あの日の僕と今のキミに

◇あの日の僕と今のキミに

(こむらさきさん)


 ネグレクト、DV被害の児童たちの駆け込み寺である喫茶店を舞台にした恋愛物語。

 個人的な話になりますが、『いじめ、DV、近親相姦、二重人格』の四つの題材が、僕の中で扱うのが難しい四大テーマです。理由は、それぞれイメージは強力に色々あるが実態がよく分からないのと、テーマの印象が強すぎて「いじめを描いただけ」とか「二重人格の人が出てきただけ」みたいなお話になってしまいそうで手が出しづらいからです。

 今回のあなたの作品は、このDVという難しいテーマを扱いつつ、舞台をその救済場所、主人公をDV少女を好きになる男の子にすることで、軸を上手く分散させてDVだけが鼻に付くようなこともなく、バランス良くまとまっていると思います。DV被害者が、DV加害者を憎みつつ自らもその加害者的な振る舞いをしてしまう描写は実際の現場でも多数報告されている傾向で、リアリティがあります。また、喫茶店が結局続かないなど、安易なご都合主義に走らない展開も地に足がついていて今回のテーマと整合性があります。

 惜しいと思うのは、情景描写のボリュームです。

 我々作者は、頭の中にシーンがあり、それを文章にして行くわけですが、読書は逆で、何もない状態から、我々が書いた文章を頼りに頭の中に世界を組み立てて行きます。

 例えばテーブルの描写をする時に

「コショウの瓶がある。そのコショウの瓶はテーブルの上あった」

 よりも

「マホガニー材のアンティークなテーブルがある。その上にスーパーで売ってるような、どこにでもあるコショウの瓶が置かれていた」

 というように、ぱっと見た全体から詳細へ、と書くと読書の想像組み立てがずっとしやすくなります。

 そう言った視点で、舞台となる喫茶店の描写を読み直して見て頂くと、あなたの脳の中のお店のイメージをもっと魅力的に伝えるフレーズが浮かんでくるのではないでしょうか。

 外観は。BGMは。調度品や観葉植物は。

 描写を沢山しろと言いたいのではなく、簡単な短い説明でもいいので、読書がイメージする情景の補助線をもう少し多目に引いた方が読者がよりスムーズに作品世界に入り込めるように感じます。

 今回のお話では、喫茶店が舞台で、象徴で、もう一人の主人公とも言えます。その大事さ、失われる寂しさを際立たせる為に、描写にもう一筆が加わると、あなたが出そうとした効果がより印象的になるかもしれません。起伏に富んだ素敵なお話でした。

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