暇だったので"攻撃こそ最大の防御"が異世界でどこまで通用するか試してみる

三日月 夢兎

ゲーム以外で試せる世界

 俺、嘉神 かがみゆうは高校も卒業して就職活動を同級生がし始めるなか自宅のリビングで呑気にゲームをしていた。普通なら両親が鬼の様な表情で注意しに来るだろうが、幸せな事に両親は仕事であまり帰ってこない必要な生活費のみが銀行講座に振り込まれそのお金を使って生活している。

 同級生からも良く羨まれていた、ゆえにゲームの実力はどんどん向上していく一方だった。買ったゲームをクリアしてはまた次を買うそんな事を繰り返している内にふと疑問が浮かんだ。


 それは、良くRPGゲームなどで恐らく大半のプレイヤーが敵からのダメージを軽減するため防具や盾を装備するだろう、別に普通だしむしろ当たり前。

 しかしだ、攻撃なんて当たらなければダメージなんて貰わないむしろ攻め続けて一気に倒してしまえば防具なんていらないじゃないか。いわゆる”攻撃こそ最大の防御”脳筋がやるスタイルである。

 最近は防具なんて装備せずにクリアしたゲームも多かった正直自分でも上手い部類だろうと自負しているが、流石に疲れには勝てないのでゲームを止めソファーに座って休む。


「防具なんて弱いプレイヤーがつけるもんだろ当たらなければいい攻撃こそ最大の防御なんだから単純な話だ。はぁゲーム以外で試せないかな」


 独り言を言っていると当然何もしていないのに、リビングの窓が勢いよく開くホラー映画のワンシーンの様にまさか偶然近くを通ったゲーマーが俺の一言を聞いて怒りにきたか?と慌ててソファーの裏に隠れて様子を伺っていると一人のおっさんが入ってきた。


 開いてるのか閉じてるのか分からない位細い目、頭の先から顎まで伸びた髭と区別がつかない白髪、御先祖様は大根ですか?と疑いたくなるような真っ白な見た目の恐らく70代くらいの男である。もしご近所さんにこんなところを見られたら大変な事になるだろう。

 初めて見た人にとても失礼な事を思っていると気づかれてしまった。


「これそこの若造出てこい。ちと話がある」


 俺は立ち上がってソファーに座ると大根の神様みたいな男も目の前に座る。床から大根が生えてくるとかないよなそんなことになったら一生大根生活……

 まさか、このじぃさん大根の魅力を伝えに来たとか?やっぱり追い出そうかなと考えていると――


「お主さっき面白い戯れ言を言っておったな」

「あぁもしかして攻撃こそ最大の防御の事か?」

「どうじゃゲーム以外で試せる世界に行ってみたくはないか?」


 意味がよく分からなかった、どうやら大根の魅力や俺の言葉に文句を言いに来た訳では無いらしい。ゲーム以外で試せる場所……思い当たる場所は無いし、そもそも魔法は愚か刃物すらやたらに振り回せないこの世に、そんな場所があるはずがないむしろあってはならないだろう。じぃさんアンタの方が戯れ言をいってるじゃないかと安易に答える。


「そうだな、もし本当にそんな世界があるなら行ってみたい」

「決まりじゃな若造ついてこい」


 本気で言ってんのかこのじぃさん、歳のせいで頭のネジが何本外れてんだと思うが手招きをしている。どうせ軽い冗談でその変の空き地に連れて行かれる程度だろうと戸締りをして、ついて行ってみると地震がきたら崩れそうなボロい二階建てのアパートに来た。


「崩れてきそうなアパートだが……」

「まぁ黙ってついてきてみぃ」


 階段を上がって自室に招き入れられると中は綺麗だった、窓はあるがカーテンは付いていないキッチンと押し入れを除けば、本棚が一つあるだけの殺風景な部屋。

 すると、押し入れを開けながらなにやら理解出来ない言葉を小声で言い始めるやはり試せる場所なんて無くてあんな事を口にしてしまったが為に、どうしようかと悩んでいるのだろうか散歩みたいで暇つぶしになったし、初めから無いなんて分かっていた事だ一言声をかけて帰ろうと近づく。


「じぃさんもういいって試せなかったからって、別に何も言わないからさ俺帰るよ?」


 声をかけるが何も返事をせずにひたすら独り言をつぶやいている、あぁなんか面倒な人に関わっちまったなもう夕方だし腹も減ったこのまま帰るか

 玄関に向かうと引き止められる。


「若造帰るでない準備ができたぞ入るのじゃ」

「笑わせるなよじぃさん、そこはな押し入れって言うんだよ。もう冗談には付き合わないぞ」

「なら試してみるがよい」


 会った時は想像も出来ないぐらいに鋭い眼差しを向けるじぃさんを窓から差し込む夕陽が照らす、その姿はまるで神の様な貫禄があった。まさかなと思いつつ俺は押し入れの前まで行く、流石に冗談ならここまで言わないだろうと恐る恐る中に入る。


「いいか若造世界を救えそして神をも超えるのじゃ、お主の攻撃こそ最大の防御とやらを存分に試してくるがよい。少しではあるがわしの力とこの刀を託す、名を神越しんえつきっと役に立つ」


 世界を救う?神を超える?意味がわからない。流石にこれはやりすぎろ!しかもこの刀本物なら絶対駄目なやつだし!扉を叩いて呼んでも返事がなく、開けようと引いてみるがびくともしない。人がぎりぎり入れるスペースしかなく抜刀も出来ない、どうしようかと頭をフル回転させ考えていると。


「頑張れ若造、その刀を完全に使いこなした時こそ世界を救いお主が神を超える時じゃ頼んだぞ。世界最後の希望よ」

「いやいや、無理だって俺が悪かったっから開けてくれよ!」


 小さな丸い光が俺の周りを囲み外では物が落ちる様な音がした、すると一気に強い光に包まれあまりの眩しさに思わず目をつぶる。しばらくすると、光は消えはしたが目を開けてみと少しくらんではいたが青空が広がっていた、辺りを見回すと今どうやら芝生の生えた場所で仰向けになっているらしい。


 真上にはじぃさんから貰った刀遠くには山や森が見えた。とりあえずまずここが何処なのかを確かめなきゃならない、じぃさんの言う通り異世界なのか単なる悪戯だったのか。芝生や汚れをはいながら刀をとり立ち上がって歩き出すがため息が止まらなかった。


「はぁどうしたものか交番とかないかな。こんな刀渡され挙句の果てには

 どこだよここ、あのじぃさん次会ったら切ってやる……少し試してみるか」


 他の色が一切入っていないまさに純白な刀を抜刀してみると意外とズッシリ重かった、流石に何回も振るのは無理でも切れ味を見る為に興味本意で軽く振り下ろしてみると、目の前にある景色が何故かずれている様に見えたが少し経つと元に戻った。


「まさかな?来る時強い光浴びたから錯覚みただけだろ」


 次は先程より強く振り下ろしてみる、するとより大きく景色がずれ地面が砂埃すら立たずに十五メートル先くらいまで綺麗に切れていた。当然信じられなかった確かに刀は切れ味が良いと聞いたことはあったが、間違いなくここまで良いはずがない持っている手が少し震える。仮にここが異世界ではなくても現実世界には無い物を手にしたのだと怖くなってきた。


「あら凄いわ本当に良く切れるのね!」

「そうなのよぉ凄いでしょう?」


 近所の奥様に見せたら恐らくこんな反応をするだろう、仮に商品化するとしたら……家もきれーるだろうな。一家に一本家もきれーる!この恐ろしい切れ味を是非ご家庭で!んな訳あるか一人芝居をやめて歩き出すとある事に気づく人に会わなさすぎる、まさか美少女は愚かここにはモンスターしかいません残念でした。だったら俺の異世界生活は家もきれーるを紹介して終了なんですが……

 しかし、足取り重く歩いていると唖然とする光景を目の当たりにする。


「マジか……」


 かなり距離があるにも関わらずまるで焦げたトーストの様に黒い巨大な門、お世辞にもお洒落とは言えない設計士のセンスの無さを感じさせる石畳の橋、きわめつけは、ごめんなさい少し設計ミスしましたと言わんばかりの無駄に長い石壁に囲まれた要塞の様な場所だった。


「このまま野宿は流石にまずいな情報収集するか……はぁ」


 橋の前までくると何で今まで会わなかったんだよと思わせる数の人や兵士が行き交いしている、よく目を凝らして見てみると人間だけではなく尻尾が生えていたり通るのに邪魔そうな羽の生えている人種もいた、どうやら本当に異世界に来たらしい。

 そして、これから渡ろうと言う時に後ろから肩を捕まれる。


「おう、にぃちゃんここは怪しい人は通れないぜぇ?」


 鏡を見てから言えと思うほど巨大なリーゼントに腰には盗んだものか分からないが恐らく髪を整えるためにあるクシ、そして立派なナイフがホルダーに刺さっていた。

 こんな容姿の奴に怪しい者扱いされるなんてな、ちなみに俺は黒いシャツにフード付きのパーカにジーパンである。向こうからしたら十分怪しかったかさっきからたまに見られるし、ましてや白い刀なんて持ってたらこんな煙突みたいな頭の奴にも話しかけられるか。


「あの何の御用でしょうか?えん――お兄さん」

「おめぇよ随分といい刀もってるじゃねぇのくれよ」


 クシで髪を整えながら神越を指さす。お前には刀よりクシの方がお似合いだろなんなら屋根の上で直立して煙突のふりしてても気づかない。そして、今更だが男の後ろにも何人か同じ髪型をした仲間が腕を組みながらこちらを見ていた、集まってみると心無しか工業地帯を見ているかのようだった。


「 いや無理ですね大切な物なので」

「ほぉ泣かされたいのかなぁ?ぼうや」


 徐々に日も落ち夕方になり始めていた、このままこいつに時間をさくのは勿体ないので提案をする。


「なら俺から奪ってみてくださいよ煙突頭さん」

「今なんつった煙突頭だ?ガキが更には奪ってみろだと?調子に乗るなよ」


 男が怒りに任せナイフを持って距離を詰めてくる。俺は勝ちを確信した間違いなくこいつは俺が斬り合いをしてくると思っているだろう、だがな異世界は甘くない今からなんか良くわかんない現象でその煙突を体と一緒に真っ二つにしてやる。しかし、他の無関係な人々を巻き込む訳には当然いかないので忠告をする。


「みなさーん危ないのでどいてください!」

「お前馬鹿か?なんであいつらがあぶねんだよ刀じゃ俺にすら届かねぇよ」


 走りながら笑う男につられて仲間も笑いだす、普通はそう思うだろうもし俺が逆の立場でも笑うなにせ見た目はただの刀なのだから。ゆえにこうして相手を油断させ葬る事が出来るのだ。


「さようなら……」


 無造作に神越を振り下ろす、空間が歪み地面が切れ男は鮮血を散らしながらその場に倒れ絶命した。その様子を見ていた仲間や人々の大半が叫び声をあげ逃げて行くのと入れ替わる様な形で何人か兵士が様子を見に来る。


「さぁ、話を聞かせてもらおうか怪しい奴め」

「まぁそりゃそうだわな」


 少しやり過ぎた様で、俺は神越を奪われ手枷をかけられてから猛獣の様に鉄格子に押し詰められ連行されるのだった――








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