017 大ホールからの脱出
「ふぅふぅふぅ。あともう少しでようやくにつくのですよ~ ほら、あそこに見えてきたピンク色の建物が私たちの常宿にしている宿屋さんなのです~ あらマーシャさん、こんなところで、こんにちわーなのです~」
シエルはフウフウと息を切らせながら両手に大きな買物袋を下げて、宿屋の前でバッタリと出会ったマーシャに挨拶をした。
「おやシエルさんか、おかえりなさい。また随分と遅くなってご苦労さまじゃないか。それでなんだい、その大きな袋を2つも担いできてさ」
「この荷物はハルちゃんのお着替えに必要な物が入っているのですよ~ 大荷物になってしまったのは訳ありなので話すと長くなるのでまた後にしますね~ あっとそうだわ。こちらは今日からお世話になる宿屋のご主人でマーシャさんって言うんだよ~ ほらハルちゃんからもご挨拶をお願いするんだよ~」
「今日の朝にこれから病院へ行ってお迎えに行ってくるって言っていた子供のことかい? そんな子はアンタの周りにゃ最初からいなかったように見えたんだがねえ」
「やだもう、マーシャさんはからかい上手で困ってしまうのですよ~ ほらマーシャさんが冗談を言ってくださっているうちに、黙ってないでハルちゃんもマーシャさんにご挨拶をしてくださいなのですよ~ そうしないとお姉ちゃんはプンプンになっちゃうのです~」
シエルは半分むくれた顔で首を後ろにして見るとそこにいるはずのハルカの姿はなかった。シエルは青ざめてよく確認しようと今度は後ろに振り向いてハルカの姿を探した。だがハルカの姿がどこにもいないことを確認するとシエルはとたんに慌てだした。
「ハルちゃんが、ハルちゃんが、いなくなってるぅ~!!」
「だからいないって言っているだろう。アタシの目がおかしくなけりゃハルカさんはここへはついてきてないってことだ。こりゃどうやらどこかで、、って最後までお聞きよ! ねぇおまちったら、シエルさんっ!」
シエルはマーシャが話をする途中で宿屋の外からもう走り出していた。
☆
☆
バタンッ
カルロから開店の準備をするのでここにいろと命令されたけれどもちろん従うつもりはなかったのでオーナー室のプレートがある部屋を後にした。開店の準備と言って急いで出ていったけど、これから開いて営業するお店ってなんだ? この建物を見たのは薄暗くなった後だったからよくわからないのだ。
建物内に入ってきたときに大部屋らしきものがあったことを考慮すると、パッと思いつくものといえば食事屋かそれとも酒場か。まさかとは思うがいかがわしいストリップ劇場とか、、、ま、まさかな、ハハハ。しかしオレが誰かと間違われているいうことだけははっきりとしているな。これまでの会話の流れからするとカルロに弁明をしても聞いてもらえない公算がとても高い。それならばここは黙って消えてしまうのがよさそうだ。
、、、カチャ、カチャ、、、
「うん? なにやら前方の方から物音がしているぞ? これは、、、どうやらガラスを磨いている音のようだな」
音がする部屋を警戒しながら覗いてみるとそこはやはり大ホールのようで無数のテーブルとイスが並べられた大部屋だった。すぐ近くの通路口には横に20人程度はらくに腰掛けられる年季の入ったカウンターテーブルが置かれており、その後ろの壁棚には様々な種類の酒とそれに組み合わされた種類のグラスが整然として配されていた。
カルロはカウンターの中であるグラスの一つを丁寧に拭いていた。カチャカチャとガラスが鳴っている音がこちらまで響いている。カルロのいるさらに遠くの向こう側には俺が連れてこられた出入口が見えていた。その距離まではおよそ40mで一気に走り抜けたところだがオレの体はまだ幼くついでに言えば退院したばかりで体力がないので途中で息切れは確実だった。
時間がかなりかかってしまうことにはなるが、やはりここは一旦戻って裏手のある勝手口などを探すことをしたほうがよいのだろうか。としばしの間思い悩んでいるとそれは大ホールのほうから突然に大きな音が聞こえてきた。
ガタッ、ガタ、ガターーーン!!
ガタン、ガタッ、ガタターン!
「なにが起こったんだ??」
それは大きな物が倒される音だった。これはただ事ではないと冒険者時代の習慣からすぐに警戒態勢に入り、身をかがめていつでも咄嗟に動ける姿勢をとった。
それからしばらくしてそっと部屋を覗くと大ホールの中ではテーブルやイスのいくつかが倒されていることがわかった。さきほどハデな物音をたてていた原因は恐らくはあれなのだろう。
「ふひゃふひゃっ、ふひゃっふひゃっ」
気味の悪い笑い声がしたので視線を移してみると、悪党と思われる風体の凸凹コンビになる3人の男たちの姿があった。このうち1番背の低い男が今も下品な笑い声を発していたところだった。
俺はこれを好機だと捉えて大ホールにあるテーブルとイスの影に隠れながら移動して外へと出る出入口側に近づいていった。15mほど進んだときにオレはカルロが悪党の3人組に囲まれている状況を初めて知った。
男たちの足元ではカルロが腰を抜かして震えていた。そこにはオレが見た支配者的イメージは鳴りを潜めて悪党に怯えるばかりの情けない姿があり威厳は微塵も感じられなかった。
「へっへっへ。よう、カルロさんお久しぶりだな。いよいよこの店を畳む決心がついてきたころじゃねえのか。こうして優しく言っているうちにさっさと判を押したほうがいいぜぇ。でないとそのうちにこうした脅しをするだけじゃあすまなくなってくるからな」
「アニキの言うとおりにしておいたほうがいいぜ。(ナイフを取りだしてカルロの頬に)ピタピタ。ケッ。この辺りには小綺麗で新たな商店がわんさかできてるっていうのによう、この店だけが辛気臭くてやたらカビ臭いとはどういうことなんだ? ご近所様からはさぞやお面汚しをしているってことがわからねえのかよ。ピタピタ」
「ふひゃふひゃふひゃ。これでカルロの旦那もよくわかってくれたようだな。いいか、あと1週間だ。一週間したら返事をしてもらうぜ。そのときまでにここの店の土地と建物の権利証を用意しておけ。じゃあなカルロさん、次にやってくるときにはよい取引を期待しているぜ」
男たちは口々に吐き捨てるようにカルロへそう言うと、高笑いをしながらこの大ホールから立ち去っていった。
腰を抜かしてへたりこみ自失茫然となっていたカルロはとても不憫に思えたが、気の毒にと思いつつもこれはチャンスとばかりにこの建物の中からさっさと逃げだしたのだった。
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