第2話 最初の街 マタタビオーデコロン
まさや君を抱き抱えた私は、冒険者が最初に訪れる街と言われている『マタタビオーデコロン』に着いた。
街の中に入ると私達の姿が珍しいのか、周りの人達は不思議な物を見るような目で私達を見ている。
街も外から見るよりは意外と広く、大型ショッピングモールくらいの大きさはありそうな感じがした。
道幅もかなり広く、屋台などの出店や食べ物屋さんもたくさん並んでいた。
服や武器などを売っている店も多くあり、所々に宿屋があるのも見受けられた。
「より子先生、みどりもおしっこしたい!」
「はいはい、分かったわ!」
「より子先生、確かあっちの方に冒険者達が集うギルドと呼ばれる所があります。ボクのお尻もそろそろ限界なんで、あそこのトイレを借りましょう!」
私はまさや君の言う通り、迷わずギルドと呼ばれる場所に入った。入ってすぐの所にトイレらしき物が見えたので、まさや君とみどりちゃんをトイレに行かせて、私とゆうき君はトイレの外で待っていた。
ギルドと呼ばれるこの中も、思っていたより意外と広く、誰が見ても分かるようなファンタジー世界の冒険者という格好をした人達がたくさん居た。
ギルドの外に居た人達とは明らかに違う格好で、剣や鎧を装備していたり、中には魔法使いらしき格好をしている者達もいる。
人に出会うまでは、まさや君の言っていたように、ゲームの中の異世界に来たという実感はなかったが、こうやって見ると、信じ難いが現実なんだと受け入れざるを得なかった。
私はRPGゲームはやらないので世界観は良く分からないが、ロード・オブ・ザ・リングやハリー・ポッターなどは人並み程度に見ているので、何となくファンタジーは理解している。
幼稚園に居た時の格好で、そのままこの世界に来てしまった私は、ジャージ姿の上にファンタスティック幼稚園というロゴの入ったエプロンをしたままだ。
案の定、周りの人達もかなり不思議そうに私達を見ている。
それもそうだろう。
見慣れない服を来た変な女が3人の子供を引き連れて、ギルドの中に入ってきてるんだ……
ゲームの中の人達という事で、もっと機械的なのかと思っていたけど、私達を見ている時のリアクションは普通の人のそれだった。
個性豊かな格好をしている人達に囲まれているせいか、変な人に絡まれて怖い目に遭うんじゃないかと私が被害妄想に
「より子先生!! ギリギリアウトでした!!」
「間に合わなかったの!? まさや君!!」
元気良く出て来たが、確かに良く見るとまさや君はおちんちんを丸出しだった!
「世の中っていうのは、思っている以上にうまく行かないものですね。もう少しボクのお尻は根性あると思ったんですが、まだまだでした。ただボクは、転んでも10円を払って起きる男ですからね」
「より子先生! どこを見てるんですか!?」
「えっ!?」
「ボクのおちんちんは見せ物じゃないんだ!! そんなに露骨に見られたら、ボクも困ってしまうよ!!」
困っているようには見えないんですけど……
むしろ見せてない? まさや君……
「ボクにも羞恥心というものがあるんだ。見るならば、せめてバレないようにお願いします」
「か……かしこまりました」
「それにしても、異世界に来た途端にこんな目に遭うなんて、本当にとんだ災難だと思ってましたが、今回のボクには一つだけ喜ばしい事がありました」
「何かしら!?」
「それは、モリモリだった事です!!」
「まさや君!! いちいち内容を報告しなくて大丈夫よ!!」
「報告は大事ですよ、より子先生。報連相も出来ない人間は、何処に行っても役に立たないですからね」
「みどりも出たけど並だった! 並!」
みどりちゃんは、良い意味でも悪い意味でもまさや君に影響されている……
「より子先生、唐突ですが所持金はいくらありますか?」
「所持金なんて無いわよ! 普段お仕事している時はお財布持ち歩いてないから!」
そう。私達は衣服以外は何も持っていない。
今のまさや君の質問でまた一気に現実に引き戻され、正直どうやって生きて行けば良いか分からないという不安が押し寄せてきた……
「じゃ、より子先生。まずはこの街で情報を集めて、衣食住を整えましょう!」
子供だからなのか何なのか分からないけど、この状況でこのメンタルって一体どんな育てられ方をしてるのかしら……
でも、まさや君……頼りになります……
一瞬でも落ち込んでいた私がバカみたい……
私自身がもっと前向きに行かなきゃ!
「ねぇねぇ、そこのお姉さん。お姉さんは何処のホテルに泊まってるの?」
「ま……まさや君は、あの国民的アイドル園児のDNAでも受け継いでるのかしら!? っていうか、ホテルじゃなくて宿でしょ宿!! それに住から行くの!? 衣じゃなくて良いの!? 衣じゃなくて!?
私は、みどりちゃんとゆうき君が迷子にならないように手を繋いだまま「どんだけ前向きやねん!」と思いながらまさや君の事を見ていた。
「あの子はこの数分の間に、一体何人の女性に声を掛けているんだ……」
私達を置き去りにしたまま時間を忘れたように女性との会話を楽しんでいたまさや君は、会話に満足したのか、知りたい情報が得られたのか分からなかったが、満面の笑みのまま小走りで帰って来た。
「どうだった? まさや君?」
「より子先生、いくつか分かった事がありました。ゲームの時には分からなかったですけど、これは意外な事実です」
「な……何かしら?」
「この世界は巨乳が多い」
「何の調査をしてたの!?」
「それにドイツ語が通じません」
「まさや君、ドイツ語で話し掛けてたの!? っていうか、ドイツ語喋れるの!?」
「うちの隣に住んでいるフランス人のパーヤ君のおじいちゃんが、実はドイツ人なんです」
「な……何か凄い家系ね」
「みどり、英語喋れるよ! パードゥン? パードゥン?」
何故それだけ覚えたみどりちゃん……
「違う! ボクが言いたかったのはそういう事じゃないです。ボクが主に言いたかった事は、大きく分けて3つになります」
何か会議のプレゼンみたいになってきた……
眼鏡をかけさせて遠目で見たら、スティーブ・ジョブズにすら見えてきそうな気がする……
「わ……分かったわまさや君。ここだと邪魔になるから、ギルドから出て違う場所でお話しましょう」
まさや君のテンションから察すると、これから壮大な話が始まりそうな予感がしたので、とりあえずギルドから出て場所を変える事にした……
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