学園重奏
cocokazu
第1話 プロローグ
ぴたりと足が止まった。理由は簡単。俺は雲一つない青空の下、15分もかけて登校してきたのに、学校の昇降口の近くで水の滴る音がしたから。世の中にはそんなことで足を止める人はいないかもしれないが、あいにく俺は小心者だから、こんな些細な事でさえ、足を止めて確認せざるを得ない。人によってはただ単に好奇心旺盛なだけだ、というかもしれないが、、、
雨音の原因もいたって簡単な話だった。俺よりも後から来た男子学生が頭から肩にかけてびしょ濡れの状態で登校してきたからだった。確かに雨音がした理由としては簡単。しかしこの雲一つない青空の下、どうやったらあのような状態になるのか、こればっかりは簡単に想像はつかない、、、一馬でなければの話だが。
「お前は一体どうしたらそんな格好に朝からなれるんだ?」
「朝練後に汗流すの面倒くさがるとなれるぞ」
そんな他愛もない話を、幼馴染である卓球部の遠崎一馬とおざきかずまと美術部の俺、簾藤正臣れんどうまさおみは自分たちのクラスである2-Bの教室にむかいながらしていた。
2-Bの教室は2階にあり、階段を上ってすぐ左にある。教室についたらいつも通りの喧騒だった。俺と一馬の席は黒板に向かって一番後ろの左から2番目と4番目だ。席に着くまでに何人かに「おはよう」や「なんで濡れてるんや」などの挨拶をされ、それに適当に返しながら俺は鞄から紙袋を取り出し、自分の席に置い後、一馬の前の席に座った。
「おみ、タオルもってたりしない?俺さすがにこの状態だと風邪ひくかも。」
かずはなぜか俺の事を「正臣」ではなく、「おみ」と呼ぶ。なんでも正臣は長いそうだ。昔から一馬が「おみ」と呼ぶせいか、クラスメイトの大半が俺の事を「おみ」や「おみ君」という。
「知らん、お前が風邪をひいても俺の学生生活に何ら影響はないからな。どうしても欲しいなら売店にでもいくんだな、あるかどうかは知らんが、、、っとそんなことを話しに来たんじゃなくて、これ返しにきたんだ」
そういって俺は紙袋を一馬に渡した。
「今度は何を貸してもらったの?この前は確か経済評論家の自己啓発本だったっけ?」
そんなことを言いながら左、つまり一番窓際の席に凛とした格好で教科書を眺めていた影倒静えいどうしずかが興味なさそうな顔をしつつも話しかけてきた。
「今回はエッセイだよ。芸能人の引退後の人生とかいろんな人のね」
一馬が紙袋を受け取りながら静に説明した。簡単にしか説明していないが、芸能人が覚せい剤所持で捕まり、その後の人生を綴ったエッセイである。内容が重いため、一馬なりに気を使ったのだろう。
「かずって外見の割りに色々な本持ってるよね。そのせいか、勉強とかできなさそうなのに正臣に負けず劣らずの成績だし、、、この前のテストも学年20位でしょ、、、なんかショック」
「毎回ショック受けられると、まるで俺がいけないことをしているみたいに思えてくるから不思議だよな」
ボソリと誰に言うでもなく一馬がつぶやいた。
「そんなことよりも正臣、その本どうだった?いいなら私にも貸してほしいなって思って」
「なんでかずじゃなくて俺に聞くんだ、、、かずに聞け、まぁかずならいいって言うと思うけど」
~♪(チャイムの音)
チャイムの音共に「さっさと席に着けー」と気怠そうに言いながら担任が入ってきた。
「この本の話はまた後で言うわ。貸してくれてありがとな、一馬」
「おう」と短い返事だけを返し、俺は席に着いた。そしていつも通りの授業を受けて、放課後は美術室で好きな絵を描く。下校の時には一馬と静、時間が合えば巡めぐると話しながら帰る。そんな学園生活が始まる。
これはそんなどこにでもいそうな俺たち高校生が送る学園生活の日々を描いた、そんなお話
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