オタクがタワーマンションに住んだら何故かラブコメが始まった
クボタカヒト
第1話
僕の名前は
一週間ほど前に駄目下で買った宝くじが見事当選し、総額7億円を手に入れた僕は、住んでいた賃貸アパートから市内にできた高級分譲タワーマンションに引っ越した。
それからしばらくしてのある日———。
ピーンポーン!
「ん?誰だろう?」
昨日買ったばかりの八〇インチの液晶テレビで録画した深夜アニメ『異世界で魔王の娘の執事にされました』を見ていた僕は、モニター付きインターホンの受話器ボタンを押した。
インターホンのモニターには、僕がよく知る人物が映し出された。
「よっ! 遊びに来たよ!」
「………」
「ん? もしもし?聞こえてるー?」
「……。どちら様でしょうか」
「モニターで見えてるんでしょ!私よ、ワ・タ・シ!」
「……………」
仕方がなくフロントの開閉解除ボタンを押す。
しばらくして玄関のチャイム音が鳴ったので、渋々玄関のドアを開ける。
「よっ!
「何の御用でしょうか?」
「何でって、アンタが高級マンションに引っ越したって言うからどんなんかな~と思って」
「それで来たと?」
「そうっ!!」
「事前に連絡してくれるとうれしいんですけど」
「ごめんごめん。だって、連絡したらアンタ絶対断ると思ったし」
「それでアポなしで突撃訪問してきたと」
「そういうこと。という訳でおっ邪魔しまーす」
僕はその女性を部屋に入れてしまった。
このポニーテールの女性は
僕と同じ会社で働く一年先輩であり、入社当時から何かと僕に絡んでくる先輩である。
社内で僕のオタク趣味を知っている数少ない人物であるが、僕のオタク趣味を理解はしていないが否定はしていなく、一応受け入れてくれているらしい。それよりも——————
「…………っ」
普段会社で居る時はリクルートスーツだが、プライベートではこんなにお洒落した格好をしているのか。
5月の下旬で少し暑くなってきたかもしれないが、少し肌の露出度が多くないか?
「うわ〜。折角の広くて綺麗な部屋が台無し」
〝台無し〟なのは認めよう。
何故ならこの高級感溢れるこの部屋の壁には、一面にアニメやギャルゲーのポスターやタペストリーが額に入れられて飾ってあり、高級素材でできた本棚にはアニメ雑誌やギャルゲーのパッケージ、本棚にはラノベ小説やコミックがびっしりと置かれているからだ!
更に、お洒落でインテリアな棚にはアニメキャラクターやゲームキャラクター、ロボットのフィギュアが綺麗に飾られているのだ!
「これがいわゆるヲタク部屋って言うの?」
「まあ、そうなりますね」
「こんなリッチな部屋をどうしたらここまで痛くできるのよ」
「さあ、もう十分でしょ?早く帰って下さい」
「ええっ!? 何でよ?まだ来たばっかりじゃない。もう少し居させてよ!」
「何言っているんですか!少しは警戒心を持ってください!」
「え? 何が?」
分かりやすく首を横に傾げる屋敷部さん。
「貴方は女の子なんですよ!」
「もう、女の子って言える歳じゃないんですけどっ……あはははは」
屋敷辺さんは少し照れた顔をする。
「そうですけど!じゃなくても貴女は女性なんです!女性一人が男の家にそう軽々しくあがり込んだら駄目しょ!」
「にしてもアンタがこんな広い部屋で一人で住んでるなんてねぇ……、私の家より広いじゃない!なんかムカつく!」
「ちょっと聞いてるんですか!少しは自覚を持ってください」
「別にいいじゃない。アンタの家なんだし」
屋敷辺さんはリビングのソファーに飛び込む。
「うわー!なにこのソファー!ふかふか!」
「…………」
屋敷辺さんはそういうところのガードが緩いのだろうか?男の家に1人で平気にあがり込むとは。—————無防備過ぎる。
「まさか、他の男性の家でもこうして平気であがり込んでいるんじゃないでしょうね?」
「私がそんな軽い女に見える?彼埼の家が最初だよ」
「へ?」
僕の家が最初………?
ん? つまり、屋敷部さんを初めて家に招き入れた男性は僕が最初ってことになるのか?
「私、他の男の家に行ったこと無いし」
「え? そ、そうなんですか?」
「そうだよ?何で?」
「い、いえ……、何でもないです」
「それよりちょっとさ〜、お客さんには何かおもてなしするもんじゃないの〜」
「分かりましたよ。ちょっと待ってください」
「お酒ある?」
「ある訳ないでしょ。僕がお酒飲まないの知ってるでしょ。それに、あったとしても出しません!」
「えー!」
屋敷辺さんは僕に対して警戒心を持っていないのか?そんな無防備な服装で。
僕を男性だと意識していないのか?
「どうぞ」
「あっ! たしかこれ、新発売のチョットお高いオレンジジュースのやつでしょ?」
「ええ。売ってあったので買ってみました」
「私、これずっと買って飲みたいと思ってたんだよね〜!でもお値段的に手が出せなかったんだけど、まさか彼埼んちでタダで飲めるなんて考えてもみなかった!毎日飲みに来ようかなぁ」
「通わないでください!まだあるんで後で持って行っていいですから」
「え、いいの!? ありがとー!」
「それ飲んだら帰って下さいね」
「ええ!? もうちょっといいじゃない、ケチ!」
「いつまでいるつもりなんですか」
「私が満足するまでっ♪」
「勘弁してください……」
「この後なんか用事でもあるの?」
「いや、とくになにもないんですけど」
「そ。ならいいじゃない」
いいのかよ!そこは遠慮して帰るところだろ!
「———ねっ!なんかしない?」
「は?」
「折角来たんだしなんかしようよ」
「なんかってなんですか?」
「何したい?」
「僕に聞かないでください」
「ゲームとか無いの?」
「ギャルゲーしかないですけどやってみますか!?」
「普通のゲームとか無いわけ?」
「ありません!」
「ウソでしょ……?」
「僕にとってゲームと聞いて浮かぶのはギャルゲーしか浮かびません!」《ルビを入力…》
「マジか〜」
「それかアニメでも見ます?」
「遠慮するわ」
「そうですかぁ、残念です……」
「(そうだったコイツ、根っからのオタクなんなんだよねぇ……。顔はそれなりに悪くないのにどうしてこんなに残念なのかなぁ……)」
「……ヲタクとやることなんて何もないですよね」
屋敷辺さんは少し黙り込むとふと壁の時計を見た。時刻は午前11時半。
時刻を確認した屋敷辺さんがふと僕に尋ねる。
「……ねえ」
「はい?なんですか?」
「彼埼って自炊ってしてるの?」
「してませんよ」
「え?じゃあご飯とかいつもどうしてるの?」
「コンビニで弁当を買うとか、インスタント食品とか冷凍食品を食べてますけど。それがなにか?」
「はあ!? アンタそんなに金持ってるのにコンビニ弁当!?アンタ、私に喧嘩売ってるの?」
「仕方がないじゃないですか。仕事で疲れてて料理とかしたくないですし、それに元々僕は自炊とか苦手ですし」
「レストランとか行かないの?」
「一人でレストランに行ったら変に思われるじゃないですか」
「いや、それは無いと思うけど……」
「それに、レストランで食べるより家で食べたほうがお金掛らないですし」
「金持ちのクセにどうしてそんな貧乏くさいのよ……。そんな偏った食事してたらその内腹壊すよ」
「———うっ!た、確かに……あ、そうだ!サラダを買えばいいんだ!弁当とサラダを買えば――――」
「そういう事言ってんじゃないの!」
「え?」
屋敷部さんが呆れるようにため息を吐く。
「はぁ……。丁度お昼前出し、なんかご飯でも作りますかー」
「へ? 何言っているんですか?」
「だから、アンタに料理を御馳走してやろうって言ってんの」
「はあ!?いいですよそんな事しなくても。一応、お客さんですし」
「私がしたいの!ちょっと台所入るよー」
「あっ、ちょっと!」
屋敷辺さんは有無を言わさず台所に入るや否や、人様の冷蔵庫を勝手に開けだした。
「————ウソでしょ? アンタの冷蔵庫の中、殆ど何も無いじゃない!」
「一人暮らしの男の冷蔵庫なんてこんなもんですよ」
冷蔵庫の中を目の当たりにした屋敷部さんはゆっくりと扉を閉じてしばらく悩んだ末に、くるっとこちらに振り向いたかと思うと
「よし、彼埼!」
「なんですか?」
「買い物に行くよっ!」
「え、これからですか?」
「お昼には間に合うから」
「そういうことではなく!何故今?」
「ほら、早く行くよ」
「え!?ちょっと待って下さい!」
こうして僕と屋敷辺さんは歩いて10分のところにある近所のスーパーに向かった。
「ねえ、彼埼」
「なんですか?」
「お昼、なにがいい?」
「何でもいいですよ」
「その言葉、禁句って知ってて言ってる?」
屋敷辺さんが振り向き様に僕を睨む。
「すみませんでした。というか僕が決めていいんですか?」
「当然じゃない。彼崎が食べたいもの言っていいよ。ただし」
「ただし?」
「彼埼でも作れるもので」
「へ?」
「へ?じゃないつーの! 私だけが作れったって意味がないでしょ。彼埼がこの先自分で自炊できるようにならないと」
「なんで僕が作るんですか?」
「金持ちであんな良いキッチンがあるところに住んでるのに、コンビニ弁当とかインスタントとか食ってるんじゃない!」
「余計なお世話です」
「一人暮らししてるんだったら、料理の一つや二つぐらい作れるようになりなって」
「貴女は僕のお母さんですか」
「なんか言った?」
再び睨まれた。
「いえ、なんでもありません」
「うむ。よろしい」
こんな会話をしながら歩いていたらいつの間にかスーパーに着いてしまった。
「さて、それじゃあ行きますか!」
「マジですか」
「ほら、いくよ彼埼」
「はいはい」
僕がスーパーに足を運ぶときは殆どインスタント食品を買いに来るときかおやつを買いに立ち寄るぐらいだ。コンビニには売っていない商品が売ってることがあるから頻繁に利用することがあるが、まさか、料理の食材を買いに来るために足を運ぶことになろうとは……。
「で、結局どうする?」
「何をです?」
「だ〜か〜ら、お昼の献立!」
「どうしましょうね」
「彼崎でも作れそうな料理ってなにがあるかなぁ……」
屋敷辺さんがカートを押しながら野菜コーナーを覗く。
「————ねえ、彼埼」
「なんですか?」
「彼埼は和食と洋食、どっちが好き?」
「そうですね……、どちらかというと和食ですかね」
「和食かぁ」
「あの、屋敷辺さん」
「なに?」
「屋敷辺さんはよくこうして料理の食材を買うためにスーパーに来たりするんですか?」
「そうだけど?」
「そういえば、屋敷辺さんって昼はいつも弁当ですもんね。コンビニの方じゃなくて手作りの方の」
「まーね。いつも早起きして作ってるから」
「すごいですよね。じゃあ、朝昼晩のご飯もなるべく作ってたり?」
「なるべくね。あまり、インスタントとかの類いは太りやすいから避けてる。ダイエットも兼ねてね。余裕があるときは作るように意識はしてる」
「へぇ〜」
「だからアンタもそんな食生活続けてたら太るよ」
「僕は新陳代謝がいいので太りにくいから平気です」
「うわっ、ムカつく」
屋敷辺さんが僕の腕にパンチする
「いてっ」
「にしても―――」
「はい?」
「こうして二人一緒に買い物してたらさ、周りからは〝夫婦〟に見えちゃったりするのかな………」
「………っ」
「ん? どうしたの彼埼?」
「いや、屋敷辺さんはそういうことをサラッと言えるんですね」
「何が?」
「いえ、なんでもありません」
屋敷辺さんの今の言葉は特に意識せずに言った独り言。他意はないのだろう。
そういうことを軽々しく言うものじゃないですよ屋敷辺さん。世の男共が勘違いしちゃいますよ。
二次元が好きな僕が言うのもアレだが、屋敷辺さんは三次元の中では結構美人な方だ。高身長でスタイルがいいから薄着だと尚、体のラインが出やすい。
「ん~、どうしようかなぁ」
「…………」
「彼埼もなにか考えてよ」
「わかっていますけど」
と言われても、僕に作れそうな料理ってなんだ?まともに台所に立ったことが無い僕にできる料理があるのか?
「ん~。和食だからご飯とみそ汁は必須だよねぇ」
「そうですね」
「問題はおかずかぁ」
「肉じゃが、焼き魚、和え物に、後は———」
「どれも彼崎にはちょっとレベル高いね」
「そうですね」
「うん、よし決めた!」
「何か思いつきましたか?」
「うん!」
「何です?」
「豚肉と野菜の炒め物!」
「……あぁ」
「あれ?もしかしてあんまりピンときてないかんじ?」
「はい」
「どういう料理かわからない?」
「炒める料理ということはわかりますが」
「それ以外は?」
「あまり……」
頭を抱え愕然とする屋敷部さん。
「はぁ~。………彼崎って家ではいつも何を食べてたのよ?」
「コンビニ弁当とかインスタントとか」
「それは今でしょ。昔よむかし!実家にいた頃にお母さんに料理作ってもらったでしょ?」
「いいえ、ありません」
「えっ?」
「うちの両親、僕を生んでからもずっと共働きだったので、母親は料理する暇もなく仕事一筋でしたから」
「え、じゃあ彼埼はお母さんの料理を食べたことないの?」
「ええ、ありません。いつもコンビニ弁当でしたので」
「…………っ」
その時、屋敷辺さんが僕を見る目が変わった。悲しい瞳をしていた。
そして何か決意したかのような顔つきになったかと思うと―――――
「やっぱり、今日、彼崎に会いに来てよかった」
「え、屋敷辺さん?」
突然、屋敷辺さんが僕の手を掴んで歩きだした。
「予定変更!」
「え!?」
「料理教室は中止!」
「ええ!?」
料理教室するつもりだったのかこの人!?
「私が作る!」
「どうしたんですかいきなり!?」
「ささっと材料買って帰るよ!」
屋敷辺さんはそう言うと次々とカートに食材を入れ込み、会計を済ませてスーパーを出た。
そして、僕の部屋に帰宅すると――――
「彼埼は座って待ってて」
「あ、はい」
僕は言われるがまま、ダイニングテーブルの椅子に座る。
最新のIHキッチンで野菜を切っている屋敷辺さんの姿を、僕は唯々見ているだけだった。
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