第13話 3-2 風の渓谷にて

ドーン!


「爆発音?どこから」

「あっちの方向からだが」

「おいおい。あの方向って、今さっきここを立った騎士団が、“色族首都”に向って行った方じゃ…」


“平原の村”の外から響いた謎の爆発音が、今し方“平原の村”から立ったばかりの騎士団の“色族首都”への帰還方向と被っている事から、今日はこの後大雨どころではない事態に、カージナルらはまさかフロストとソル率いる黒族がもう動き出したのかと嫌な予感がした。


「レイン…」

「お、おい。“フェル”!ったく、いくら見送りに間に合わなかったからって…セージ、行くぞ!」

「あ、ああ!」


その嫌な予感にフェルメールはいても立ってもいられず、レインらの無事を確かめるべくカージナルの静止を振り切って爆発音がした方へと一目散に走るや、カージナルとセージも慌てて後に続いた。



その謎の爆発音の爆心地では、黒煙と共に立ち上る二つの影と女性の声によって、騎士団の殆どを赤色の血で蹂躙し尽くし終えていた。


「まさか、予想通りのルートを通るとは。色族って、ホント馬鹿だね」

「ソルの得意戦法である「火」の“レッド・アイ”の力を暴走させた爆弾化の前には、色族の騎士団も大した事ないわね」

「しかし、肝心の“絶望の奇跡”を逃がすとは…近くにいた色族が手馴れだったのは誤算だった。このあたしが、憎き色族にぬかるとは」

「嘆くな。まだチャンスはあるわ」

「そうね。あたしたちも“絶望の奇跡”を追うわよ」


“色族首都”帰還中の騎士団を蹂躙させた二人の女性は、手練れな色族の抵抗によって逃がしてしまった“絶望の奇跡”―レインを追いかけ、黒煙に立ち上る影と共に消えて行った。



爆発音による黒煙を頼りに現場に到着した三人が見た光景は惨状たるものだった。見送りの時にはあれだけの数が健在だったはずの騎士団達が、皆赤色の血だまりに伏していたのだ。


「酷い…うっ」

「“フェル”、大丈夫?あんまり見ない方がいいよ」

「だ、大丈夫…村の外まで走って疲れただけかも…」

「誰かー!生きてる人はいませんかー?」


あまりの惨状に、フェルメールはたまらず吐き出しそうになる所をセージに介護される一方、カージナルは倒れている騎士団の中から生存者はいないか叫ぶ中、彼の声に反応した一人の騎士団が答えたのはその時だった。


「うう…」

「その声、隊長さんか!?」


生存者―メヴェウの声に三人が近づくも、メヴェウもまた例外ではなく、白の正装服も赤く染まった全身血だらけで、自慢の大声も絞り出すのがやっとのかろうじで生き延びている状態だった。


「しっかりしろ、隊長さん。一体、何があったんだ?」

「うう…“絶望の奇跡”を護った者か…まさか、二人の黒族にやられるとは…頼みがある。“風の渓谷”へと行ったジーンと“絶望の奇跡”を…助け…」

「おい、しっかりしろ!おい!…駄目だ。事切れてる」


その言葉を最後にメヴェウも息絶えてしまった。あれだけ居た騎士団の一部隊を、二人の黒族によってほぼ壊滅させてしまうぐらいなら相当の手練れだろう。辺りを確認するも、自分達と倒れていた騎士団以外の気配はなかったが、メヴェウの傍にあった天幕付き馬車の中を見たセージが、カージナルに向け一言叫んだ。


「“カージー”。レイン君がいない。ジーンもだ」

「恐らく、ジーンと共にこの場から逃げ切ったんだろう。隊長さんの言う通り、ここからだと“風の渓谷”が身を隠すにはうってつけだが、いつまで持つか…」

「早く、早くレインとジーンさんを助けにいかないと!」


そうフェルメールが叫んだ。先程のレインらの見送りに間に合わなかった所為なのか、どうも落ち着かない彼女の言動を見て、カージナルは心配した。


「“フェル”。気持ちはわかるが、その“風の渓谷”に騎士団を一掃した黒族がいるかもしれんし、第一戦闘経験がないお前には無理だ」

「でも…」


カージナル心配するのも無理はない。セージは槍術に彼の得意属性である「風」の魔術、更に万が一の回復術も使えて、カージナルと共に戦闘経験は豊富な一方で、フェルメールは父親と名乗る人から託されたという長剣を持っているとはいえ、当初は女性であるフェルメールには到底扱えることさえ難しかった代物を、家事の合間に庭での素振りから何とか扱えられるようにはした程度で戦闘経験は皆無にも関わらず、フェルメールは尚もカージナルに説得を試みる所で、セージが二人の話に割り込んた。


「“カージー”、“フェル”も一緒に連れて行こう。何かあったら僕の回復があるし、今は“フェル”だけ“平原の村”に連れ戻す時間も惜しい一刻を争う事態だ。それに、“フェル”の性格は君もよく知ってるはずだよ」

「セージ…」


セージの言葉にカージナルは観念した。確かに黒族の奇襲から逃げ延び、恐らく身を隠しているであろう“風の渓谷”で救助を待つレインとジーンの存在から、一旦フェルメールだけ“平原の村”に連れ戻す時間も惜しい事態でもあった。


「…わかった。足手まといにはなるなよ」

「足手まといって何よ?でも、有難う。“カージー”…」


カージナルの皮肉を含んだ返答にフェルメールは最初むっつりとしていたが、同行の許可が下りたことには素直に喜んだ。


「んじゃ、さっさと二人を助けに“風の渓谷”に向かうとするか」


こうして三人はレインとジーンを助けに、一路“風の渓谷”へと目指すのであった。


―レイン。今、助けに行くね。

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