舞う落ち葉が地に着くまでの刹那的速度

◇舞う落ち葉が地に着くまでの刹那的速度

(包丁さん)

 真面目に生きることが苦手で、恋も仕事もどこか外してしまって上手くいかない中年男性の悲哀を、内観垂れ流しのモノローグで綴った作品。

 まず、この作品の講評が難しいと感じた、と言うのはお伝えしたいです。

 他の作品が、作品の講評をすればいいのに対し、この作品への講評は、直接作者であるあなたの、その生き方や内面への講評になってしまいそうだと感じるからです。

 勿論このお話を書いた作者の方が作話の巧者で、僕が想像するような人物像では全くない可能性もありますが、端々の単語の選び方、作中に登場する歌の歌詞やキャラクター番組の特番のサブタイトル、また、こういったコンテストにこういった作品を出してくる感じ。個人的には、色々と上手く行かない中年男性がその悶々を見事な筆致でそのまま文章に写し取ったようにしか思えません。

 そう捉えてしまうと、これを面白いとか面白くないとか、よく書けてるとか書けてないとか、評価するのが違うように思えて来ます。

 他の読者さんの印象がどうかは分かりませんが、僕はあなたの箱庭療法に立ち会った感覚です。

 小説を書く動機は色々あっていいので、それで全然構わないし、個人的には他人のこう言う生の内面を見られる機会は貴重と感じるので読んで損したとも感じません。

 ただ、勿体無いな、とは感じます。

 これだけ自分の心という捉えどころのないものを文章という形に出力できる力がありながら、あなたはあなた自身を皮肉と自嘲、茶化しで守って、真っ直ぐに使おうとしていない。劇中の元彼女もそれを感じて、あなたから離れたのではないでしょうか。彼女は言っていました。

「そうそう。僕君にはいっぱい見せびらかしとかないとね。そしたらちょっとは羨ましいと思ったりするでしょ?焦ったりもするでしょ?もっと真剣に、自分のこれからとか考えたりもするでしょ?」

 これはかつて愛したあなたへの、彼女からの本音だと僕は思うのです。

 これを読んだ僕は、そしてそばであなたを見ていた彼女は、あなたが何か人と違うキラリとしたものを持っているのを知っています。そしてその何かの使い方に少し苛立っている。だから勿体無い、と思う。

 余計なお世話なのは百も承知ですが、我々ものを書く人間は、今世紀に入りwebという本当に自由な空間を手に入れました。

 精子からやり直すことは未来のテクノロジーに期待するとして、作家としては思い立った瞬間に旗揚げし、やり直せる環境がそこにあります。想いを文章にする力は感じたので今度は真剣に自分を見つめなおした真っ直ぐな作品も書いてみてください。

 もし劇中のお話が全くの架空のお話なら、感情移入して騙されるくらいにはよく書けていました、ということで。

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