ハイスペック園児 まさや君~人気作なんでムリヤリ異世界転生してみました編~
あきらさん
第1話 まさや君とマネーゲーム
私の名前は小松崎 より子。24歳の保育士だ。
今宵も我がファンタスティック幼稚園では、平和な時間が過ぎ去ろうとしている。
園児達は午前中に、目一杯お外で遊んでお昼ご飯を食べた後、いつも通りお昼寝をしていた。
私も今日ばかりは遊び疲れ、みんなと一緒に横になっている内に、ついウトウトしてしまっていた。
寝てはいけないと思いながらも、園児達を寝かしつけている間に、私も夢の中に辿り着いてしまったようだ……
寝落ちしてからそんなに時間が経つ前に、いけないと思ってすぐに起きたつもりだった。
でも、体の不思議な感覚から、思ってたより寝てしまっていたと感じ、私は少し焦って起きた。
「……?……こ……ここは一体……!?」
気付くとそこは草原の中だった。
「ど……どういう事!?」
夢ではない!!
私は一瞬パニックになりそうだった!
「さっきまでファンタスティック幼稚園で、みんなと一緒に寝ていたのに、何で急にこんな所に!?」
状況が飲み込めないまま、私は右往左往していた。
「そうだ! みんなは!?」
とりあえず何処だか分からないこの場所に居るのが、私だけなのかを確かめたかった。
膝下くらいにの長さの草原が辺り一面に広がっていたが、少し離れた所には街道のような物も見えた。
見た事もないこの風景から察すると、今居る位置から余り遠くに行くのは危険だと思い、私は起きた場所の周りを少し小走りで探し回ってみた。
そして良く見ると私の足下には、まさや君とみどりちゃんとゆうき君が幼稚園の服を着たまま眠っていた。
私を含めた3人が、お昼寝をする前の格好と一緒だった事もあり、その瞬間あのお昼寝の続きなんだという事がすぐに分かった。
他の園児達や先生が居ない事も不思議だったが、とりあえず3人に異変がないか心配だった私は、体を揺すって子供達を起こした。
「まさや君! みどりちゃん! ゆうき君! 3人共大丈夫!?」
「ボクはマネーゲームは得意じゃないんですよ……ムニャムニャ」
「ま……まさや君!?」
園児とは思えないほどハイスペックな頭脳の持ち主まさや君は、いつもながら園児とは思えない寝言を言っていた。
外傷もなく、特に変わった様子はなかったまさや君を見て、私は少し安心した。
まさや君も普段ならすでにおねしょをしていてもおかしくない時間帯だと思ったが、こちらの心配を
「より子先生、ボク達を誘拐したんですか?」
「ち……違うわよ! 人聞きの悪い事言わないでちょうだい! さっきまでみんなと一緒にお昼寝をしていたでしょ? 先生も良く分からないんだけど、みんなと一緒に寝ちゃってたみたいで、起きたら突然こんな場所に居たのよ!」
「先生ともあろう人が、ボク達と一緒にお昼寝なんかしてるなんて……。そんなんでお給料を貰っていると思ったら、ボクなら恥ずかしくてまともにみんなの顔なんて見れないな……」
い……今、そこをつっこむの……?
「ご……ごめんなさいね、まさや君。先生なのに……」
何かムリヤリ謝らなきゃいけなくなってしまったけれど、確かに最近の私は少し怠慢だったのかも知れない……反省します。
というか、こんな状況でも全く動じないまさや君のメンタルは、一体何処からくるのかしら……
「でも考え方によっては、午前中で体力を使い切ってしまうほど、ボク達と一緒に一所懸命遊んでくれたって事なんですかね」
「そ……そう言ってもらえると嬉しいわ」
急に物事をポジティブに変換出来る所も、大人過ぎて毎回関心させられる。
「先生として、そんな体力しかないのもある意味では問題だと思いますけどね」
人を持ち上げた瞬間に突き落とすのも、まさや君の得意技だ。
「みどりちゃん、ゆうき君、より子先生が札束くれるって言うから起きよう」
「さつたば……? ムニャムニャ」
「ボクはシュークリームが良いな……ムニャムニャ」
まさや君に起こされたみどりちゃんとゆうき君は、まだ少し眠そうだった。
「みどりちゃん、ゆうき君、どうやらボク達は神様に制裁を加えられたようだよ」
「せいさいって何? みどり、分かんない」
「せいさいって言うのは、本当の奥さんの事だよ。浮気相手の第2夫人ではなく、本妻って事」
「ち……違うわよ、まさや君! 正妻の字が違うわ!」
「マー君、シュークリームは?」
「ゆうき君、今はそんな事を言っている場合じゃないんだ。ボク達はどうやら、とんでもない所に来てしまったらしい」
「とんでもない所……?」
眠い目を擦りながら、ようやくしっかり起きてきた様子のみどりちゃんとゆうき君は、辺りを見回して呆然としていた。
「より子先生、ここは何処?」
みどりちゃんの質問には、私も聞き返したいくらいだった。
「より子先生、何処でシュークリームを食べれば良いの?」
ゆうき君もキョトンとしていたが、置かれている状況よりも、お腹の空き具合が気になっているようだった……昼食を食べたばかりなのに……
まさや君のお陰なのか、2人共思っていたよりは動じていないようで、今はまだ現実を理解出来ていないのかも知れない。
「より子先生。今何時か分かりますか?」
「今は14時30分よ」
「お昼寝をしたのが13時30分頃だから、1時間くらい経った感じですね」
5歳児の天才まさや君は、あんたはコナンか!という感じで、突然この状況を推理し出した。
まさや君がウロウロしながら辺りを見回している姿を見て、みんなもまさや君の後に続く。
街道が見える方に向かって行くと、そこには1本の立て札が立っていた。
『←この先マタタビオーデコロン』
マタタビオーデコロン!?
「より子先生、これ何て書いてあるの? みどり英語分かんない!」
「みどりちゃん。これは英語じゃないわ。カタカナでマタタビオーデコロンって書いてあるの」
「マタタビオーデコロンって、まさや君がみどりのお誕生日にくれた化粧水の名前だ!」
「みどりちゃん! オーデコロンって化粧品ではあるけど化粧水じゃないわよ! 顔に塗る物じゃないわ! それに猫寄って来るし!」
「オーデコロンって猫寄ってくるの?」
「より子先生、大丈夫だよ。マタタビオーデコロンっていうのは、ボクが勝手に名前を付けた化粧水なんだ。より子先生が思って居いるような代物じゃないから安心して」
「そ……そうなのね。驚いたわ」
「それよりもより子先生。ボクは1つ気付いた事があるんだけど……」
「何かしら?」
「もしかしたらこの世界は、ボクが1年前にクリアしたゲーム『異世界転生クエスト』の中なのかも知れない」
「ゲ……ゲームの中!? しかも、まさや君が1年前にクリアしたゲームの!?」
「そう。実はパパがボクの為に作った幼児用天才育成RPGゲーム『異世界転生クエスト』通称ETQなんじゃないかと思うんだ」
パパが作った幼児用天才育成RPGゲーム??
何か略すとイッテQみたいな名前だけど……それに、まさや君のパパって一体何者!?
「実は、マタタビオーデコロンっていう名前は、そのETQという異世界ゲームの中で冒険者が最初に訪れる街の名前なんだ」
「げ……現実離れし過ぎてて頭がついていかないけれど、まさや君的には私達4人はそのゲームの中に飛ばされてしまったって事なの!?」
「そういう事です」
「みどり、良く分かんな〜い」
「マー君、何して遊べば良いの?」
「よし!みどりちゃん、ゆうき君、あそこに見えるマタタビオーデコロンまで競争だ!」
まさや君が指を指した方向には、立て札に書かれている通りに、マタタビオーデコロンらしき小さな街が見えた。
もしここがまさや君の言う通りに異世界ゲームの中だとしたら、現実世界のみんなが心配しているんじゃないかと思って少し不安になったけれど、3人の無邪気な姿を見ていたらその不安も少しだけ和らいだ。
「じゃ、より子先生も一緒に行くよ! 位置について、よ〜い、ポン!!」
「ドンね! ドン!!」
みどりちゃんとゆうき君は、まさや君の掛け声で一緒に走り出した。
その2人の後を追うように、私とまさや君は少し遅れ気味で並走していた。
「より子先生、あまり心配しないで大丈夫だと思うよ」
「どういう事、まさや君?」
「大体この手のモノは、ゲームをクリアすればこの世界から出られるっていうのが定石だからね。それに何よりも、ボクはこのゲームをクリアした経験がある! ゲームのように上手くはいかないかも知れないけど、クリアの仕方は知っているから、その点だけは安心して良いと思うよ」
「確かにそうかも知れないわね」
「現実世界の事は今考えてもしょうがないし、大事なのは今ボク達がこの世界でいろいろな事を学び、無事に現実世界に帰る事だと思う」
さすがまさや君……
何か既に、勇者みたいな立派な発言をしている……
私は突然、窮地に立たされたと思っていたのに、この状況で発揮するまさや君のリーダーシップは、末恐ろし過ぎる……
でも本当にまさや君の言う通りね。私が今出来る事は、保育士として何とかみんなを無事に現実世界に帰す事!
自信はないけれど、責任を持ってみんなを生還させるわ!!
「より子先生、ボクうんち出そう……」
「まさや君! もうちょっと我慢して! マタタビオーデコロンまでもう少しだたから!!」
私はまさや君を抱き抱えて、猛ダッシュで街まで向かった……
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