朝焼け、まで ~映画「野獣死すべし」に捧ぐ~



ゴミ箱から出された紙切れは

いつかの どこかのコンサートチケット

クッションが少し効いたフローリング仕様の床の上

たくさんの電気コードがとぐろを巻く


スナイパーシンドロームは かつての他愛の無い夢

巻き戻しボタンと

再生ボタンと 一時停止ボタンを駆使

黒のハンチング帽子は目深にかぶる

背筋を伸ばし

瞬きは極力控え

手を前に組み

低い声で言葉少なに呟く

オペラはいらない

ミュージカルもいらない

涙も

微笑みも要らない

君も

要らない


おっと デッキシューズでの入室は断る

ここは 白濁した僕の個室

絵にならないキャスティングも遠慮してもらおう

ルーペとコンパスだけを机上

地図はきっとどこかにあるはず

洋書の本棚か

暗室のロープに吊るしてあるはず

ずぶ濡れのステンカラーコートは

もうとっくに 乾いているはず

だから

LP盤のB面の針は

随分前から

真ん中を

行ったり 来たり



カーテンは開けないよ

きっと もう 夜が明けてきている

少なくとも

この部屋よりも明るい空が

そこには

あるはずだから



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