マジメ騎士と響く声~~家出貴族、近衛騎士になる
@dualhorn
第1話 少し未来の近衛騎士
「ロイ・トリシュおよびデュアルディオ・フォン・シークラントの二名を、近衛騎士に任命する」
どうしてこうなった?
レッドカーペットの終着点一歩手前。
王冠を被り、威厳という言葉が服を着ているかのような男の前に跪きながら、僕は心の中でそう思った。
僕の隣で同じように畏まっているロイさんは当然のごとく涼しい顔をしている。一体どうしてこの場面でそんな顔ができるのだろう。近衛騎士なんて王宮に縛り付けられるものになりたくないなんて僕じゃなくても、無表情を保つことが難しいくらいの偉業である。ああ、その頑丈そうな表情筋を僕に分けてくれ。
いや、確かにほんの数日前の騎士試験ではいろいろと、それはもういろいろと吹っ飛ばされたり、叩きつけられたり、燃やされかけたり、死にかけたりとあったのだけれども、これは予想外だよ。
「それでは、両名ともに宣誓を。我が国の最精鋭たる近衛騎士の一員となった栄誉を、貴殿らの口でこの場にいる者たちに刻むのだ」
「はっ!!」
「・・・は、はっ!!」
目の前のこの国の主が放った言葉に、ロイさんは雷のように早く、僕は若干どもりながらも反応する。
あれ、今陛下は何と言ったっけ?栄誉がなんだって?いや、確かに近衛騎士になることは名誉なことだけれども、僕にとってはあらゆる意味で重すぎる。というか、その口で刻めって、いきなりそんなこと言われても何て言えばいいのかなんぞ、今の僕の脳みそには導けないよ。
「私、ロイ・トリシュはこのオーシュ王国の要たる王族を守護する者として、この生涯をささげることをここに誓う!!この国を守るためならば、いくらでもこの命を燃やして見せよう!!オーシュに栄光あれ!!」
ロイさんは立て板に水を流すようにスラスラと口上を述べてみせる。
その顔は凛々しく、くすんだ金髪が大広間の照明に照らされて一瞬眩く輝くと同時に、広間は大きな拍手に包まれた。
すごいな。あらかじめ考えてきたんじゃないかと思うくらい卒なくさらりと言い切ったよ。
表情筋だけじゃなく、文才まであるんじゃないか?頼むから貸してほしい。5万までなら払うから。
「・・・・」
ああ、どうしよう、陛下が僕を温度のない目で見てる。アレは僕にも早くしろっていう目だ。
ロイさんへの拍手が若干緩やかになった瞬間を見計らい、陛下の視線に押されるかのように一歩前に出た。
「「「「「・・・・!!!!」」」」」
僕に突き刺さるかのような、謁見の間の至る所からの様々な視線。
この場にいる貴族も騎士も、全員が僕を見ている。
グリフォンを刻んだマントを身に着けた僕の憧れの騎士。燃える獅子のような赤い髪の毛の僕の師匠。僕にそっくりな髪の色をした僕の父上。そして・・・・
「デュオさん・・・」
「デュオ様・・・」
奇しくも同じタイミングで僕の名前を呟いた銀髪のお姫様と赤髪の従者。
二人は全然違う顔だけれども、今は二人ともに唖然とした顔をしていた。きっと僕もそんな顔をしているに違いない。二人にとって僕よりもマシな点は、呆けていても二人とも一般水準よりカワイイということだろう。
しかし、益体のないことを考えながらも、そんな呆けたような二人のほんの小さな呟きは、僕の耳にはしっかりと届いていた。僕の耳が、あの二人の言葉を聞き逃すなんてありえないから当たり前なのだけれども。
「・・・・・」
二人の声を聞いたとたん、ミキサーでかき混ぜたかのような頭の中が少しだけ大人しくなった。
僕はさらに前に一歩進む。視界に多くの人が映り、僕は広間中の人を見るようにぐるりと視線を飛ばすが、赤髪の少女と、銀髪の少女のところで、僕の視線は少し止まる。
「私、デュアルディオ・フォン・シークラントは、この国を、己が最も守るべきものを守護するために、私のすべてを費やすことをここに誓う!! オーシュのすべてに変わらぬ明日が来るように、あらゆる傷をいとわずこの身を盾にしてみせる!! オーシュに栄光あれ!!」
自分でも意外だが、僕の口からもスラスラと言葉が飛び出した。ロイさんのパクリみたいなのは、まあ、急ごしらえのセリフだから許してほしい。とっさのパクリじみた誓いではあったものの、オリジナリティは結構混ぜられたと思う。
「「「「!!!!!!!」」」」
幸運にも、広間の方々は僕の宣誓をおかしいものとは思わなかったようだ。もしかしたら場の雰囲気を重視してスルーしてくれたのかもしれないが。
ともかく、先ほどのロイさんのように、僕にも拍手の波が押し寄せた。その波の中、二人の少女が必死に手を叩く音はやけに大きく響いた気がするのは僕の願望だろうか。
「二人とも、素晴らしい誓いであった。皆の者、もう一度新たな守護者に拍手を!!」
陛下の体格にあった重厚な声が響くと、三度万雷の拍手が謁見の間を満たした。
華麗なイケメンスマイルとともに手を振るロイさんの真似をしながら手を振りつつ、先ほどの呆けた表情のから脱却した二人の少女を眺めながら、どこか現実感のない光景を見て再び思う。
どうしてこうなったんだっけ?
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