ドラゴン系少女と最強系ヒロインのユリユリ冒険譚

水瀬 綾人

龍血の因縁

第1話 レイラ・クライストの出会い

「はぁ、はぁ・・・・・・っ」

「待ちやがれ、この女!!」

 薄暗い路地裏を闇雲に駆け回る。

 正確には険しい顔した悪党共に追いかけられている。

 追っ手の数は三人。

 捕まれば、待ち受ける運命はきっと絶望そのものだろう。

 ―――そんなの嫌っ!!

 呼吸が苦しい。いつも心地よいはず心臓の鼓動が今はとてもうるさくて、わずらわしい。

 後ろから聞こえてくる複数の足音が遠ざかる気配は全く感じられない。

 通りのすぐ側にある角を右折する。しかし、この先にあったのは壁だった。

「そんな、逃げ場が・・・・・・」

 このままだと袋小路になって捕まってしまう。今すぐ引き返さないと、

 すぐに後ろを振り向くが、もう既に遅かった。

「残念だが、追いかけっこはここまでだ。大人しくしていれば痛い目には合わずに済むぜ」

 男の腰に装備していたナイフを抜き取り、刃先を向けてくる。

「わ、私を捕まえて、どうするつもり?」

「決まってるだろ、歓楽街の娼婦しょうふ共に売り飛ばすんだよ。お前みたいな可愛いガキは高く売れるぜ!」

 そう言って男は不敵な笑みを浮かべた。

 頭が恐怖に支配され、思わず後ずさりしたが、ドンっと背が壁にぶつかる。

 もうこれ以上下がることができない。

 男が再び歩みだした。

 ――イヤッ!誰か助けて!!

 凶悪な笑み浮かべた男が私に手を伸ばしてきた時、黒い影の縦線が走り、目の前の足場が粉砕ふんさいされる。

「――――ッ!?」

 砕けた石畳が砂塵さじんとなって、視界を埋め尽くしていく。

「大の大人が三人がかりで女の子を追いかけ回すなんて、最低ね」

 透き通った声音が狭い空間に響き渡る。

 視界を覆っていた砂煙が晴れると、そこには私を背にかばう一人の剣士がいた。

「ひ、ひいぃ――」

 さっきまで威勢の良かった悪党たちが後方に吹っ飛ばされ、恐怖を顔に浮かべ尻もちをついている。

 剣士は怯えた悪党たちに剣先を向けた。

「その汚い首を飛ばされたくなかったら、今すぐ私の前から消えなさい」

「うわぁああああああああああああああ」

 剣士の声音を聞いた、男たちは一斉に立ち上がり、暗い路地裏の奥に走り去っていった。

「そこのあなた、怪我は無いかしら?」

 振り向きざまに剣士は剣を鞘に収める。

「はい。おかげさまでって、女の子!!」

 振り向いた剣士は男ではなく、超がつく程の可愛らしい顔立ちをした歳の近い美少女だった。

 シルクを連想させる腰まで届く白い髪にぴょこりはねたあどけないアホ毛。

 端正な顔立ちで、一切の曇りも無い空を彷彿とさせる蒼色の瞳。

 美しい四肢にくびれた腰。黄金比と呼ばれても過言ではないバランスの取れた胸とお尻。

 白と青を基調とした軽装に純白のマント。

(綺麗な人だなあ・・・・・・)

 目の前の少女に同性の私すら見惚みほれてしまった。

 ――純白の軽装に身にまとう、白髪青眼の少女剣士。

 身長は158セルトの私より少し高い165セルトくらいだろうか・・・・・・。

「そ、そんなにまじまじと見られると不愉快なのだけれど」

 彼女は頬をほんのり朱に染め、顔を逸らした。

「はわわ、ごめんなさい!」

 慌てて、深く頭を下げる。

「分かってくれれば良いのよ」

 そう言った彼女は左肩にかかった髪を手で後ろに払った。

「あの、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「あなた、人に名を尋ねるときはまず自分からって習わなかったのかしら・・・・・・」

 少女はこめかみに手を当て、嘆息をもらした。

「ご、ごめんなさい。私はレイラ・クライストって言います」

「そう、私はエーレ・アーベンロート。突然で申し訳ないのだけれど、クライストはこんな寂れた路地裏で一体何をしていたのかしら?」

「そ、その、私、冒険者になるためにこの街に来たんです。ギルドを探している途中で道に迷っちゃって・・・・・・そしたら、さっきの男たちに追いかけられて・・・・・・」

 私はなぞるようにこれまでの経緯全て語った。

「そう、あなた外の街から来たのね。なら、迷子になるのも無理はないわ。仕方ないから私がギルドまで案内してあげる」

「本当ですか!ありがとうございます」

 やった!これで迷子にならなくて済むぞ。

「まずはここから抜け出しましょう。着いてきて」

 そう言って、アーベンロートさんは歩き出した。

 それに遅れまいと駆け足でその姿を追いかけた。




 街の喧騒が飛び交う大通りを出て、足を止める。長く路地裏にいたため、私たちを照らす太陽が懐かしく思えた。

「やったー、出られた!」

「表通りに出たくらいで大袈裟おおげさよ」

 いきなり大声出したせいで、驚いた街の人々の視線が一気に集まってしまった。

「さ、行きましょ」

 アーベンロートさんはそんな視線も気にする素振りもなく歩き出す。

「ま、待ってくださいよ〜」

 慌てて私は小走りで追いかけた。

 キョロキョロと辺りを見渡す。

 目の前の広がる光景は、レンガや石で造られた家々やお店が連ねる街並み。

 馬車がカラカラと街路を行き交い、ヒューマンや獣人、エルフにドワーフ等の多種族がここでは生活しているようだ。

 胸にプレートを付け、腰に剣を装備している人もいる。あの人は冒険者だろうか?

「あ、あの。アーベンロートさんもやっぱり冒険者なんですか?」

 先程から思っていた疑問を口にする。

「そうね、冒険者になって二年ってところかしら」

 石畳いしだたみで粉砕するような人が二年目だなんて、そんな世界で私はやっていけるのかな。

 期待でいっぱいだった気持ちがどんどん不安に塗りつぶされていく・・・・・・。

「そんな暗い顔しなくても大丈夫よ。あなただってきっと強くなれるわ」

 アーベンロートさんは表情から察してくれたのか、はげましの言葉をかけてくれた。

「ほんとですか?」

「ほんとにほんとよ」

 その言葉がたまらなく嬉しくて、ついアーベンロートさんの左腕に抱き着いてしまった。

「ちょ、ちょっと!歩きにくいじゃない」

 アーベンロートさんは嫌そうな表情を浮かべていたが、引き剥がそうとはしなかった。

 顔を進行方向に向けると、大きく空けた広場があり、その中央位置にお城らしき建物が見えてきた。

「アーベンロートさん。あの大きな建物はなんですか?」

 お城を指さし、たずねる。

「あれがギルドよ。ここアルタイナではあのギルドを中心として栄えているの。ギルドの建つ広場セントラルエリアは円状になっていて、東西南北全ての大通りと繋がっているわ」

「あれがギルド・・・・・・」

 私の冒険はあそこから始まる。

 一体どんな冒険が私を待っているんだろう。

 考えただけで自然と頬が緩んでしまった。

 それからすぐにギルドに到着し、木製で造られた大きな扉を開け、中に入っていった。


 ギルド。

 冒険者御用達の巨大施設。

 主に冒険者の登録やクエストの発注。討伐したモンスターの素材を換金することができる。施設内には図書室やラウンジ等が設置されている。

 と、全部施設の案内板に書いてあった。

「では、私はこれで失礼するわ」

「え、行っちゃうんですか?」

「まだ何かあるの?」

 アーベンロートさんはきょとんと首を傾げている。

「特に何かあるわけじゃないんですけど・・・・・・、もっと一緒にいたかったなあ。なんて・・・・・・」

 うわあああ私何言ってんだ。たぶんドン引きされちゃってるよ。

 恐る恐るアーベンロートさんの様子をうかがうと、

「しょ、しょうがないわね。そういうことならもう少し一緒にいてあげてもいいわよ」

 アーベンロートさんは顔を赤らめ、ポリポリと頬を掻いてそっぽをむいた。

 そんな姿が可愛くてまたも抱きついてしまった。

「ありがとう!アーベンロートさん」

 急に抱きついた私に、アーベンロートさんはちょっぴり困った顔をしていたが、すぐに気を取り直して次の言葉を切り出した。

「冒険者登録はどうしたの?」

 あっ、アーベンロートさんに夢中になってすっかり忘れていた。

「あ、今すぐやってきますんでちょっとだけ待っててください」

 私は受付窓口に駆け足で向かった。

 窓口ではギルドの制服であろう白い服に身を包み、ツインテールの青みがかった髪にスカイブルーの瞳が印象的な女性職員が笑顔でお出迎えしてくれた。

「ようこそ、アルタイナ支部へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「えっと、冒険者登録をお願いに来ました」

 言い方これで合ってんのかな?ちょっと不安だ。

「はい。冒険者登録の方ですね。では、この冒険者ライセンスにサインをお願いします」

 一枚のカードを差し出された。

 カードの記銘欄にスラスラと名前を書いて、受付のお姉さんへ渡す。

「レイラ・クライストさんですね。では、これより冒険者ライセンスとの説明をさせていただきます」

「お、お願いします」

「このライセンスは冒険者の身分証明書として扱われます。他の機能としてあなたが倒したモンスターやその数、達成したクエストを数値化し、その数値を貢献値として自動的に記録します。冒険者の方々にはその貢献値を競っていただくランキング形式となっております。ランキングはライセンスに記載されますので、上位ランカー目指して頑張ってください。説明は以上となります」

 なるほど、冒険者で競い合わすのか。

「何かご不明な点はございましたか?」

「特には・・・」

「では、初期装備を配布しますのでこちらの中から一つ選んでください」

 そう言って、カタログを見せてくれた。

 カタログには剣や弓矢、杖など様々な武器が揃っていた。

(やっぱり冒険者といえば剣かな〜?)

「・・・・・・じゃあ、剣でお願いします」

「分かりました。剣ですね。少々お待ちください」

 受付のお姉さんはツインテールをみょんみょんと揺らして窓口の奥へ消えていくと、

 それからまたすぐにお姉さんは茶色いさやに収まった剣を抱えて戻ってきた。

「こちらが剣になります」

「ありがとうございます」

 剣を受け取り、お礼を返す。

 ずっしりくると思っていたが、意外にも軽かった。

 たぶん初期装備だから安物なんだろうな。

「冒険者レイラ・クライスト。あなたのご活躍を心より御期待しております」

 職員のお姉さんは腰を折り、深く頭を下げた。

「はい!頑張ります」

 それに私は満面の笑みを浮かべ、精一杯元気な声で答えた。












































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