封印パペコはかならず分割してお使いください

ちびまるフォイ

入れたらいれっぱなし系男子

こんなに寒いのになぜかアイスが食べたくなり、

コンビニでパペコを買ったところ店員から「大丈夫ですか」と気づかわれた午前2時。


「封印……パペコ?」


新しいパッケージデザインなのか、

2つ並んだペットボトル風のアイス容器に「封」が書かれている。


分け合う友達もいないので、

ひとりで家に帰って部屋でアイスを開けたそのとき。


「うわぁ!? く、くも!?」


どこから入り込んだのか小さな蜘蛛が落ちてきた。


手を振り払ったときにはすでに蜘蛛は消えていたが、

寝ているときに口に入り込むのではと、その夜は一睡もできなかった。


パペコすら食べるのを忘れていたし。


翌日、朝テレビをつけるとニュースは同じ話題で持ちきりだった。


『これはいったいどういうことでしょう!?

 全世界から蜘蛛が消えています!!』


『昨日まではいたんだけどねぇ。

 今日になってからケージに入っている蜘蛛たちが全部消えたんだよ』


とはいえ、世界の裏で内戦が起きているニュースを見ながら

平然とFPSをプレイしている無神経な俺の心には響かず


「あ、そうだ。結局パペコ食ってないわ」


と、冷蔵庫を開けた。


「あれ? 蓋閉じてる……」


確かに片方は昨日開けたはずなのに、元通りに封をされていた。しかも開かない。


「くそ。開かない。ハサミ使うか」


すると、ニュースがまた騒がしくなった。


『大変です!! 蜘蛛が! 蜘蛛がふたたび現れました!!』


「……え?」


画面には不自然な白い湯気で隠されてはいたが蜘蛛が現れていた。

ツンデレ幼馴染の好意にも気づかない鈍感な俺でもこれはさすが察した。


「ふ、封印してたのか?」


『待ってください。ハサミが、ハサミが見当たりません!』


「おいおいまさか……」


『大変です! 世界からハサミが消えました!!』


今度はハサミを封印してしまった。

どうやらこの封印パペコは世界からあらゆるものを封印してしまう。


取り出すことはできず、入れ替えることしかできない。

まるで、名前を呼ぶと吸い込んでしまうひょうたんのようだ。


「ハサミがなくなると困るよなぁ」


代わりになるものはなにかないかと考えた。


「大気汚染、とかかな」


パペコの蓋が一瞬開いたと思ったら、世界にハサミが取り戻された。


『見てください! どんな空気清浄機でも解決できなかった大気汚染が

 今ではこのように、地球の裏側まで見えるほど透き通っています!』


「ほ、ほんものだ……!」


いいことしたと満足げに布団についた。


翌日のニュースでも幸せ具合が報道されているかと思いきや、

現地の人や魚や虫たちは不満タラタラでインタビューに答えていた。


「やれやれ。大気汚染が解決なんていい迷惑だよ。

 こちとら、空気清浄機で飯食ってるのに。廃業同然さ」


「ピチピチ。せっかく汚染された川に馴染んできたところギョ。

 なのに、こうキレイにされちゃ、また別のところに行かないとギョ」


「ムシシ……。最悪ムシ。こんなに空気が澄み渡っちゃ、

 鳥たちがオイラを見つけやすくなっちゃうムシィ……」



『以上、現場からでした』



「ええ……そうなのかよ……」


人類の悩みを解決したと思っていたが、そうもいかなかった。

とりあえず、もう一度蜘蛛を封印して、大気汚染をもとに戻した。


「なにを封印しても誰かしらが文句言うなら、

 こんな封印能力いらないよ……」


批判耐性ゼロの俺にとって封印パペコは手に余る。

捨てようにも途中で別のを封印してしまうかもしれない。


「はぁ……捨てるに捨てられないし……どうしよ」


パペコを眺めていると、ふと気づいた。


「これ2つあるじゃん」


本来はシェアしたりするのに使う2本め。

思えばこれまでずっと片方の封印パペコだけを使っていた。


もう片方に「封印能力」を封印すれば、どうなるか。


片側で「蜘蛛」を封印していた能力そのものが封印され、つまりは解除される。


「封印」を「封印」するから、他の誰かが拾っても誤作動の心配はない。


「よしこれだ!! これしかない!!」


2本めの封印パペコを開けよとしたが、今度は全く開かない。

チタン製のハサミですら刃が折れる。


どうやらもう片方は自分以外の人間でないと開封できないらしい。


しょうがないので友達を呼ぶや、さぞ普通のパペコのように分割して渡した。


「はいパペコ。そっちむしっていいよ」

「食べたくないんだけど」


「食べなくていいよ。封印を封印する、とだけ言ってくれ。な?」


「は? 意味がわからない。なんでそんなことを」


「早く言えよ!! 間違ったものを封印しちゃうかもしれないだろ!!」


俺の鬼気迫る表情に友達は恐怖を感じたのかより態度を固くした。

揉めに揉めて、友達のズボンをはぐところまで揉めたとき、借金取りがやってきた。


「邪魔するぜぇ」


「ど、どうしてここに!? 家には来ないといったじゃないですか!」


「こっちも商売なんでねぇ。今回は利息分をしっかり払ってもらいますぜ」

「お願いします! 許してください!」


友達は慣れた速度で土下座フォームにトランスした。


(どうしよう。このまま借金を封印すべきか。

 いや、そんなことすれば封印の封印ができなくなるし……)



「そんな土下座なんて見飽きてんだよぉ!!

 今日という今日は痛い目を見てもらうぜ!!!」


借金取りは持っていたバールのようなものを振りかざした。


「や、やめろーー! 争いをやめてくれーー!!」


友達の血を見たくなかったので叫んだとき、2本めのパペコに「争い」が封印された。


さっきまで世紀末覇者みたいな顔だった借金取りも、

今では動物園のパンダのように優しい顔になっていた。


「……と、まあ、お金はちゃんと返してくれよな。ははは。それじゃこれで」


「行っちゃった……」


あっけにとられる友達。

俺は封印作戦の失敗でブルーになっていた。


「よくわからないけど、お前のおかげだよ!

 お前がいてくれたから借金取りも機嫌直したんだと思う!!」


「お、おお……」


友達は俺のオカルトチックな力を勝手に感じたのかひどく感謝し、

テレビでは秒速で平和条約がガンガン結ばれていった。


『核兵器?なにそれ。そんなことより野球しようぜ!!』


『我々はあらゆる争いをやめて平和に生きることを誓います!!』


『宗教は違っても争うことはなくね?』


ギスギスしていた空気は「争い」の封印により正常化された。

とっさの思いつきだったが、結果的にはこれでよかったと思った。



「なぁ、このパペコ、分割できないぞ?」


友達は封印パペコを引っ張っていたが、

2つともしっかりくっついて離れなかった。


「……ほんとだ。なんでだろ」


思えば、まだこのときは危機感を感じていなかった。




次にパペコが開けられたとき、


封印された「蜘蛛」と「争い」がパペコ内部でミックスされ、

激しい生存競争を生き抜いた凶悪な化け蜘蛛が現れることなど考えもしなかった……。

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