人間僅か五十年
いつも通りの坂道を
いつも通りくだって
いつも通りの信号機で
いつも通り赤から青に変わるのを待って
そして、いつも通り青に変わった歩道を
僕は歩いた。
黒っぽいアスファルトに
白線が規則正しく並んでいる歩道は
子供のころには
帰り道のちょっとした遊び場となっていた。
白線から足を出さないように渡っていく遊びだ。
子供にとっては白線と白線の間が少し遠くて大変だったのを覚えている。
今ではこんなこと容易なものだが。
僕は二、三歩踏みだした。
少し消えかかっている白線が
僕の足の下でキラリと光ったような気がした。
「おい、逃げろ!少年!!」
誰かの叫ぶ声が聞こえる。
顔をあげるとトラックが僕に迫っていた。
やばい、これは避けられない。
僕はそう瞬時に判断した。
そして手で頭を覆った。
地面に頭をぶつけたとなると
打ち所が悪ければ後遺症が残るかもしれないから。
人は生命の危機に立たされても
意外と冷静になれるものなんだな。
キキッーという車のブレーキ音。
アスファルトとタイヤが擦れて
少し焦げたような匂い。
そして、ドンッという体への衝撃。
全てがスローモーションのようである。
トラックにはねられて宙を舞った僕の体は
重力に従うようにゆっくりと落ちていく。
ふと目に入った夜空には綺麗な月が...
あぁ、今日は満月だったんだ。
綺麗だなぁ。
あんなに光り輝いて...
こんなに綺麗なら涼太と一緒に...
「見たっ...か.....た...」
「人間僅か五十年」
…人生は短いのだということの例え。
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