら物心つく前から、こんな山奥の村で暮らしているのである。母親が魔導書研究家でもあったゆえに、人並み以上の知識を持ち多数の文献を所有しているからって、こことは比較にならないまでに情報や娯楽を享受している都会の人々を熱中させるほどの、王侯貴族を題材にした恋愛物語を創ることなんて、本来なら到底不可能な話であろう。
「……そりゃあアルってば、子供の頃から空想癖をこじらせて、何だか馬鹿げたことばかり言っていたけど、これほどまでに妙にリアルな王宮ロマンスを書けるなんて、もはや妄想の域じゃないでしょうが? ──それに妄想と言えば、『ゲンダイニッポン』だってそうだよ!」
続けざまに彼女の桃花のような唇から飛び出した思わぬ言葉に、僕はドキッとなる。
「そっちについても子供の時からずっと聞かされてきたんだけど、『ゲンダイブツリガク』がどうしたとか『てくのろじー』がどうしたとか言って、『空飛ぶ鉄の船』や『世界中を繋ぐ糸のない糸電話』なんていう、ほら話ばかりしているかと思ったら、私たちが生まれる少し前にその存在が確認された、『ゲンダイニッポン』という別の世界──いわゆる
「うっ」
……まさか、
息がかかるほどほんの目と鼻の先まで迫り来る、幼なじみの女の子の執拗なる追求を、どうやってごまかそうかと思い悩んでいた、
──その刹那であった。
「きゃっ! ──な、何なの⁉」
突然ひなびた山村のすべてが、時ならぬ爆音と突風に包み込まれた。
思わずミーアとともに見上げれば、青天の大空には巨大な異形が浮かんでいた。
「
悲鳴のような大声を上げる、ミーア。
……何か、やけに詳しいな、おまえ。
凄腕の
そんなことを思い巡らせているうちにも、まさしく
そして昇降口からバラバラと地上に降り立ち、すぐさま僕らの周囲を取り囲む、全身鎧にマントをまとった、十名ほどの王宮近衛兵の面々。
「……アルバート=クダンだな? 王城まで同行してもらおう」
おそらくこの部隊の指揮官と思われる、他と比べてひときわ立派な装飾がなされた甲冑を着込んだ装甲兵が、重々しい声音を突きつけてきた。
はなから抵抗する意思なぞ持たない僕は、大人しく空中機甲兵へと乗り込んでいく。
「アル⁉ いやっ、やめてえ! アルを連れていかないで! そりゃあアルは、一日中働きもせずに、ショウセツを書いたり妄想にふけったりしている、完全な社会不適合者だけど、男のくせに王宮ロマンスなんぞに憧れているといった、人畜無害なチキン野郎であって、王国に対して反抗心や謀反の意思なんてこれっぽっちも持たないんだから、どうかここのところは見逃してちょうだい!」
……おまえは僕のことを、そういう目で見ていたのか。
ちょっといい感じになっていたとばかり思っていた、幼なじみの少女の本音の言葉に、ガクッとうなだれてしまった僕を、今や哀れみの目つきともなりながら、搭乗を促す指揮官殿。
「……ご心中、お察し申し上げます」
「そいつは、どうも」
「アルー! お願い、アルを返してー!」
少女の懇願の声を遮るかのように、無情にも閉められる、搭乗口の鉄扉。
「──お待ちしておりました、アルバート
貴賓室とも見紛う豪奢な客室で、最敬礼して僕を待ち受けていたのは、燕尾服をきっちりと着こなしいかにも『執事』然とした、ロマンスグレーの男性であった。
そして僕がふかふかのソファに座るとともに、緩やかに垂直上昇を始める、王宮近衛連隊虎の子の
「……公子はやめてください、僕はただの村人
「いえいえ、これもお役目ですので」
僕の皮肉めいた言葉にも一切表情を揺るがすことなく、慇懃に
……とは言っても、今回僕を招聘した御仁にとっては、下っ端の下っ端に過ぎないわけだけどね。
そんなことを思いながら、最新の
『ゲンダイニッポン』の視点からすれば、基本的にはいわゆる『チュウセイヨーロッパ』風といったところであろう。
石畳の街路にレンガ造りの建物なんかは、(おそらく
これはもはや、『田舎と都会との違い』なんて範疇で収められるレベルではなく、明らかにオーバーテクノロジーによるものと言えよう。
……考えてみれば、『カクヨム』にしたって『小説家になろう』にしたってその他の小説創作サイトにしたって、これまで散々『ゲンダイニッポン』からこの世界を含むいわゆる『異世界』へと、『異世界転移』なるものが行われて、最新の科学技術がもたらされてきたのである。必然的に便利なものは広範囲にわたって伝播していき、更に磨き抜かれていくこととなり、十年もたてば『チュウセイヨーロッパ』同然だった世界も、長足の進歩を見せようとも別におかしくはないであろう。
そしてまさしく『ゲンダイニッポン』における物理法則の根幹をなす『量子論』においては、たとえ『小説に書かれている世界』であろうとも、あくまでも
特にこの世界の最高位の術者であれば、『ゲンダイニッポン』においては『集合的無意識』と呼ばれる超自我的領域──具体的に言えば何と、上記の無数のWeb小説の中で描かれた『別の可能性の世界』すらも含む、『あらゆる世界のあらゆる時代のあらゆる存在の知識や記憶が集まってくるところ』とアクセスすることができるのであり、すでに最新の技術がもたらされている他の異世界はもちろん、当の『ゲンダイニッポン』はおろか、『
更には都市部と都市部との間は、これまた本来ならオーバーテクノロジーであるはずの『鉄道』によって結ばれているのだが、そのレール上を走っているのはいわゆる『蒸気機関車』だけではなく、『電車(電動列車)』や『新幹線』や果てには『リニアモーターカー』すらも見受けられた。
何で最も先進的で高性能であるリニアモーターカーに統一しないかと言うと、実はそれぞれのタイプの列車間においては、見かけとは違って性能の差は存在しておらず、あくまでも顧客の好みに合わせて、いろいろな外観の列車を使い分けているだけの話なのであった。
まあ、『ゲンダイニッポン』的には、ゲームの中の列車や戦闘機を思い浮かべてもらえば、話が早いのではなかろうか。
僕自身、夢の中で何度か体験しただけの記憶であるが、ゲームにおいてはそれぞれのマシンのパラメータをいじることによって、もはや骨董品同然の列車や戦闘機すらも、最新鋭のマシン同等の性能にするといったことも、けして不可能ではないであろう。
では、あくまでもゲームなぞではない、この現実の世界において、なぜこのような文字通りオーバーテクノロジー的なことが実現できるかと言うと、実はこの世界は単なる『チュウセイヨーロッパ』的世界ではなく、いわゆる『剣と魔法』の世界だからであった。
そもそも『ゲンダイニッポン』の知識や技術をもたらされたくらいで、『チュウセイヨーロッパ』的世界が急激に進化したりするわけがなく、オーバーテクノロジーな科学技術と元からあった魔法技術とが合わさってこそ、現下の常識外れな進化を実現することができて、むしろ『ゲンダイニッポン』から見てもオーバーテクノロジーな
──そう。まさしくこの世界こそは、超時代的な科学技術と物理法則すら無視し得る魔術とが同時に存在している、これまでにない文字通りの、『ハイブリッド・ワールド』とも呼び得るものであったのだ。
久方ぶりに目にした都市部の
高い城壁で外界と隔絶された、この大陸有数の『富国強兵』国家の都の有り様ときたら、一応は『チュウセイヨーロッパ』的景観をベースとしながらも、『ゲンダイニッポン』風のガラスやセメント等からなる超高層ビルはもとより、古今東西(&未来)の建築様式が混在しており、住人たちの人種(というか種族)やファッションのヴァラエティ豊かさと相俟って、筆舌に尽くし難いエキゾチックさを象っていた。
そしてその中央にでんとそびえ立っているのが言うまでもなく、王都の──いや、この王国の象徴である、スノウホワイト城──別名『
王都を縦横無尽に貫いている運河網のひときわ大きな中州の上に建てられた、本城と七つの支塔『セブンリトルズ』からなる優美で豪奢な白亜の城構えは、あたかも白鳥が翼を広げて今にも大空へと飛び立たんとしているかのようにも見えた。
その広大なる中庭に設けられた、航空機発着場を目指してゆっくりと減速していく、
「……またあの女王様に、御拝謁申し上げなければならないのか、気が重いなあ」
刻々と王城が近づくにつれ、ついポロリとこぼれ落ちる、本音の言の葉。
「──そのようにおっしゃいますな。それはもう陛下におかれては、アルバート様とお会いになるのを楽しみになされているのですよ」
苦笑いを浮かべながらそう諭してきたのは、航行中ずっと直立不動を堅持なさっていた、女王陛下の侍従長にして元近衛連隊指揮官の、ウェル伯爵殿。
まあ確かに、女王様の御謁見と言っても、こういったパターンでよくあるように、御簾の向こうに女王様が鎮座なされていて、こちらは広大な謁見の間で片膝ついて、ただひたすら「ははー」と畏まっていなければならないわけではないが、どうせ親近感あふれる女王様であられるのならば、実は僕の自作の小説のファンだったりして、むしろあっちのほうがこっちのことを尊敬して持ち上げてくれるといった、これまたありがちなパターンくらいに収まってくれたら良かったのに、あの女王様の親近感ときたら、『やり過ぎ』というかもはや『異常』だからなあ……。
そんな益体もないことを思い巡らせながら、ようやくかれこれ二時間ぶりに地上へと降り立つやいなや、
いきなり物陰から飛び出してきた人影に、強烈な体当たりを喰らったのであった。
「──ああ、
年の頃は十六、七歳ほどか、質素なれど仕立ての良い純白のブラウスと膝丈の濃紺のスカートに包み込まれた、華奢で均整のとれた肢体。黒絹のごとき長い髪の毛に縁取られた、まさしく人形そのままの端麗なる小顔。そしてその中で
一見してごく普通の『いいとこのお嬢様』然とした容姿だが、まさに今僕の腕の中で、涙で潤んだ双眸で見上げている、この
「……女王、陛下」
──そう。大陸一の大国ホワンロン王国の現女王にして、自称『僕の娘』でもある、キリエ=ホワンロンその人であったのだ。
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