さよならまでのカウントダウン

多多多ケト

Prologue

Prologue さよならの手紙

               陽人へ


 できれば自分で伝えたいんだけど、こんな病気だし。

 陽人との最後がいつになっちゃうかわからないから、この手紙を書くことにしました。まぁ、私が早く言えばいいだけなんだけどね(笑)

 でも、ちゃんといえるかわからないし、伝えたいこといっぱいあるし、自分の整理のためにも。


 私の人生は、小学6年生の冬、あなたにプロポーズされたときに変わりました。陽人にはプロポーズなんてつもり、まったくなかったかもしれないけどね(笑)


 でもそのときの私は、本当に心臓が飛び上がっちゃうくらい嬉しかったんだよ。

 胸がきゅーんってなって、心臓もドクドクってすごくうるさくって。

 それ以上その場にいたらどうにかなっちゃいそうだったから私、その場から走って逃げちゃった。ごめんね。


 しかも、そのすぐ後にこの病気になっちゃって陽人にしばらく会うこともできなかった。

 プロポーズされたのが嬉しくて、今すぐに陽人に会いに行きたいのに病院の先生もお父さんも行かせてくれなかったんだ。

 病気がもっと悪くなったらどうするんだってね。


 そういえば、私の病気をちゃんと説明したことなかったかな。

 たぶんこれからも話さないだろうしここでちょっと説明をすることにしましょう。


 この病気は、過鼓動症候群って言うんだ。

 感情が昂ぶると、心臓が普通の人よりも強く鼓動を打つ病気。

 それで心臓が疲れちゃって、早くから衰えていっちゃうんだって。


 だからお父さんはあの時、陽人に会いに行かせてくれなかった。


 それ以外にも運動しちゃダメとか、好きだった遊園地のアトラクションも乗ったらダメとか、いろんなことをダメって言われて大変だったんだ。


 すごく嫌だったな。


 でも、お父さんの顔見たら嫌なんて言えなくなっちゃった。


 私よりも泣きそうな顔してて。

 ずっと小織と一緒にいるんだ、なんて言ってて。

 私のことを本当に大事に思ってくれてることがわかったから。


 だからお父さんの言うとおりにした。

 

 大好きな陽人に会いに行かなかったし、大好きだった体を動かすことも控えた。

 

 そうやって、『好き』を遠ざけているうちに私の心はどんどん凍りついていったの。


 友達とは普通にお話したし、病気に障らない程度で遊びにいったりもしたよ。

 でも、本気で楽しんじゃったら心臓の鼓動が早くなって寿命が縮まっちゃう。

 そうしたらお父さんやお母さんがまた悲しんじゃう。


 そんなふうに考えて毎日を過ごしてたら、『好き』とか『楽しい』とか、いろんな感情を忘れちゃったんだ。

 友達と話してて、表面上は笑ってるんだけど本心からは笑えない。楽しめない。

 

 そうやって苦しんでる私を助けてくれたのは、陽人だった。

 病気になってから私は、陽人のことを突き放して、冷たくしちゃったのに。

 そんな私のことを、必死になって助けてくれたよね。


 私は今でも、あのときのことを思い出します。


 結構最近のことなのに、すごい昔のことな気がするよ。


 そう、あれは今から半年前のこと。

 

 

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